きまぐれな夏
【 後 編 】

 はじめて人の手から与えられる鈍い快感が、じわりと腰の中心から這い上がってくる。知らずため息をついて見下ろすと、絵里姉は新しい玩具を手にした子供みたいなわくわくした顔で、その部分をなおも覗き込んでいた。
 いくらオタクだって彼氏の一人や二人いただろうに、今更そんなに珍しいモノなんだろうか。
「わぁ……熱ぅい。カズちゃんのすごく熱いよ……?」
 舌ったらずな口ぶりと対照的に、手は手馴れた様子で俺の器官をいじくりまわしている。ぎゅっと握ったり、軽くしごいてみたり、ゆっくり下から絞り上げてみたり。
「いちいち言わなくてもいいよ。そんなこと」
 気持ちイイには間違いないんだけれど、絵里姉に握られた部分から湧き上がる快楽はぬるま湯のように白黒つかずでじれったくて、かえって俺を物足りない気分にさせた。もっと強い刺激を求めて、腰にぐっと力を入れる。
「あっ」
 握っていた手をはじき返すように勢いよくはねたのを見て、絵里姉がまた目を丸くした。けれどもそれは一瞬のことで、
「もっとして欲しい?」
 なんてうれしそうに笑って憎たらしいことを聞いてくる。
「しるか」
「じゃあ、私の好きにしちゃう」
 正直に答えるのも癪で、ついつっぱねたらそれを逆手に取られてしまった。
 さらさらと肌の擦れる音が絵里姉の掌と俺の間で生まれて、俺はじりじりと自分が引き返せない場所に追いやられていくのを感じていた。
 今だって、本当に嫌なら絵里姉の手を振り払って逃げればいい。たぶん絵里姉はそうしても口ほどに怒りはしないだろう。けれども。
 悔しいことに、絵里姉の手はすごく気持ちがよかった。このまま逃げ出してしまうのがもったいないくらい。
 がちがちに張りつめた竿の部分をしっかり握って、ぱんぱんになった先までしなやかな動きでしぼりあげていく。気持ちよさの技術でいえば、自分でするオナニーの方がずっと上だ。女である絵里姉の刺激は気持ちよさのツボを指半分くらいはずしていて、少しじれったい。でも、それがかえってリアルに自分の手ではない他の人にしてもらってる感じがして、よけいに興奮してしまう。
 輪の形になった絵里姉の手の中を、俺のそそり立ったそれがせわしなく上下する。いつのまにか俺も絵里姉もその動きに黙って見入っている。じわりと先端から滲み出してきたものを、細い指先が回りに塗り広げていく。音が次第に水気を帯びたものに変わって、いっそういやらしい動きで指がまとわりついてくる。網膜から飛び込んでくる視覚刺激と、触れられている場所から沸きあがってくるしびれるような気持ちよさが相乗効果で合わさって、容赦なく高ぶっていく熱い感覚に、俺は知らないうちに腰を突き出していた。
 ときおり絵里姉の顔に視線を移してみると、潤んだ瞳や薄く開かれた唇や無意識なのだろう若干荒さを増した熱い吐息が、言葉ひとつない絵里姉の興奮を俺に伝えた。服一枚乱れているわけでもないのに、絵里姉ちゃんからは間違いなく発情した女の匂いがしていた。
 どれくらい巧みな指先にこねまわされていたのか、手で与えられる気持ちよさに俺がなれてきた頃、再び絵里姉ちゃんが顔をあげて、俺の顔を見た。
「ね……口で、して、あげる」
 絵里姉ちゃんは、さっきよりもっととろんと溶けた瞳で、いつのまにか両手で俺のそれを刺激していた。濡れた唇から漏れた言葉が脳に届くまで若干の時差が生まれる。
「えっ」
「カズちゃんの、お口でしたい。フェラチオしてあげる……」
 よく知っている言葉が耳にとびこんできて、それの言葉が意味する行為をようやく理解する。
「ちょっ、まっ、そ、それ、本気?」
「あら、私はいつだって本気よ」
 慌てる俺にかまわず、絵里姉はわざとらしく強張ったものに柔らかい頬をこすりつけてきた。むにゅりと頬に俺の浅黒いものをくいこませて思わせぶりに見上げるいやらしい光景に、あっけなく思考がオーバーヒートしていく。
