「そう、脚をもっと広げようねぇ」
何も知らなかった私に色んな事を教え込んだおじさんが、今どこでどうしているのか私は知らない。それでも体に刻まれたおじさんの名残は、わたしの生きる糧となって凄く助かっている。
「腰を上げるんだよ……そう、少しいやらしく腰を振ってごらん」
贅沢をしたい訳じゃない。ただ、欲しい物を欲しい時に買うだけの暮らしをしたかっただけ。我慢の効かない娘だと言われても、それは仕方がない。こんな世の中に生まれて、誰かの庇護の下、我関せずで欲しい物を欲しいだけ買うのが当たり前の時代に、ほんのささやかな物欲さえ抑え込まれ、我慢するのは容易な事じゃない。
「ああ、随分濡れるようになったねぇ。甘い蜜が、太股まで垂れてるよ」
それが男を悦ばせる効果だとおじさんは説明しながらわたしの肉を押し分けて陵辱していく。小さな乳房を掌に包み込み、腰を打ち付けて、大きな体躯で小さなわたしを支配していく。悲鳴のような歓声さえ、男心をくすぐるのだと教え込まれ、わたしはいつでもその声を挙げて蜜を垂れ流す方法を覚えた。青く見える果実も中は甘く芳醇に熟れているギャップが好きな男もいるのだと知った。

　時々思い出すおじさんの顔は既に朧気で、色んな顔が交錯する。そんなモンだろうといつも思う。既にわたしは青い果実ではなくなったしそう言う趣味の人達との縁は切れた。あれをロリータコンプレックスと言うのだと今頃知ったところで何の意味もない。それは単なる単語としての知識でしか無い訳だし、今はもうロリコン趣味の人の触手が決して伸びない位に私は成長してしまったのだから。



「お嬢ちゃん、何見てるの？」
おじさんを思い出す時、いつも夕暮れの雑踏の喧噪を思い出す。実際の時間は殆ど覚えていないけれど、何故だかおじさんは夕暮れをいつも背負っていた様な印象がある。靴屋のショーウインドウの前で、無心にそのガラスの向こうにある靴を眺めていた時に声を掛けてきた人。夕日と、その向こうの街の騒がしさを背負って、おじさんは微笑みながらそう訊ねてきた。その時の遣り取りは定かでは無いけれど、私が熱心に何を見ていたかだけは記憶に鮮明に残っている。
　赤い靴。綺麗な赤のエナメルの靴。
私は、その靴をガラス越しに眺めては、色んな事を想像した。あの赤い靴を履いて、お嬢様の様なドレスを着て歩けば、きっと私もかわいらしい普通の女の子に見えるに違いない、そう思っていた。
「買ってあげようか」
私が返事をせずに、おじさんの顔をちらりと見て、また無心にガラス越しの靴を眺めていたせいだろうか。おじさんはそんな事を言ったかと思うと、私の手をぎゅっと握って、店へと連れて入っていった。おじさんの手は汗ばんでいて、何となく気持ち悪かった。
　真っ赤なエナメルの靴は、ショーウインドウから外され、私の足下に収まった。それは運命的とも言えるくらい、私に似合っていたし足のサイズもピッタリだった。幼い頃の私が運命なんて言葉を知っていた訳ではなかったけれど、どこかでこれは私に履かれる為にここにあったんだ、と思った様に思う。
　おじさんは「よく似合うね」と言って、当然の様に私の手を引いて、街の中へと私を連れ出した。相変わらずおじさんは夕日を背負っていた。

　次に記憶に残っているのは、お城の様な綺麗な建物の中で、おじさんに
「足を広げて」
と言われた事だった。薄汚れたスカートと下着の向こうで赤いエナメルの靴が光って見えて、私は赤い靴だけを見つめながら言われたとおり、足を広げた。おじさんは、私の膝を内側からぐい、と広げて、その足と足の間に顔を割り込ませた。じっとそこを見つめて、私の内股を何度もがさがさした掌で撫でさすった様に思う。
　それが最初気持ち悪くて、私は自分の手でエナメルの感触を確かめたのだ。つるつるしていて、するん、と指が滑る。幸せだった。おじさんの大きな手が足を這うのも気にならないくらい、エナメルの艶やかな感触は私を満足させた。
「その靴、好き？」
おじさんはそう聞いた様に思う。私がこくん、と頷くと、
「おじさんが買ってあげたんだよ？」
と念押ししてきた。私がまたこくん、と頷くと、満足げに頷いて、私の服に手を掛けてきた。薄汚れたＴシャツを脱がされ、スカートをずり降ろされ、パンツは履いたままの私の股間におじさんは顔を埋めてくる。熱い息がパンツ越しに体に浸透してきて、凄く気持ちが悪かった。私がもぞもぞとすると、
「お嬢ちゃん、イイコだねぇ……じっとしててくれたら、もっといい物も買ってあげるよ」
と言われた。
　私はその時、不意に赤い靴に合う服を着た自分を思い起こした。じっとしているだけで、今度はいい服も買って貰えるかも知れない、そう思った。
　それの、何がイケナイ事だったんだろう？今でも、あんな幼い私に知恵を施したおじさんがとやかく言われるのは当然として、私が何かを言われる筋合いは無いと思っている。私はただ、その場でじっとしていただけだったのだから。
　おじさんは、大きな滑らかな舌を出して、パンツの上から私の中心部をぞりぞりと舐め上げた。はぁはぁと荒い息を吐いているので、最初気分が悪いのかと思った。
　ごそごそとおじさんが自分のズボンを触りながら、私の中心部を舐め続ける。べとべとに濡れて、気持ち悪くなっても、私は動かずじっとしていた。それくらい、服を買って貰える可能性に較べたら我慢するのは何でも無いことだった。
「お嬢ちゃん、パンツも脱ごうか」
そう言っておじさんは私に自分でパンツを脱ぐように促す。言われた通り、お尻からするりとパンツを脱いでいる間に、おじさんは自分のズボンを降ろしていた。

