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【 第2話 】

「悪い、智。俺、今日の夜の約束、駄目だわ」
 手を顔の前で拝むようにして、篤は自動販売機で買ってきたコーヒーを智の前に置いた。
「なんだよ、急に。別にいいけどさ」
「でさ、こっからはお願いなんだけど」
 今度は紙袋から焼きそばパンが出てくる。智はあきれた顔で篤を見た。
「なんだよ、一体。貢ぎ物はいらないから、話せよ」
「うん、実は、だな」
 篤はめずらしく歯切れの悪い話し方をした。あ、いやな予感と智が思った途端、案の定
「香菜ちゃんを、今夜、貸して欲しいんだ」
と、真面目な顔で切り出してきた。
「…なんで」
 どうやらいつもの様子とは違うので、駄目とは言わずに訳をきいてみる。
 篤は、自分の不注意なんだけど、と前置きして
「ロイドであった由香って、覚えてる?」
「…えーっと、そうそう、あれね。短大生って言ってたやつだろ?」
「そう。彼女に合コンに誘われたんだけどさ、なんだか怪しいんだよな、話が。アイツ、一度やったらなれなれしくしてくるから、あんまり近寄らないようにしてたんだけど、今回はどうしても来て欲しい、顔を出してくれるだけでいいからって、しつこいんだよ。他に好きな子が出来たから行かないって言っても信じないし。なんだか、行ったらアイツの彼氏って紹介されそうな感じ。だからさ、香菜ちゃん連れて行けば納得してもらえるかな、と思ってさ。香菜ちゃん激マブだし、変なの連れてって、そいつに本気になられたら困るし。もう、なんでも、言うこと聞きますから、助けてください!」
「…そんなののとこに香菜連れてって、逆恨みされたらどうすんだよ」
「俺が、身を挺して守るから、頼む!」
 ひたすら低姿勢な篤の態度に負けたわけではないが、情けないと思いつつも、
「お前が香菜に話をして、香菜が行くっていったらいいよ」
と、許可を出した。もちろん、変な手を出したら…と釘を差すことは忘れなかった。
 話を聞いた香菜はあっさりと、いいよ、と言った。
「そのかわり、誕生日は期待してるよ? 私来月…7月だからね」
「何でも買ってあげるよ。何がいい? 指輪? 鞄?」
 香菜は少し考えてから、
「ピアス買って。かぶれないように18金かプラチナのやつ」
と、耳を引っ張った。でも、香菜のきれいな耳たぶに穴は無い。
「なに、これから穴開けるの」
「そう。すぐに付け替えられないのは知ってるけど、替えのピアスあったほうが楽しみあるでしょ」
「必ずやお姫さまのお気に召すものを探して参ります。じゃあ、今夜8時に駅で会おう。いつもの夜遊びみたいに、キレイにしてきてね。…いや、もちろん、そのままでも十分可愛いけど」
「うん、8時にね。化けてくから、びっくりしないでね」
 智にどつかれてわたわたしてる篤に、香菜はウィンクをした。
「二人だけって、初めてだもんね?」
 智にあてつけるために、わざと言う。篤は嬉しそうにうんうん頷いた。
 智はあくまで無表情に香菜を見ていた。
「用が済んだならとっとと帰れ」
 智に尻を蹴られて、篤はまたあとでねーと倖せそうに手を振って先に帰った。
 篤がいなくなったところで、智は香菜を振り返って、さて、と腰に手を当てた。
「本当にいいのか、香菜」
「うん。篤君いつも私によくしてくれるし、助けてあげられるんだったらフリするぐらい平気だよ」
 これは本当。でも、もうひとつ、智には言えない理由もあった。
 智に妬いてほしいから、だなんて、とても言えない。
「…ピアス、いつあけるんだ?」
 智の指が香菜の髪に潜り込んで、やわらかな耳たぶを捕らえた。香菜がびくっ、と体を震わせると、智の目が細められた。
「香菜は耳、感じやすいんだな」
 いいながら、指はまだ耳たぶをもてあそんでいる。放課後の、誰もいない教室で、香菜は震えながら小さな声でねだった。
