■ ふぇろ〜しっぷ in the Room
沢村様
Scene - 03

「……。えっと……変な…感じ……だね。こんな格好で講堂なんて……」
「そんな事言ってる場合じゃないよ。隠れるかくれる!」
 思わず引き戸に背中を預けて身を縮こまらせた綾香の手をそのまま引き、武藤が講堂を見回す。広い講堂には身を隠せる様な場所はない。だが体育教官室の方面から来たであろう人物がシャワールームか倉庫で立ち止まらない限り、講堂までたどり着いてしまうのは確実である。
「あの、舞台袖は駄目ですか……?」
「行こう」
 提案した自分に応えてからふと奇妙そうに見てきた武藤に、瑞穂は首を傾げた。何故ここに自分達以外の人物が混ざっているのかというついてきた自分への疑問なのか、まだ熱いままの頬が見ていておかしいのか判らない瑞穂に、武藤の目に一瞬だけどこか淫猥な色が浮かぶ。
「――来る?」
「? はい」
 手を触れたままの大きな金属製の引き戸にかすかに伝わってくる通路の複数の人数の生み出す細かな振動に、瑞穂は武藤の問いに頷いた。



「やばい……状態になってる気がする」
 数十人の生徒が講堂の四隅にパイプ椅子を並べる作業を始めるのを最前列のカーテン越しに覗いていた武藤の呟きに、奥まったカーテンに瑞穂と揃って隠れている綾香があっと声をあげる。
「明日、他校との剣道の親善試合があるの。生徒会主催の大きなイベントになるから手が空いてる者は手伝う様にって、図書委員にも通達があったの」
「……。おいおい……」
「でも…準備が終わったら帰られる…んですよね?」
「メンツかかってるからなぁ…うちの剣道部。準備終わったら練習しかねないな」
「そんな…困ります」
「困ると言われても、俺だって上半身着てないしもし出ていったら手伝いする羽目になるよ」
「神くん、そんなの駄目」
「判っているよ。――しっ、誰か来る」
 素早く二人の元へと駆け寄った武藤が隠れているカーテンのあわせ目を閉じる形で身を寄せた。厚い黒のカーテンの中に篭もる二人の少女の甘い匂いにやや身を強張らせる武藤の様子に気づく余裕もなく、瑞穂は互いに押しつけあう状態になっている綾香の身体に頬を染めていた。
 先刻唇が触れてしまった為か、同性愛などの興味がないものの瑞穂は相手の少女を意識してしまっている。性交渉の最中にあった女性の身体に自己投影してしまう羞恥心があるものの、ただ自己投影の対象としてではなく綾香本人を意識してしまう理由が瑞穂には判らない。――幼児の様な柔らかな肌も、わずかに貧弱ぎみな自分と異なり心地よい弾力のあった腿も、比べ物にならない程に優しげで柔らかい。恐らく男性が女性に求めるのはこの様な柔らかさなのではないのだろうか?
 同性から感じても心地よい感触とを思い出し、瑞穂の体温がほのかに上昇する。互いにバスタオル一枚しかない姿で密着して同じカーテンに隠れていては、火照った肌もにおいも誤魔化しようがなく、それが尚更綾香の内腿と下腹部の感触を思い出させた。
 何とか聞こえてくる舞台の上を移動しているらしい足音に一歩後ずさった武藤の背が、二人の少女を押す。
「……。これって役得?」
「神くんっ!」
 緊張を誤魔化す為かそもそも緊張していないのか小声で呟いた武藤に、綾香が思わず声をあげる。
「誰かいるのか?」
「兄さん?」
 カーテンの中に隠れていた為に周囲の状態がよく判らなかった自分の耳に届いた聞き覚えのある声に、同じ様に声を出してしまった瑞穂に背中を向けたまま武藤が小さく呻いた。