■ 美少年幽霊奇譚 おまけ
やまね たかゆき様


「……で、夕樹くん。これはなに?」
「なにって、コンドームだろ? 里子が買ってこいって言ったんじゃないか」
 きっかり五分後。
 夕樹くんはコンビニの袋を片手に戻ってきた。
 シャワーで汗を流して、お気に入りの下着を着けて、さっと口紅を塗るのだけはぎりぎり間に合った。
 ……つまり、服を着る時間はなかったというわけで、思わず、頭を抱えたくなった。
 避妊具を買いに行った男の子を、下着姿で出迎えるなんて。
 それだけ見ると、まるですごく期待して待っていたみたいじゃない。
 にやけた表情を見る限りでは、夕樹くんは絶対にそう誤解している。
 だけど、そのことはもう手遅れ。
 それよりも今の問題は、目の前のこれ。
「……なんで、三つも買ってきてるの?」
「初めてでよくわかんねーから、いろいろ買ってみようかと」
 夕樹くんが買ってきたのは、飲み物と、ちょっとしたお菓子と、そしてそれぞれ違う種類の三箱のコンドーム。最近のはパッケージのデザインも妙にカラフルだ。
「これ、一箱十二個入りだって知ってる? 計三十六個、こんなにどうするつもり?」
「使えばいいじゃん。途中で足りなくなるよりいいだろ?」
「使えばって、足りなくって……夕樹くん、いったいいつまでいられるの?」
「明後日の最終便で帰らなきゃなんない」
「……てことは、まる二日?」
「そう」
「……あのね、夕樹くん?」
「ん?」
 私はここで、大きく息を吸い込んだ。
「二日で三十六回もできるわけないでしょーっ! なに考えてるのよっ!」
「やる前からできないって、どうして決めつけるんだよ! 何事も挑戦だろ? チャレンジ精神なくして進歩はないんだぞ!」
「できるわけないわよ! そんなの人間の限界を超えてるって!」
「限界なんて、やる前に決めつけるなよ! こうなったらギネスに挑戦だ!」
 なんて言ったらいいんだろう。
 言葉だけ聞くと、ちょっと格好いいこと言ってるような気もするんだけど、冷静に考えるとものすごくおバカ。
 夕樹くんはそのまま私を押し倒してくる。
 シャワーを浴びながらいろいろ考えたことも全部無駄。
 なんだかよくわからないうちに、私は夕樹くんに抱かれてしまっていた。


 それでも、肝心の台詞は何度も何度も言ってくれたのが嬉しかった。






 人間って、無限の可能性を秘めているのかもしれない。


 二日後の夜――
 乱れたベッドの上に横たわって、私はそんなことを考えていた。


 夕樹くんは満足しきって帰っていって。
 本当は空港まで見送りに行きたかったけれど、私は寝不足で、疲れ切っていて、腰に力が入らなくて、あそこが赤く腫れてひりひりして、とても動けるような状態ではなかった。
 なのにどうして、夕樹くんはあんなに元気なんだろう。
 あのくらいのエネルギーがなければ、トップスターにはなれないのだろうか。
 とゆーか、あの子ホントに人間?
 帰る時に「次のオフにまた来るよ」って言って、プライベートの携帯の番号もメールアドレスも教えてくれたところを見ると、夕樹くんは意外と本気なのかもしれない。
 だけど……。


 使用済みコンドームと丸めたティッシュの山を見て、ぼんやりと考える。
 夕樹くんと付き合うのって、これまで考えていたのとはまったく別の苦労があるのかもしれないなぁ、って。


 本音を言えば、それはそれでちょっと楽しみだったりする。
<2002.08.19 UP>