「絵里姉ちゃん……っ」
 呆然とつぶやく俺の反応をどうとったのか、
「私にされるのがイヤだっていうことだったら、目でも閉じてて」
 言うが早いか、ちゅっと柔らかな唇がカチカチになった竿の中ほどにおしつけられた。
 それが、絵里姉なりの譲歩だったことに気づいたのは、ずいぶん後になってからだった。
「あ……」
 掌や指とはちがう柔らかくて頼りない感触が、血管の浮き出た裏側をゆっくりと登っていく。じりじりと敏感な部分へ近づいていくにつれ、今目の前で繰り広げられているいやらしい絵に、めまいにも似た興奮を感じる。
 軽やかに繰り返されるキスの音。根本やごわついた茂みを撫で回される間も、俺の目は何度も俺のそこに触れる絵里姉の唇に釘付けになっていた。
 ちらりと覗いた舌先が、ひんやりと跡を残してくびれた部分を濡らしていく。器用に動き回るピンク色の舌や、鼻先をこすりつけるようにして唇で愛撫していく絵里姉の顔を見ているうち、もう十分はりつめているその部分が、更にどくりと脈打って容積を増していく。
 手よりも気持ちよくて、でもまだまだ、足りない。もっともっと確かな強い刺激が欲しい。そんなこと絵里姉には絶対いえなやしないのだけれど、言わなくてもきっと、わかってしまってるんだと思う。
 なぜなら、そそり立つモノを舌先でまんべんなく濡らしたあと、絵里姉はいたずらっぽい瞳で俺を見上げて、にっこり笑って見せたからだ。なにもかもお見通し、って言われてるような気がした。
「いくわよ?」
 ひんやりとした手が根本を抑えて向きを調節する。
 中途半端に昂ぶったモノを震わせて期待している俺の目の前で、丸く張りつめた先端がピンク色の唇の中にぬるりと吸い込まれていった。
「う……っ」
 生まれて初めて体験する口の中の熱さに、たまらず息をつめる。
 びっくりするくらい熱くぬめるものが俺のそれにねっとりとまとわりついて、絵里姉の甘いため息が下腹部にぶつかるのがなんだかくすぐったい。柔らかく溶けた感触で先をちろちろとなぶられると、蕩けそうな気持ちよさが這い上がってきて腰の奥をしびれさせた。気持ちいい。本当にその言葉しか思い浮かばない。
 いやらしい気持ちよさに慣れてくると、ぬるぬると絡みつくものが舌であることがようやくわかってくる。口の中で形をなぞるように、先の割れ目から裏側をなぞって根本までいやらしく上下して俺を濡らしていく。
「カズちゃん、きもちい?」
 一旦口を離してたずねる絵里姉の唇に、答えの代わりにがちがちにはりつめた先端を押しつける。絵里姉はちょっと笑って、また口の中に俺のモノをすっぽりと隠してしまった。
 フェラチオが、こんないやらしくて気持ちいいことだったなんて思いもしなかった。ビデオやグラビアなんかで想像していたよりも、もっとずっと、脳を痺れさせて夢中になってしまう、そんな麻薬のような気持ちよさ。
「く…………っ」
 絵里姉の舌がせわしなく動き回るたび、ぞくりと腰の奥から吸いつかれている部分に向かって密度のある快感が走っていく。ゆるい波のように上下する口元から、水っぽい音が響いているのが嘘みたいに卑猥で、いやらしくて、思わせぶりで、病みつきになる人がいるのも当然だと俺は思った。
 だって、絵里姉が。
 あの絵里姉が俺のグロテスクな性器を、この上もなくおいしいモノのように舐め回している。
 ねっとりと絡みついてくるこの熱い粘膜が他でもない血の繋がった絵里姉の口と舌だと認識するだけで、気持ちよさと理由のわからない背徳感で、知らず口内深くまで押し広げているそれが断続的に跳ね上がるのがわかった。
「え、絵里姉……っ」
「んん? らあに……? もっと?」
 口の中にくわえこんだまま、もごもごと返事した絵里姉の舌がいやらしく当たって、思わぬ刺激につい体が反応してしまう。
