七海ちゃんの気持ち
ANNA様

「ほら、男の子でしょ。もっとしっかり掻き混ぜなさい。」
 あふろママの叱咤が飛ぶ。
「何で、男の僕がバレンタインのチョコつくんなきゃなのさ。」
「文句は言っても、手は休めない。」
 すぐ横でチョコレートの巨大な塊を、包丁で削っていた安奈ねーさんがちろりと睨んだ。
「ママ、フルーツコレくらいで良い?」
 流しの所では、永江ねーさんが刻んだ果物をボールに積み上げている。
 なにしているのかって?
 お客さんにバレンタインサービスするって言うので、いつもより早くに出勤して、チョコレートを作っているのだ。
 イチゴやバナナやりんごにチョコレートでコーティングして、来たお客さんにプレゼントするんだそうで…。
 飾り用に生クリームを泡立てているんだけど、機械じゃなくて手でやっているものだから疲れた…。
 厨房にチョコレートの香りが満ちている。
 溶かしたチョコレートに、爪楊枝で刺したフルーツをくぐらせる。
 生クリームでトッピングして、カラースプレーをまぶして、出来上がり。
「これきっと、七海のより立派だよ〜」
 安奈ねーさんが、一本丸ごとのバナナをコーティングして見せびらかす。
「悪かったね!」
 からかわれているのはわかるんだけど、反論できないのが悔しいよー。
 悔しがる僕を見て、おねーさん達(こう言わないと怒られるのだ)が笑う。
 こんな所で営業用のチョコなんか作っていないで、本命の彼氏が欲しいよ〜。
 カランコロンとドアのカウベルが鳴った。
「いらっしゃいませー。」
 さて、今日はどんなお客さんかなぁ…。
<2000.02.08 UP>