■ ふぇろ〜しっぷ in the Room
沢村様
Scene - 02

 互いに体重が軽いのもあって転んだ痛みはなかったものの、互いの脚を絡めあう状態になってしまった瑞穂の腿にシャワーのお湯や汗とは異なる粘液がぬるりと絡みつく。
「……」
 何と言っていいのか判らない状態に途方に暮れる瑞穂の上で、綾香も恥ずかしさにどうすればよいのか判らないらしく、奇妙な沈黙が流れる。
 体育棟のメインである講堂と昇降口を繋ぐ大きな通路とは異なり、体育教官室から倉庫を経由して行動を繋ぐ線上にある更衣室前の通路は建物の中でもやや奥まった位置にある。エアコンは動いているものの冬場の冷気は補えきれず冷え切った樹脂製マットの床にバスタオルがめくれて露になっている腰を落としてしまった瑞穂は、腰に感じる冷たさと腿の付け根の上にすっかり乗ってしまった同性の下腹部の異様な火照りの温度差の艶めかしさに息を詰まらせた。しかも男子がバスタオルを当てさせただけの綾香の柔らかな肢体はそのほとんどが露なままである。
「今…、ぶつかっちゃった?」
「多分…そうじゃないかと……」
 少しうわずった声での短い応対の後、二人の少女は互いの口元に手を当てた。
 聴覚視覚感覚に続いて、唇が重なった瞬間についた唾液に混ざっていたわずかな苦みに瑞穂は身体を強張らせたまま緩く息をつく。
 見知った少女の行為の生々しさに異様に高まっている動悸が恨めしくも、下腹部の火照りの熱さに思わず我が身を見ているかの様な錯覚に瑞穂は襲われた。
「あの……室生さん……」
「は、はい……」
「確かにこんな場所でしていたのはいけないけど、内緒にして欲しいの…お願いしていい?」
「え? そ…そんな……私、こんな事を他の方に言うなんて…しません…から」
「よかったぁ……」
 思わず微笑みかえしたくなる柔らかい笑みを浮かべた綾香に、瑞穂の口元がわずかにほころぶ。互いに脚を絡めあったままという状態のまま頬を染めあって会話しているその背後で不意にドアが開き、現れる人間はただ一人だと判りながらも二人の身体が緊張した。
 とりあえず制服のスラックスを身につけた男子が通路の上の二人の姿に驚いた様に目を見開き、次に苦笑いを浮かべる。
「凄い状態だね」
「じ…、神くん!」
 身を跳ね上げた綾香の手を取り立ち上がらせた武藤に、転がった拍子でバスローブがほとんどはだけていた瑞穂は慌ててバスタオルを整えるものの、男子の目にそのほとんどが見えてしまった事は確実だった。
「……。あ、あのね…室生さん……お願いね」
「はい……」
 何とか急場をしのいだらしい安堵に息をついた三人の耳に、ドアの開く音が届いた。
「え……っ!」
「神くん、ドア」
「まずい、閉めた」
 常時開放されているとはいえ異性などが入り込まない為にシャワールームには数字入力式の鍵がついている。咄嗟に入力するには多い8桁の数字が脳裏に浮かぶものの、武藤の知っている数字は無意味にも男子シャワールームのものだった。
 鍵に向かう綾香の手つきの混乱ぶりとバスタオルを手にしているだけの状態でに気づいたのか、何度も失敗してはナンバーを入力している綾香の手を握って武藤が音とは逆へと走り出す。
「あ……、待ってください!」
 取り残されてしまった瑞穂は慌てて身を起こし、二人の後を追いかけた。
 バスタオル姿の女子二人に上半身裸の男子一人の組み合わせは気まずいものの、自分一人となるとそれは更に深刻な問題になる…武藤が走りながら倉庫のドアに手をかけている様子なものの、逃げ道を塞いでいるかの様にそのドアは開かない。結局突き当たりにある
 講堂の引き戸にまでたどり着いてしまった三人は講堂内に人がいないのを瞬間的に確認してその中へと飛び込むしかなかった。