「智、あけてくれる? あけるのはもう買ってあるの」
「痛いぞ。いいのか?」
 低い声で、智は聞いた。香菜は目を閉じて、そっと智の肩に頭をもたれかけた。
「………智になら、いいよ」
 指はやがて、耳から頬に滑っていった。香菜は智の体の中の鼓動に耳を澄ませた。少しいつもより早い、ような気がする。でも、口から出る言葉は冷静そのものだった。
「……今日あけるか? 酒飲むなら明日の方がいいかな」
「うん、明日にする」
「土曜日だしな。…じゃあ帰るか。お前も用意するんだろ」
 智は香菜を押しやると、自分の分と香菜の鞄を持って、教室を出る支度をした。
 急に突き放されてしまったような、心細い気持ちで、香菜は智を見た。智はそれに気づくと
「こんなとこで、こーゆーことすると他のやつに見られるだろ」
と、香菜の頭をぽん、と叩いた。
「フツーの兄妹はあんまりこーゆー風にはしないんだから」
 並んであるきながら、香菜は智の横顔を見上げた。
「こーゆー風って、今朝みたいなこと?」
 香菜の言葉に、智は答えなかった。



「ねー智、ちょっと見て?」
 香菜がひょこんと智の部屋のドアから顔を出した。
「どれ」
 綺麗なワイン色の襟元が開いたベロアのワンピに、髪もきちんとまとめて、いつもよりもずっと大人っぽい香菜がそこに立っていた。智はひゅう、と口笛を吹いて、立ち上がった。
「化粧はまだ?」
「うん、でね、ネックレスどっちがいいと思う?」
 香菜の両手にはそれぞれ細い金のチェーンネックレスと、バロック調の金とパールのネックレスが握られていた。
「イヤリングは無いの?」
 智は香菜の手からパールのネックレスをとり、首にかけてやる。智の指が肌に触れると、香菜はなんだか急に今朝の事を思い出してしまって、顔が熱くなってくるような気がした。それに気づいて智はくすり、と笑った。
「イヤリングもつけてやろうか? …悪さされないように」
 いいながら、香菜の耳たぶを噛む。小さく叫んだ香菜をそのまま抱きすくめて、今朝の続きみたいに、首や開いた襟元にキスを降らせた。
「きれいすぎて、心配だな」
 智のかすれた声。香菜は胸がきゅっとしめつけられるように痛くなった。ワンピースの上からはい回る智の手がやがてスカートの裾をなぞりだした。
 あ、と思う間もなく、香菜はベッドの上に引き倒されていた。智の顔が驚くぐらい近くにある。
「篤にこんなふうに押し倒されないように気を付けろよ」
「…ん…」
 うなずくと同時に口唇が塞がれた。熱く濡れた舌が香菜の意識を奪ってゆく。 
 智の手はスカートをまくり上げ、レースの黒い下着をさらけ出した。ガーターベルトのすき間のわずかな素肌を撫で、不埒にもパンティに手を潜らせようと、お腹の上でレースの際に指を滑らせた。
「こんな誘うような下着は駄目だ。アイツが本気になるから」
「…あ、智…」
 するりと、足から下着が落ちた。なにもつけていない尻を智の手がわが物顔で撫で回す。
「智…」
「時間は?」
 そんなことをいいながら、智に香菜を離す気など全くなさそうだった。
「まだ、7時過ぎ」
 智の部屋の壁にかかった時計を見て、香菜は答えた。智はそのままなにも言わず、香菜の首筋に口唇を這わせはじめた。
 胸までまくりあげられたワンピがそのまま脱がされてしまう。
「智、ね、ちょっと…」
「香菜、あのつきあってる男と、した?」
「えっち? してないわ。だから…」
「まだ、処女なんだ」
「…そうよ」
 言ってる間にブラも落とされ、香菜はガーターにストッキングだけの格好で智に組み伏せられていた。
「痛いけど、いい?」
 さっきと同じ台詞で、智は香菜を誘った。
 香菜は恥ずかしさと、困惑で、言葉を無くしていた。でも。
「………智なら、いいよ」
 聞こえないぐらい小さな声で囁いて、目を閉じた。


 
 重なり合った素肌の心地よさに、香菜はうっとりとため息をついた。さらさらとシルクのようになめらかで、温かくて。柔らかな口唇が体中をはい回ると、ため息は浅い吐息に取って代わった。
