■ ふぇろ〜しっぷ in the Room
沢村様
Scene - 04

「瑞穂、いるのか?」
 二人とも口元に手をあてたものの既に手遅れである事は確実だった。真っ暗な状態の中で武藤と綾香の意識が自分に向けられるのを感じて、瑞穂は血の気がすっと引いていくのを感じながら数度深呼吸を繰り返す。
「兄…さん……ね?」
「どこにいるんだ?」
 この期に及んでせめて綾香の身体だけでも隠し続けようと考えているのか、カーテンと自分の身体の間に武藤がわずかにつくった隙間から顔だけ出して舞台の隅を覗き込んだ瑞穂のすぐ先に、長袖のシャツを肘までたくし上げている山崎の姿があった。
「お前、どうしたんだ?」
「そ……それが…その…に、兄さんは?」
「A判定だから安心してこき使うそーだ、あの生徒会長、俺が落ちたら責任とれるのかね…。――で、何を隠れているんだ?」
「その……これは……事情があって……」
 分厚いカーテンから顔だけ出して交わす会話の怪しさを感じながら、流石にバスタオル一枚の姿で舞台袖に出る事も出来ず、瑞穂は曖昧な笑みを浮かべようとして失敗する。そんな瑞穂の様子にやはり違和感を覚えたのか、瑞穂が顔の下で合わせているカーテンの横をくいと持つ。次の瞬間、厚いカーテンの揺らぎに息を殺して隠れていた二人の体勢が崩れて瑞穂を押し出し、カーテンの陰からたたらを踏んで三人は転げ出た。咄嗟にステップバックして避けた山崎の目が、最初に女子二人のあられもない姿に大きく見開かれ、次に上半身裸の武藤へと鋭く向けられる。
「――これはどーゆーこ……!」
 予想外の事態に声を荒らげた山崎の口を慌てて瑞穂の華奢な手が塞ぎ、三年生であるが帰宅部の山崎よりも体格のよい武藤が強引に舞台袖の隅へと引き込み、そしておろおろと見ていた綾香がそれに続く。
「あ、あの、私は違うの、これは……」
「何だ今の大声は」「舞台の方か?」「ちょうどいい、あっちも片づけるか」
 事情を説明しようとした瑞穂の耳に届く他の男子の声に、反射的に顔を見合わせた三人は続いて周囲を見回したその目に映る舞台照明用の2階へと続く小型の収納型の階段に、言葉も交わさずに頷いた。そのまま山崎を放り出して階段へと向かった武藤と綾香の後に続く自分の後ろ姿を見た山崎の表情が強張るのを肩越しに見、瑞穂は何を説明すべきか悩んだ後、紡げた言葉は短かった。
「誤解なのっ……」
「違う! ――見えるんだ」
 瞬間的にその意味が判らずに首を傾げた瑞穂の手を綾香と武藤が引きよせ、そしてそれに山崎が続いた。
 十畳足らずの照明用の小部屋に山崎の身体が転がり込んだ直後に武藤が階段収納のスイッチを入れ、舞台への階段を昇ってくる足音と同時にハッチが締まったのを確認した四人の口から大きな息が漏れる。