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【 第3話 】
ひんやりとした空気に香菜が身を震わせた。 時計は8時を差していた。 「いけない、大遅刻だわ」 あわててベットから起き上がる香菜に、智が横になったまま 「いいよ、待たせておけよ」 香菜の腕を引き寄せた。バランスを崩して、智の上に倒れこむ。 「そういうわけにはいかないわよ。約束したんだから」 智の頬に軽くキスをして、香菜はベットから下りた。 すっかり乱れてしまった髪を下ろして、裸のままで急いで2階のバスルームに飛び込む。もう一度シャワーを浴びながら、動くと足の間がずきずきした。まだ、智が中にいるような感覚が残っていて、香菜は一人で顔を赤らめた。 (大丈夫…かな?) 出血はあまりないようだったが、一応ナプキンを当てていけば大丈夫だろう。 さっと流して、バスタオル姿で智の部屋に戻った。 「…うん、少し支度に手間取っててさ。…うん、美人に化けてるよ。お前、手出したら…わかってるだろうな」 智が電話をしながら、香菜に手をあげた。篤かららしい。 「そうだな、…まだ、もう少しかかるわ。香菜あんまり体調よくないから、早めに連れて帰ってこいよ。…おお、もちろんちゃんと送ってこいよ…」 時間を引き伸ばすように話していた智が通話を切る頃には、もう香菜はバレッタで髪を結い上げていた。 もう一度ネックレスをつけ、準備完了、となったところで、智は香菜を背中から抱きしめた。布越しにまた体をまさぐり、うなじに口づける。 「下着はもっと地味なのに替えたか?」 まだ感じやすくなったままの肌が、びくりと震えた。 「…ん、違うのに、したわ。………だめ、智。そんなとこに触らないで。せっかく替えたのに…ん…」 ストッキングとパンティの上から、足の間をなぞっていた指が、しぶしぶといった感じで退いた。 ぎりぎり12時前に家についた香菜は、少し酔いの残った足取りで階段を昇り部屋に入った。 篤はとても丁寧に香菜を扱ってくれたし、女の子達もなんだか気後れしているみたいに、遠巻きに香菜を見ているだけだった。 ため息をついて、ベットに倒れこんだ。シーツのひんやりとした感触が心地よい。 「…あ、化粧落とさなきゃ」 いやいや立ち上がって、バスルームに向かった。クレンジングのついでに、シャワーを浴びてから部屋に戻ると、智がベットに座っていた。 「おかえり」 「ただいま」 バスタオル姿のまま、香菜は智の頭を抱き寄せた。 智の手が、バスタオルを落とし、口唇が胸の谷間に押し当てられた。 「どうだった? からまれなかった?」 「うん。…大丈夫だった」 小さな声で答えながら、智の手の動きに気をとられていた。 背中からヒップのラインをなぞっていた手が、やがて前に回ってきて、ピンク色に尖った乳首が智の口唇に吸い込まれた。いとおしそうに、吸ったり、舐めたりするのを見ていたら、なんだか恥ずかしくて、思わず目を閉じてしまう。 ベットの上で智を迎えると、香菜は声を殺して、突き上げるものを受け止めた。 さっきよりも、もっとはっきりとした快感が、香菜を揺り動かす。 香菜をうつぶせにして、腰を高くひきあげると、荒々しく智が入って来た。蕩けて砕けそうになる腰を支えながら、幾度も香菜を責めたてた。耐えきれずに香菜がかすれた声で智の名を呼ぶと、いっそう激しく腰を打ちつける。 足の間から真っ直ぐに昇ってくる熱が香菜をさいなんだ。 「…や…ん」 枕に顔を埋めて、香菜は声を殺そうとした。 智の揺れにあわせて自分も腰を動かしていた。 大きなものが香菜の襞の間を埋めてゆく。満たされる悦びに、香菜はそれをつな ぎ止めようと花を絞った。 「香菜…きれいだよ…、…すごく」 智のかすれた声が耳をくすぐると、もう我慢できなかった。 智とつながっているんだと思うと、それだけで気持ち良さに声がもれてしまう。 きれいに反り上がった背中をなぞりながら、智は香菜を追い上げるために動きを早めた。智の望むままに感じる自分が嬉しくて、香菜は夢中で与えられる快楽を受け止めた。 「…ん…とも…」 濡れた襞に締め上げられて、智も必死で自分をつなぎ止めた。いまにも弾けてしまいそうなのをこらえながら、香菜を責め立てる。なにものにもかえがたい、愛しい自分の半身を自分自身で満たしているという、この充足感。 罪の意識がないといえば、嘘になる。 この関係が両親にとりかえしのつかない打撃になってしまうこともわかっている。 それでも、お互いがかけがえのない存在である以上、手を離すことなんてできない。生まれたときから守りたいと思ったのは、欲しいと望んだのは、目の前にいるたったひとりなのだから。 母親の胎内から出た瞬間別れてしまった世界が、いま、再びあのときとは違う形で重なる。 目を閉じて、快楽におぼれている誰よりも愛しい横顔。 蕩けそうな熱に包まれながら、智は痛みを振り払うために荒々しく香菜を突き上げた。 「とも…とも…、…もう…っ」 限界を越えて、駆け抜けてゆく熱に、香菜の声がかすれた。のけ反った体をきつく抱きしめて、二人は溶けあうような絶頂に登りつめていった。 「かなねぇ、おおきくなったらとものお嫁さんになってあげる!」 「およめさん?」 「うん。パパとママみたいにね」 「そしたら、ずっと、一緒にいられるね」 「うん!」 遠い昔にかわした罪のない約束。あれはたしか幼稚園に入って、それぞれちがう組になってしまった頃だった。ちがう組の二人が一緒に遊べるのは、午後お迎えを待つ遊び時間だけ。子ども心にも離れる淋しさが身に染みたっけ。 他の誰もいらない。香菜が自分のとなりにいてくれれば。智は自分の腕の中でおだやかな寝息をたてている愛しい半身に、そっとキスをした。 <1999.3.25.UP>
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