「んふ……舐めながら話らすの、きもちひ?」
 ちゅぷちゅぷと先だけを出し入れしたり、舌先でわざと見えるように先や裏側を舐め回しながら、絵里姉は本当に楽しそうに俺の瞳を覗き込んでいた。
 絵里姉がこんないやらしくて可愛いい女の顔で俺を見てるなんて、なんだか嘘みたいだ。
「……知らないよっ、もう……くぅ……っ」
 減らず口を叩いてみても、ぬるりと深く口内に飲み込まれてしまえばその声も途切れてしまう。
 唇が竿を柔らかく締めつけ、トロトロに濡れた舌先がくびれを強くえぐり、張り出したエラの部分を執拗に舐めあげる。どんなに深く飲み込んでみても口の中におさまりきらない根本には、細い指がしっかりと絡みついて、舌の動きにあわせて緩やかに上下運動を繰り返していた。
 頭の中で直接見ることが出来ない絵里姉の舌の動きを忠実になぞっていくたび、じんじんとこらえきれない気持ちよさが腰の奥でわだかまっていくのがわかった。
 夢中になってしゃぶっているうっすらと染まった目じりや、休む気配のない舌の動き、鼻にかかったため息なんかを聞いていると、もしかしたらほんの少しでも絵里姉も感じてしまっているんじゃないか、ってつい考えてしまう。それとも、女の人は自分はちっとも気持ちよくならなくても、こんな熱心に男のモノを舐めることができるんだろうか。気持ちよさの合間でぐるぐると渦を巻く疑問は、やがて全て快楽の中に溶けていく。
 ふっくらとした頬が強くすぼまるたび、きゅぅっと奥にたまっているものごと一気に吸い尽くされそうになる。けれども、ひとたび溢れた俺の精液が絵里姉の口を汚してしまうことを思うと、ここで力を抜くわけにはいかない。
 時折苦しそうに眉を寄せる絵里姉の顔を見るたび、無理やりされているのは俺の方なのに、なんだかものすごく酷いことを強いている気分になってしまう。けれども同時に、そんな絵里姉の姿を見てもっと酷くしてめちゃくちゃにしたいと願う黒い欲望が湧き上がってくることを、認めないではいられなかった。酷いことだと思うのに、その後ろめたい欲望は間違いなく愛らしいピンク色の唇を無遠慮に蹂躙する行為を、充実感に満ちた悦びに置き換えていた。
 俺は、血の繋がった絵里姉の熱く蕩けた口を犯すことを、楽しんでいた。
「絵里姉……っ」
 後ろめたさを穴埋めするように、腰のあたりでずっと揺れている絵里姉の頭に手を伸ばして、さらさらの髪をそっと撫でてみる。つむじから髪の流れにそって何度も撫でているうち、これまでも、これからも、ずっと敵うはずもない絵里姉が、突然小さくて守るべき存在になってしまったかのような不思議な気持ちが胸の奥に沸きあがってくる。絵里姉が一途に舐めれば舐めるほど、顔かたちだけではく、本当に可愛く愛しく思えて、もちろんそれは、今この瞬間だけの錯覚だとわかっていたけれども。 
「カズちゃんの、お口のなかですごくおっきくなってる……こんな、大きくなって、びくん、って……先もこんなつるつるになって……」
 うっとりとぼやけて焦点の合わない瞳で、時折口を離してはうわごとのようにささやく言葉は、まるで箍がはずれてしまったかのようにとんでもない言葉ばかりで。
「もっと、舐めたい。カズちゃんの、いっぱい、舐めさせてぇ……」
 拙い口調でおねだりする仕草がいかにも童顔の絵里姉ちゃんに似合っていて、ものすごくいやらしく俺の煩悩を刺激した。
 いつも強気な絵里姉ちゃんをこんな風にしたのが自分だと考えるのは、この場合いささか自意識過剰が過ぎるだろうか。なにしろ襲われているのはこっちの方なのだ。
 けれども、ひときわ勢いを増してこみ上げてくる気持ちよさは、絵里姉が血の繋がった叔母であることも、今のこの状況が異常であることも、なにもかもどうでもいいことのように思わせた。
 こんなに気持ちいいのに、他の事を考えてる余地なんてあるはずない。
