2度目の恋 |
【 第3話 】
僕と貴巳は高校2年の時、はじめて同じクラスになった。 やや人見知り気味の僕と違って、屈託のない貴巳にはたくさんの友達がいた。もちろん、女の子にもかなり人気があった。にもかかわらず、貴巳は特定の彼女を作らなかった。 「そりゃあ、本命がいるからね」 どうして?と尋ねられると、貴巳はいつも冗談めかしてそう答えた。 女の子達は誰が本命かを知るのにやっきになり、いろんな噂が流れたが、貴巳はいつも適当に受け流して相手にしようとはしなかった。 僕達が仲良くなったきっかけは、文化祭の委員会だった。性別問わず各クラス2名、という枠に、僕はなかば無理やり、貴巳は自分から進んで立候補したのだった。 貴巳と仕事をするのは、すごく楽しかった。 てきぱきと優先順位を決めていろいろなことを処理していく貴巳の手際には、ほんとにほれぼれするところがあった。いくぶんシラケ気味だったクラスの雰囲気を上手にもりあげていき、タコ焼き屋で参加したその年の文化祭は、みんなの楽しい思い出となった。 貴巳は話し上手で、人の楽しませることに長けていた。また人に気を使わせないような気配りをすることも、そばにいるうちにだんだんわかってきた。 僕らはあまりにも違い過ぎていて、僕は貴巳が僕のどこを気に入って、一緒にいてくれるのか全くわからなかった。 「悠人、はやくしないとベルなるぞ」 化学の副教材がみあたらなくて、机の中をかきまわしてる僕に、貴巳がせかすように言う。 「うん……おっかしいなぁ、持ってきたハズなんだけど…」 奥の方までのぞき込もうと屈みこんだ僕の頭が、かるくぽこん、と叩かれる。 「なんだよ、貴巳。いま探してるよ」 「これ、なーんだ?」 手に丸めて持っているのは僕がさがしていた副教材だった。 貴巳の左手に重ねてもっている教科書の下にも1冊。ということは……。 「あ! それ僕のじゃんか!」 「いつ、気がつくかと思って待ってたんだけど、悠人、全然気がつかないんだもんなぁ」 悪びれるでもなく、にやにや笑いで僕にそれを手渡した。 「た〜か〜み〜!」 「ホラ、はやく行かないと、遅刻になるぞ。行こうぜ」 一体誰のせいなのか、と喉まででかかった言葉を、予鈴が遮る。 「あ〜あ、言ってる側から……。悠人、化学室まで走るぞ!」 身をひるがえして飛びだしてく貴巳の背中を、僕は慌てて追いかけた。 いつもの大人びた気配りとは裏腹な、こんな子供じみたいたずらが何度となくくり返された。 気がつくと、僕はいつもこうして貴巳の背中を追いかけてばかりいた気がする。 息がきれて、先に座り込んでしまう僕を、貴巳はしかたないなぁ、といたずらっぽく笑いながら待っている。 姉と妹しかいない僕にはピンとこなかったが、男兄弟がいたら、こんなカンジなのかもしれない。そう思うこともあった。 僕が貴巳に魅かれることは、あまりにもあたりまえのことだった。 貴巳は僕がこうありたいと祈ったすべてであったのだから。 僕の恋が、いつから形をとりはじめたのか、それは定かではない。 でも、気がついたときには、貴巳のひとつひとつの仕草が僕の目をとらえ、奪い、離そうとはしなかった。その意味を理解するよりはやく、僕は貴巳に欲情する自分に気がついた。 僕は貴巳に焦がれていた。 決して手に入らないからこそ永遠に追い続ける、あまたの探究者たちのように。 |