うっすらと汗をかいた後の肌に、夕暮れ間近の空気が冷たく忍び寄ってきた。 まだけだるさが体のあちこちに残っている。 「ああ……眠っちゃったのか」 これが夢の中でないことを確かめるように、声に出してみる。 子どものように僕の体を貪った彼は、再び仕事に出てしまったらしい。 営業で近くまで来たから、と言って部屋に入ってくるなり 彼は僕のシャツをはだけて脱がす間も惜しいと言わんばかりに 胸にキスを降らせ、ズボンを引きずり下ろした。 いつも僕の反応をみながらじらすように抱くくせに、 その時の彼はただ何もいわず、 噛みつくようなキスをしながら性急に押し入ってきた。 どんな嫌なことがあったから、あんな無茶なことをしたくなったのだか。 すごく聞きたかったけど 目を閉じて全てを忘れようとしている彼の顔を見ていたら そんなことはどうでもよくなった。 いま彼を受けとめているのは僕で、 彼は僕の体がもたらす快楽に溺れている。 いまの彼にはその快楽しか存在していない。 そのことが痛いくらいにわかってしまったから。 おそらく我にかえった彼がかけてくれたらしい毛布をたたみながら 僕は彼の背中に残したはずの爪跡のことを思う。 もうじき苦情混じりの電話がかかってくるはず。 「今日一日、上着脱げなかったぞ」って。 でも今日は謝らない。 そのかわり一晩中優しくしてあげるから、早く帰ってきて。 眠りにつくまで、僕はあなただけのものだよ。 |