 声を殺して指を噛む香菜に、
「いいよ、声聞かせて」
 と、香菜が噛んでいた指先まで舌で愛撫する。
 智の舌が、足の間に潜り込むともう、なにもわからなくなって、香菜は甘い声をあげた。
 たくみに香菜の快楽を引き出す舌の動きに、夢中で酔いしれる。
「あ、智、駄目…あ…、や…ん」
 はねあがる香菜の腰を押さえて、舌が濡れた花びらをかきわけ、感じやすい所を何度も舐め上げた。
「あ……、んっ……」
 こんなこと、しちゃいけない。そう思っても、舌の動きが止まってしまうと、我慢できなくてねだるように腰をゆらしてしまう。波のようにうねる快感に香菜は絶え間なくあえぎ声をもらしていた。
「智……とも…ん」
「だめ、なんだろ」
 意地悪く顔を上げ、乳首をひっぱる智に、
「違う…お願い…、ねぇ」
「いやじゃない?」
「…うん…」
「言えよ。欲しいって」
 じらすように、智の舌がわざと音をたてて、花の周りを舐めまわした。でも、決してふくらんで震えているそこには触れない。
「………」
 香菜が恥ずかしさに戸惑っていると、舌はちろちろと、後ろのほうまで弄る気配を見せた。
「言わないと、してあげないよ」
 そう言って、智は香菜の股の内側をきつく吸い上げた。
 痛みと同時に快感が走って、香菜は叫んだ。
「あ、お願い、智、して!」
 智の濡れた舌が、蜜にまみれた花を一層いやらしくくすぐりはじめた。今度は指まで加わって、香菜の蜜壷の入り口をぬるぬると擦りだす。やがて蜜の助けを借りて、ぬるり、と中まで滑り込んだとき、香菜は体を硬くして、背をのけぞらせた。熱く蜜を滴らせた花は中に潜り込んだ指を遠慮無くぎゅうぎゅうに締めつける。それをふりはらうように小刻みに指を揺らしながら、智は舌で堅く尖った敏感な芽を転がした。
「痛い?」
 足の間から智の声が聞こえても、香菜は首を振るしか出来なかった。
 自分の中を擦られる熱さと、気持ち良さに、目まいがしそうだった。
 焼けるような疼きと、それが癒されてゆく快楽に、知らず、腰を揺らしていた。
「や、智、あ、……ん…、変になっちゃうっ…」
 夢中になって、あえぐ香菜を見ていたら、智ももう我慢できなかった。ずきずきと疼いて反り返ったものが、一刻もはやく熱い花に潜り込みたがって波打っていた。
「香菜、いい子だから、力抜いて」
 智は、香菜の中から蜜にまみれた指を引き抜くと、そこに自分の猛っていたものを押しつけた。
 指とは比べ物にならない、大きなものが花を押しひろげる痛みに、香菜は呻いた。
  ゆっくり、ゆっくりと、花が一杯になってゆく。自分の中に火の棒が差し込まれたようだった。それは絶え間ない痛みを香菜に与え、いつの間にか目じりにはうっすらと涙が浮かんでいた。
 それを口唇でぬぐいながら、智は動きを止めたまま香菜の痛みを和らげるための愛撫を続けた。
 痛みと、それに負けないくらいの熱に貫かれて、香菜は夢中で智の背中にしがみついた。
 強く抱きしめられた香菜の体の中で、焼けた棒が暴れだした。鈍い律動を刻み、香菜を突き上げる。
 なだめるように指が芽をまさぐっていたが、それは花をかき回す動きと一緒に我慢できない新たな疼きをもたらした。息を詰めて、香菜は智と一緒にベットの上で揺れていた。開いた足の間に、幾度も幾度も数えきれないぐらいそれが押し込まれる。
「智、智、ああ、あ…」
 その動きに押し出されるように、意味を持たない声が無数にこぼれ落ちた。
「香菜…、すごく、いいよ」
 智が呻くと、一層激しい嵐が香菜を揺さぶり始めた。香菜の体の奥から背中をつたい、まっすぐにかけ昇ってゆく。きりもみ状につきあげてくる快感にもみくちゃにされて、香菜は、耐えきれず身を捩らせて、昇りつめていった。続いて香菜の奥に深く自分をくいこませて、智もつなぎ止めていたものを解き放ったのだった。