■ ふぇろ〜しっぷ in the Room 沢村様 |
Scene - 06 |
「助けを呼ぶなら…今のうち?」 階下の大勢の人の気配が気になるのか部屋の隅にある段ボール箱の上に縮こまって座って問う瑞穂に、山崎は首を振る。 ――確かに今のうちというのは事実である。無人になってからの場合は、講堂の内周に張り巡らされているキャットウォークまで出て階下に降りるか、舞台に向かって開かれているスポットライト用の窓から降りる事になるだろう。そう困難ではないが、まったく危険性がないとは言えない。しかし下手な呼び方をして、Yシャツ一枚の姿の瑞穂を大勢の男子の視線に晒すつもりにはなれなかった。 『それにしても……』 照明用器材や他の資材などが詰まれた室内は十畳程度ある筈なのだが、実際に入り込んでしまえば狭く、直前まで睦み合っていたであろうカップルと膝を突き合わせるには些か気まずい狭苦しさがある。逆の立場の武藤も同じなのか、いつのまにか別々に部屋の隅に座り込む形で落ちついていた。 山崎のYシャツを身に纏って腰をバスタオルで隠す幼なじみの白い膝を肩先に見ながら、大作は床の上で足を組みなおす。ちらりと見上げると無骨なYシャツを突き上げる双丘とその先端が作り出すシルエットの悩ましさに、先刻見てしまった階段を登る少女の腰と内腿が脳裏に浮かび上がる。学校で、昼日中に、性的過ぎる刺激がたまらなかった。 「兄さん…身体、寒くない?」Yシャツを脱いで武藤と同じく上半身裸になってしまった自分が気がかりなのか、不意に瑞穂が小声で問いかけてくる。「ごめんなさい…何だか…巻き込んじゃって……」 「困っているのを気づかないよりはマシだ」 わずかに寄せられた身体に、山崎の視界には更に瑞穂の胸元がはっきりと映る。薄い白布越しにうっすらと見える鴇色が、固くなって布を突き上げていた…布の摩擦の問題なのか少女が性的な何かに昂ぶっているのか、その下腹部を垣間見てしまった山崎には判りきった事だった。 同じ部屋に閉じ込められているもう一組の男女さえ居なければこっそりと悪戯してしまいそうな欲望に、山崎は何度目かの大きな息をつく。 「やっぱり寒いんでしょう? 今、返すから」 そう言い、下半身を包んでいるバスタオルを引き上げようと段ボール箱から軽く腰を浮かせた少女を、山崎は軽く引き寄せた。 「にい……」 「お前の方が寒いだろ。――身を寄せれば少しは暖かい」 80%ほど嘘だと自分の発言を評価しながら、瑞穂の身体を抱き寄せた山崎は自分の膝の上に華奢な身体を横座りさせる。 「でも…そんな……、人がいるのに……」 恥じらいながらも困惑した表情を浮かべて至近距離から自分を見る少女の唇に、青年は軽く指を当てた。小声での会話が途切れた室内に篭る、にちゃりと粘液質な音にようやく気づいた瑞穂の耳に口を寄せ、山崎は小声で囁きかける。 「――邪魔せずに大人しくしていた方がいいだろう?」 どう対応すればいいのか判らないのだろう、耳まで染まった瑞穂が膝の上で小さくうなづいた。 |