 ただ、絵里姉に翻弄されてせわしなくかきたてられる快楽だけが俺のすべてになっていく。
「絵里姉……、そんな、したら、もう……っ」
 すぐそこまで臨界点が近づいてきていることからもう目をそらしようがなくて、俺は必死に訴えた。
「出ちゃうよ……絵里姉の口……だめだよ……っ」
 口とは裏腹に、更に絵里姉の口を深々と犯すために自分から腰を深く突き出してしまっている。あと少し。本当にあと少しで出てしまう。ごつごつと絵里姉の柔らかい口の中を乱暴にかきまわしているのがわかっていても、走り出してしまった快楽はもう引き戻すことができない。
「絵里姉……っ もう……もう……っ」
 きつく目を閉じて、自分の腰の奥ではじけようとしている快楽に意識を奪われる。もう絵里姉がどんな顔をしてるのかさえわからない。ただ、俺に吸いついてくる柔らかくて熱い口の中の感覚と、ふぅん、ふぅんと腰のあたりから漏れ聞こえてくる鼻にかかったため息だけが、全てになる。
「絵里姉……、絵里………っ、ぁ………っ」
 たまらずにせっぱつまった声をあげると、いっそう強く猛るものが舌で締めあげられた。舌先が誘うように先の割れ目をなぞりあげて、まるでそこから噴き出してくる
熱いものを今か今かと待ち望んでいるようだった。
「だめだ、絵里姉っ、でる…………っ」
 絵里姉の口を汚したくない気持ちと、このまま気持ちよさに溺れたまま一気に放出したい欲望がぎちぎちとせめぎあう。その間も、限界はすぐそこまで迫ってきていた。ぎりぎりになってもどちらも選びきれないで迷う俺の背中を、絵里姉の一言がつきとばした。
「んん、らしてぇ……ふぅぅぅ……ン」
 もう、迷っている間などなかった。より深く奥へ吐き出そうと、狭い絵里姉の口にぱんぱんに張りつめたものをめちゃくちゃに突き入れていく。
「絵里姉っ、うぁっ、うぅ…………っ」
 頭の中が真っ白に溶けていく。腰の中心から溶けてどろどろになった欲望が一気に背筋を駆け下りて、先端からはじけた瞬間、目もくらむような快感に息が止まった。
「う……く……うぅ……っ」
 びくん、びくん、とモノがはねて間欠的に濃い精液が噴き出ていく。腰から全てがはじけ飛んでいくような、ものすごい気持ちよさ。ホワイトアウトした視界がゆっくりと元にもどっていく。そうして最初に目に入ったのは、いつまでたっても跳ね上がるそれにしっかりと吸いついてこくりと喉を鳴らしている、絵里姉の頭だった。
「なっ、絵里姉、だめ、だめだよ……っ」
 慌てて息をとぎらせながら、まだ力の入らない腕で絵里姉を無理やり引き剥がす。すっかり出し終わったあとも執拗に舌を動かしていた絵里姉ちゃんがようやく顔をあげて、わけがわからない、というように首をかしげた。
「飲んじゃうなんて、だめだ、汚いよ」
 もう全部飲み込んでしまっていて手遅れなのはわかっていたけど、あまりに気恥ずかしさと申し訳なさに黙っていられない。けれども絵里姉はそんな俺の気持ちを知ってかしらずか、口の端に垂れていた白い雫を自分の指で拭い取って、唇の間に押し込んだ。
「なに言ってるの。汚くなんかないよ? カズちゃんが出した精液だもん。出して欲しくて舐めたんだもん」
「なっ……」
 まだピンク色にそまった頬で自分の指を舐める絵里姉の姿と、その唇から漏れる思いもしない言葉に、放出して落ち着きを取り戻しかけていた心拍数が一気にはねあがる。
 が、次の言葉を耳にした瞬間、緊張を取り戻しかけていた体が一気に脱力した。
「あ、でもせっかくおっきくなったのに、カズちゃんの元気なとこ書き損ねちゃったね。あー、せっかく本物みて書けるチャンスだったのに、もったいないことしたぁぁ〜!」
 さっきまでのそそる顔がまるで嘘のような心底悔しそうな顔で、書きかけ途中でほおり出したスケッチブックと、元の大きさに戻った俺の器官に交互に見比べる。
 その姿は、本当に悲しくなるくらいいつもの絵里姉ちゃんそのままで。
