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たからもの |
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「こら、みる。大人しくしなさい」
「いやぁん、離してぇ」
「写真撮るんだから、いい子にしてて」
はしゃいで走り回ってる満瑠ちゃんをみかねて
お兄ちゃんが後ろから抱きかかえた。
やめてー、とか言ってても、満瑠ちゃんはけっこう嬉しそう。
そんな様子を慎二さんは面白そうに見ている。
「満瑠ちゃん、終わったらケーキあるから一緒に食べようね」
美夜さんの言葉に、現金な満瑠ちゃんはすぱっと静かになった。
笑いをこらえて構えている廣敷先輩(とお兄ちゃんは呼んでいた)の
大きな掌の中でカシャッというシャッター音が響く。
「もう一枚とるぞー、もうちょい慎二兄妹寄ってみ」
先輩の言葉に後ろでごそごそと動く気配がした。
ちらり、と目線をあげて、僕はあやうく(わあ!)と叫ぶところだった。
声はこらえたけど、顔は赤くなってたかもしれない。
だって、馨兄ちゃんは顔を慎二さんの肩にうめるようにしてて、
慎二さんはそれに顔を寄せるようにしてて、
つまるところ今にも顔がくっつきそうなカンジで。
ああ、満瑠ちゃんがこれに気がつきませんように!
祈るような気持ちで馨兄ちゃんをもう一度見上げたとき、
「よし、じゃあ最後の一枚いくぞー」
廣敷先輩の、低くてかっこいい声が聞こえた。