三宮家の日常
〜お猫様達の御帰還もしくは、夕食戦線〜
ANNA様

 事の発端は、突然振って沸いたお父さんの短期研修であった。
 短期研修とは言っても、約1年間も海外に行くことになってしまったのである。
 当然、のんびりとした父一人では、食事やらなんやらの日常生活ができるとは思えず、やむなく(嬉々として)お母さんも付いて行くことになった。
 子供達は母の実家に預かりとなった。
 問題となったのは、お猫様たちの処遇である。
 祖母の家にはぽちと言う名前の年老いた犬がいた。
 数日間一緒に飼ってみたが、猫達は大パニックをおこしぽちが傍によるだけで、猫パンチ連打や猫キックをお見舞いするものだから、ぽちはすっかりおびえてしまい、仕方なく猫達は叔父達の経営する小料理屋へ預けられた。
 流石は小料理屋である。見慣れぬ食材が供される事も有ったが、毎日新鮮な魚の骨がもらえる。
 家にいたときより、グレードの高い食生活であったと言えよう。
 時には刺身ももらえるので、すっかり猫達は舌が肥えてしまった。
 しかし、猫達の幸せな食生活もそう長くは続かなかった。
 お父さんが海外から帰ってくる事が決まったからである。
 その日から、リハビリの為の粗食が始まった。
 おかかご飯を前に、ハンストするみる。
 おかかだけ食べちゃうみどり。
 叔父と小料理屋の店長の悪戦苦闘の結果、結局はドライフードに落ち付く事となり、なんとか三宮家に帰る事が出来た2匹であった。

 
 その日、三宮家の夕食は鮭フライ、ポテトフライ、野菜サラダ、大根の味噌汁、前の日の残りの筑前煮にお漬物と言う取り合わせで有った。
 父はまだ帰宅していないが、育ち盛りの子供達は父の帰りを待っている事など出来なかった。
「おいしそうなにおいがするにゃぁ。」
「でも、きっとわたしたちのぶんはないのよ。」
「たべたいにゃぁ」
 2匹の猫は、じーっと食卓を見つめていた。


「うにゃん。」
 みどりは純の所に行って、すりすりと身体をこすり付けて、おねだりしてみた。
 しかし、純の所に行ってもおこぼれはもらえなかった。
 お母さんと樹も同じで、下手をすると台所につれて行かれるのがわかっていたので、あえて二人にねだろうとはしなかった。
「ひとしまま、ひとくちちょうだいよぉ」
 猫達には甘い等のそばでおねだりしてみたが、等も躾だからけじめをつけなくちゃ駄目と言ってくれなかった。
 お父さんは仕事で夕食時に必ずいるとは限らず、今日もまだ帰って来そうになかった。
「にゃぁぁん。」
 みどりが悲しそうな声をあげた。
「しかたがないわね。はんぶんあげるからてつだうのよ。」
 みるはそう言って、緑の傍に行く様にと指示した。
 2匹でじーっと緑を見つめる
「ねぇねぇ、緑ちゃん。ぼくにもちょうだいよぉ。」
「どうしたの?みどり。あっちにご飯有るでしょ?」
「カリカリはあきちゃったの。しゃけふらいおいしい?」
 緑はみどりの言うことを理解しようと、身体の向きを変えて話し掛けた。
 みどりがにゃぁにゃぁと気を引いている隙に、みるの魔の手が…。
 次の瞬間、緑の箸の先にあった鮭フライは、部屋のすみに飛んでいた。
 まるで、百人一首をやっているかのような手さばきであった。
「やったぁ!」
「げっとしたわよ!」
 いそいそと鮭フライへ走り寄る2匹。
 呆れた顔の母と妹、何事にも動じず食事に熱中する長兄、泣きそうな表情の三男。
 結局次男は三男にオカズを分け与えるので有った。
<2000.02.25 UP>