■ ふぇろ〜しっぷ in the Room
沢村様
Scene - 01

 急に降り出した雪にはしゃぐまだ子供っけの抜けない生徒達の校内の賑わいも、体育棟にある女子シャワールームまでは届いてこなかった。
 下校時間までは常時解放されているとはいえ試験終了直後にシャワーを使う人間など少ないらしく、瑞穂は奥の1つだけが使用されているのか締まっているユニットのドアをちらりと見ながらロッカーの前で制服をするりと脱ぐ。試験最終日とはいえ寝過ごしてしまい朝のシャワーを浴びれなかった事は毎日シャワーを使う習慣のある人間としては苦痛になる…もっとも前夜に当然入浴はしているものの。
「――?」
 誰がいつ奥のユニットから出てくるか判らないのもあって一糸纏わぬ姿に手早くバスタオルを巻いた瑞穂は、ふと呻き声を聞いた気がして首を傾げた。
 次の瞬間、脳裏に浮かんだものは冬場の老人の入浴中の死亡事故だった。ここは高校であり老人がシャワーを浴びている事などまずありえないのだが、つい半月前までは病院に入院した事もあって、すぐさま心配事と結びついてしまう。転倒して頭を強く打つ事も可能性としてゼロではないのだから、とりあえず無事を確認すればよいだろう…そんな考えに瑞穂は恐るおそる奥のユニットのドアへと向かった。
 薄く数センチ程ユニットのドアが開いているのを見た瞬間、脳裏に最悪の事態がよぎり慌ててドアを開いた少女の瞳が大きく見開かれる。――半畳ほどのユニットの中にいる男女の姿に。
「あ……」
 全裸の男子の上半身に思わず視線を落とした瑞穂の瞳に、ドアに対して横を向いている為に軽く添えた手と這わせた舌では隠しきれない男性のそれがはっきりと映る。同じく唐突さに反応出来ないのか、舌の動きは止まったものの唇を閉ざせずに瑞穂を見上げる女子の視線が交差する。
 図書館によく行く瑞穂には司書室や図書館の常連であるその女子の顔には見覚えがあった。ただでさえ淫らな光景が顔見知りの姿により急に生々しさを増し、瑞穂の頬が瞬間的に真っ赤に染まり全身が緊張する。
「その……、ごめん」
 慌てて立ち去る世慣れた定石とは異なる反応に長身の男子がやや困った様子で壁のタオルとバスタオルに手を伸ばして綾香にの身体の上にかけ、驚いてはいる様だがわずかにしか萎えずにいる自身の腰に巻き付けた。
「あ、いえ…その……こちらこそ、大変お邪魔してしまって…その…あの……あ、そんな…まさか、と……」
 タオル一枚ずつとはいえ身体を隠された事により急速に蘇ってきた理性が、性交渉の最中を覗いてしまった疚しさに繋がり瑞穂の頬が更に染まる。確実に熱を帯びている頬に瑞穂は思わず手を当て、そして不意にまだ自分が妨害行為を続けているという現実に気がついた。
「あ……あの、えっと…確か…室生さん……?」
「ごめんなさい!」
 綾香の声に身体を跳ねさせ、瑞穂は慌ててユニットのドアの前から駆け出した。しかし他のユニットに隠れるのもおかしな気がして一瞬悩んだもののシャワー室から瑞穂は飛び出す。――試験終了直後であり、普通の生徒はそのまま下校になるのだから、まず通路には誰もこないだろう。
「待って、お願いだから話をきいて」
「綾香さん!?」
 とりあえずドアを閉じようとして立ち止まって振り向いた瑞穂の身体に体当たりをしてしまう形で綾香の身体がぶつかり、二人の身体がもつれて通路に倒れ込んだ。