 実の叔母にあらぬことされてしまった……いや、してしまった(?)のかな。とにかく、そんな後ろめたさも、正直癖になりそうな初めての性行為の後味も、なにもかも台無しにしてしまうこのパワー。
 あっというまに素に戻ってしまった絵里姉をみていると、俺の腰にしがみついていた、えっちで可愛い絵里姉ちゃんは、幻かなにかだったのではないかとそんな風に思えてくる。実際、全身をおそうこの脱力感と疲れ、そして今自分が一人素っ裸で立っている状況をもってしても、ついさっき俺を駆け抜けた快楽がほんとにあった出来事なのか、にわかには信じがたい気持ちだった。
 俺は思わずため息をつきながら、軽くこめかみをおさえた。
「だから早く書け、っていっただろ、俺。言うこと聞かなかったのは、絵里姉ちゃんの方だからな」
「だって、カズちゃんのが、あんまり立派だったからぁ……」
 むーと唇を尖らせて、そのくせまた上目遣いに俺を見てもじもじしてみせる。
 再びやばい気配。煩悩を放出してすっきりクリアになった頭ですばやくこの後の経過をシュミレーションする。結果、全力で退却という文字が浮かび上がった。そう、またとんでもないことを言い出される前に、さっさとこの部屋から退散してしなくてはならない。現金と言わば言え。徹頭徹尾絵里姉に頭の上がらない俺としては、これ以外に絵里姉のとんでもない攻撃をかわす術は残されていないのだから。
「さて、一度はお望みどおりでかくなったんだし、俺もう行くわ。そろそろ、母ちゃんも祖父ちゃんも帰ってくる頃だし、こんなとこ見られたら何を誤解されるかわかったもんじゃないからな」
 言ってるそばから、そそくさと脱ぎ捨てた下着に手を伸ばす。
 いや、正直に言えば、この部屋にいるとまたエッチなことを期待してしまいそうで、なんかそんなさもしい自分が嫌だったりもするんだけど。
「だめ、もっかいおっきくしてっ」
「だめ、じゃないだろ、俺はちゃんと忠告したのに、人の言うこと聞かなかった姉ちゃんが悪いっ」
 期せずして、服を着ようとする俺と、それをまた脱がそうとする姉ちゃんの、とっくみあいがはじまる。けれどもこっちだって男だ。服を抱え込んで離さない絵里姉ちゃんから、着ている服を奪い取ってさっさとボタンをはめていく。
「うぅぅ〜。だって、カズちゃんだって、気持ちよくなってたじゃない〜。不公平だよ、ずるいずるいずるい〜っ」
「う、それは絵里姉ちゃんがしたい、って言い出したんだろ。だって、そもそも不公平ったって、俺が姉ちゃんになんかしてやるわけにもいかないんだし、こればっかりはしょうがないよ。うん、まあ、ホントにすごく気持ちよくしてもらったし、感謝してるけどさ」
「私を気持ちよくしてくれなくていいから、その代わりにモデルして♪」
「却下」
 腕にしがみついて離れない絵里姉ちゃんをずるずる引きずりながら、なんとか廊下に逃げ出すことに成功する。
 その通りすがり、なにげなく開かれたまま床に落ちていたスケッチブックに目をやると、そのデッサンは俺が考えていたよりはるかにリアルに正確に書き込まれたものだったので、正直度肝を抜かれた。特に美術学校に通ったわけでもないことを考えれば、うまいと言っても差し支えないだろう。
 けれども自分のアレな姿をかかれるとき、それをうれしいと思うかどうかは、また別の話だ。こんなリアルな自分の裸が残るだけでも恥ずかしいのに、勃ってるところまで詳細に書かれてしまうなんて冗談じゃない。
 ……さらにはそれがどこかで役に立ってしまうなんて、心底考えたくもない。



 後日、約束のソフトを買ってもらうときにまたひと悶着あったのだが、からくも勝利したことをここに報告しておく。
 そうして、俺はこの先なにがあっても、やおい好きな女の子を彼女にするのだけはやめよう、と固く心に誓ったのだった。
<2003.07.29 UP>