胸
猫に鈴

「これのどこが育ってない、って?」
クソ生意気な近所のガキだった千砂が、
いつのまにかセーラー服を着る年ごろになっていた。
年の差が8つともなれば気分はほとんど保護者同然。
こっちが自由業で日頃家にいるのをいいことに、
毎日のようにいりびたっては勝手に部屋を荒らして帰っていく。
こっちが暇な時はかまってやるが、そうでないときはほおっておく。
それは、気ままな外猫を飼っている状況に似ている。
もちろん悪さをしたら叱るし、生意気言えば尻のひとつくらいはひっぱたく。
「それが15才の乙女にする仕打ち〜?」
まっかになったお尻をさすりながら涙目で見上げる千砂を
「乙女ってガラか、お前が。ちっとも育ってないくせに」と一蹴すると、
その言葉がよほどかちんときたようで、
がばっとセーラーを脱ぎ捨て、冒頭の台詞とあいなった。


あっけにとられた俺の表情がよほど小気味よかったとみえて、
千砂は生意気にも薄笑いをうかべて、ブラを落すと
むき出しになった胸をつきだすようにポーズをとって見せた。
「どお? おっぱい大っきくなったでしょ〜?」
なるほど、自慢げに言うだけあって、
二つのふくらみは形といいボリュームといい文句のつけようがない。
が、体だけは一人前に育ったようだけど、
どうやら中身まではついてきてないらしい。
「………どれだけ育ったか、確かめてやろうか?」
え? と不意をつかれた千砂が目を丸くしているスキに、
素早い動きで乳房を撫で上げてやった。
「ひゃんっ!」
たちまち耳まで真っ赤になって、すっとんきょうな声をある千砂。
片腕をウエストにまわして逃げ道を塞いでから、
残った片方の手で、今度はゆっくりとやわらかなふくらみを捕える。
「なぁ、千砂?」
耳にくちづけるように囁くだけで、びくり、と体が跳ね上がった。
「感じてるか? ちゃんと。でかくても感度が悪いと意味ないんだぞ?」
わざとゆっくりと指先を肌に埋め込むようにして、形のいい乳房を揉みしだいてやる。
「や! やだっ……え、えっちっ!」
さっきまでの余裕が嘘のように、俺の腕をはずそうと躍起になる。
「そう、男はみんなえっちなんだぜ。知っててやったんだろ? 千砂」
暴れる体をしっかりと押さえつけ、その喉元をきつくきつく吸いあげた。
「いたっ!」
一瞬顔をしかめ、千砂はやけに頼りない表情になって俺を見上げた。
まだガキの頃、叱るとよくこんな顔で俺を追いかけてきたっけ。
生意気ばっかり言うから忘れてたけど、昔はけっこうけなげだったよな。
そんなことを思い出しながら、頬に今度は優しくキスを降らせて、
腕の戒めから解放してやった。
「懲りたら、もうこんなマネするなよ」
千砂が俺の言葉を理解するまで、しばしの間が必要だった。
ふたたび茹でダコのように真っ赤になった千砂に背中を向けて、
途中だった仕事に取り掛かろうとする。
と、細い腕がそれを引き留めた。
「千砂?」
まだ上気した頬が俺の腕に押し当てられる。
「もっと、してもらいたかったら、どうすればいいの?」
うつむいたまま、聞きのがしそうなくらい、小さな声。
「………そうだな、キスでもしてみれば?」
かすかにつばを飲む音がきこえた。
千砂は潤んだ目で俺を見上げると、ゆっくりと背伸びした。


白い首すじに残った花びらのような紅。
どうやら俺は、猫に鈴をつけるのに成功したらしい。