今日、第一志望の大学から合格通知が届いた。 何校か受けた大学のうち第一志望だったそこは、抜きんでて遠いところにあった。 それが、第一志望の理由だった。 高名な大学にしたのは、親や学校を黙らせるため。 ほんとうはどこでもいいのだ。 この街を出られるのなら。 自宅通学などとてもできないくらい、その大学は遠かった。 僕の祈りは、叶えられたのだ。 卒業間近の学校には人気がなかった。 学校の門から正面玄関まで続いている桜並木は、今が盛りとばかりに真白に輝いていた。 風が枝を嬲るたび、雪のように花びらが僕の視界を埋めていく。 桜は狂気だ。 春の惑いはその花びらとともにかりそめの終焉をむかえ、 また再び新たな狂気を蓄えていく。 僕の狂気もこの白い雪片と共に溶けてゆくのだろうか。 味気ない報告をすませたあと、白い乱舞の中に身をゆだねる。 仰いでみつめているのは枝の向こうの青い空。 おそらくもう二度と見ることはない、いまこの瞬間のこの空のことを、 僕は素直に美しいと思った。 世界はこんなにも、美しい。 言葉などいらない。 彼はそう言った。 そんなものなくても、わかりあえるのだから、と あのまぶしい笑顔のまま、彼は僕を振り返った。 でも彼は、この街を出ていく僕を知らない。 何週間後かに消えてしまう僕を知らない。 彼が信じていたのは何なのだろう。 そして、僕が見ていたのは何なのだろう。 この胸を焦がす痛みは いつか消えるのだろうか。 彼と同じ大学の合格通知を、小さく引きちぎって、風にまかせた。 |