　「これ、舐めてくれるかい？」
おじさんは、自分の体から突き出たものを私の目の前に晒してそう言った。それが何であるのか、今の私は当然知っているけれど、その時の私が知るよしも無かった。赤黒くぬめった先端から透明な汁が滲みだしていて、所々、血管が浮き出ているそれを、私は本能的に、何か恐ろしい物、と感じ取った。硬直していた私に、おじさんは自分のそれを突き出して、頬や唇にすりすりと押しつけてくる。
「ね……おじょうちゃん、舐めて……」
はぁはぁと荒い息を吐き出しながら聞いてきたおじさんに、私は
「じゃあ、お洋服買ってくれる？」
って聞いていた。
「いいよ……洋服でも何でも買ってあげるから……」
おじさんは粘っこい口調でそう言ったかと思うと、私の頭をぐい、と押さえて、
「口を開けて……べろを出してね……」
と指示した。私は言われた通り、口を開け、舌を突き出し、おじさんの体から突き出たそれをぺろん、と舐め上げた。
「ぁぁぁ……」
喉の奥から漏れ出るような声を聞きながら、瞬間的に、この声をいっぱいあげさせたら、おじさんはいい服を買ってくれるに違いない、と私は悟った。塩の味がする体は、舐めてもいい感じじゃなかったけれど、土を舐める事に較べたらマシだわ、と私は思った。おままごとの時に、お腹が空きすぎて時々土のご飯をぺろんと舐めたりしたことがあったけれど、それに較べたら、全然マシ。私は小さなピンク色の舌をちろちろと口から出しては、猫や犬がするように、そこをぺろぺろと舐めた。お洋服を買って欲しいと言うより、チョコレートを食べたいって言えば良かったかな、って思いながら。

　おじさんが
「ぅぅぅ……」
と呻いたので我に返った。舐めているそばに、おじさんの大きな手があった。根元を自分の手で押さえ、何度か動かして、私のおでこをぐい、と押したかと思うと、体中に白いぬるっとした臭いものを放出させた。私はそれが何だか分からなかったけれど、あまりの気持ち悪さに愕然とした。おじさんは病気なのかも知れないと思った。はぁはぁと荒い息を吐き出すおじさんは、少し遠い目をしてどこかを眺めている。
「……おじ……さん？」
私が戸惑いながら、それでも意を決してそう呼びかけると、我に返ったおじさんは、
「あぁ……気持ちよかったよ、お嬢ちゃん、ありがとう」
と、私の頭を大きな掌で撫でてくれた。
私はほっと安心して、それから、体中にこびりついた白い液体を掌で塗り伸ばした。ぬるっとしているその感触は泥んこ遊びの様で、匂いと生温かささえ気にしなければ、大したことはなかった。
「体……洗おうか」
おじさんがそう言って私をお風呂へ連れて行ってくれた。そのお風呂は、そんなに大きく無かったけれど、清潔な感じがした。体を丁寧に洗ってくれるおじさんの手は優しくて、お父さんと言うのはこういう感じなのかもしれない、と思った。私は、おじさんと過ごした中で、お風呂の時間だけが何より大好きだった。

「誰にも言っちゃダメだよ」
おじさんは赤い靴を買ったショーウィンドウの前まで私を連れて来て、そう言った後、
「明日もおいでね」
と、あめ玉を三個くれた。こくん、と頷くと、大きな手で頭を撫でておじさんはそこから立ち去った。その大きな背中は夜の街へ吸い込まれて、私は慌てて家路を急いだ。帰路、あめ玉を一つ舐めると、とても甘い牛乳の味がして美味しかった。おじさんのあれも、こんな味だったら、もっと一生懸命舐めたのに、と私は思った。