|
サクラサク 〜2度目の恋 18才〜 |
|
今日、第一志望の大学から合格通知が届いた。
何校か受けた大学のうち第一志望だったそこは、抜きんでて遠いところにあった。
それが、第一志望の理由だった。
高名な大学にしたのは、親や学校を黙らせるため。
ほんとうはどこでもいいのだ。
この街を出られるのなら。
自宅通学などとてもできないくらい、その大学は遠かった。
僕の祈りは、叶えられたのだ。
卒業間近の学校には人気がなかった。
学校の門から正面玄関まで続いている桜並木は、今が盛りとばかりに真白に輝いていた。
風が枝を嬲るたび、雪のように花びらが僕の視界を埋めていく。
桜は狂気だ。
春の惑いはその花びらとともにかりそめの終焉をむかえ、
また再び新たな狂気を蓄えていく。
僕の狂気もこの白い雪片と共に溶けてゆくのだろうか。
味気ない報告をすませたあと、白い乱舞の中に身をゆだねる。
仰いでみつめているのは枝の向こうの青い空。
おそらくもう二度と見ることはない、いまこの瞬間のこの空のことを、
僕は素直に美しいと思った。
世界はこんなにも、美しい。
言葉などいらない。
彼はそう言った。
そんなものなくても、わかりあえるのだから、と
あのまぶしい笑顔のまま、彼は僕を振り返った。
でも彼は、この街を出ていく僕を知らない。
何週間後かに消えてしまう僕を知らない。
彼が信じていたのは何なのだろう。
そして、僕が見ていたのは何なのだろう。
この胸を焦がす痛みは いつか消えるのだろうか。
彼と同じ大学の合格通知を、小さく引きちぎって、風にまかせた。