緑ちゃんの受難(幼児編)
〜三宮家の日常〜
ANNA様

「ご飯の前に緑と樹をお風呂に入れてね。お兄ちゃん。」
 お母さんがテレビを見ている僕達にそう言った。
 僕にはまだ読めない字ばかり書いてある本を置いて、純兄ィが立ち上がった。
「ほら、ふたりとも。テレビ消して風呂に行くぞ。」
 純兄ィはさっさと風呂場に行った。樹も後を追い掛けていく。
 僕はテレビの前でもたもたしていた。
 シャンプーが目に入るから、頭を洗うのは得意じゃない。それに、純兄ィは頭をがしがし洗うから、ちょっとやだなって思ったけど、いつも一緒に入ってくれる等兄ィは、昨日の夜純兄ィとアイスクリームの食べ比べをして、おなかを壊してしまい寝ている。
 仕方がないのでお風呂場に向かった。
「緑ちゃん遅い!」
 樹が湯船の中から文句を言った。
「ごめんね。」
 とりあえず謝っておいた。
「緑、頭洗ってやるからそこに座って。」
 純兄ィがイスを指差し、座るよう促した。
「いちゅき、一人で洗えるもん。」
「樹えらいな〜。」
 僕だって一人でできるのに…。
 案の定がしがし洗われた。シャンプーが目に入ってしまって、痛いよ。
「痛いよぉ、純兄ィ。」
 僕の抵抗を物ともせず、がしがしと洗っていく。
「ほら、ちゃんと目をつぶって、もうすぐだから。」
 何とか洗い終わった僕の前では、樹が頭を泡だらけにしていた。
「純兄ィちゃん。いちゅきも流ちて。」
 純兄ィがシャワーのノズルを樹に向けて、泡を流していく。
「緑、身体洗ったら、湯船に肩まで浸かって100数えるんだぞ。」
「うん。いーち、にー、さ-ん、しー、ごー、…」
 30くらいまで数えた所で、湯船に樹が入ってきた。
「さんじゅうご、さんじゅうろく、さんじゅうしち、…」
 樹も一緒に数え出す。純兄ィは身体を洗い出していた。
 僕は暑くなってしまって、67で立ち上がってしまった。
「みどりちゃん、じゅるい。」
 樹が立ち上がった僕を批難した。
「だって樹は途中からじゃないか。」
「いちゅき、みどりちゃんが来る前にもはいっていたもん。」
 …うるさいな〜。いくつまで数えたっけ…。
「数忘れちゃったじゃないか。大人しく入ってろよ。」
「67だもん。」
「うるさいなぁ。わかってるよ。」
 シャンプーを終えた純兄ィが僕達に言う。
「もう、お前等ふたりともうるさいから、とっとと出ろ。」
「ほら〜、純兄ィちゃんに怒られた〜。」
 樹がむくれた。
「先に上がるよ。」
 僕は慌てて風呂場を出た。
「みどりちゃん。ずるしてるぅ。ちゃんと数えてないよ。」
 僕はむっとして、樹の髪の毛を軽く引っ張った。
「うるさいよ。樹、」
「いやぁ、髪の毛ひっぱらないで!」
『げいん!!』
 樹の蹴りが股間に決まった。
「……!」
 声もなくうずくまる僕を尻目に、樹はお母さんの所に行ってしまった。
 這いずるように脱衣所を出て、廊下に出て見ると、同じような格好で眉間に皺を寄せ、トイレに向かう等兄ィがいた。
「我が家の女は強いよな…。」
 風呂場からは純兄ィの、のんきな歌声が聞こえていた。
<1999.09.04 UP>