■ ふぇろ〜しっぷ in the Room
沢村様
Scene - 12

 長い睫を揺らしながら瑞穂は目の前の床に視線を落としていた。――狭い部屋で向き合う形に座っている状態では互いの距離などゼロに近く、山崎と武藤の足は今にもぶつかりそうな様子である。自然と瑞穂の正面には綾香の身体がきて、意図して顔を逸らさない限りはその露出した肌を見る事になってしまう…躊躇いは不純な汚らわしいものを見てしまう抵抗感ではなく、他者の秘め事を覗き見してしまう罪悪感と羞恥心によるものだった。
「兄さん……いや…許して…、お願いだから……」
「性教育のビデオを見るつもりで構えればいいさ」
「そんな…。――失礼に…なる……から…、駄目……」
 床に視線を逃がしている瑞穂の視界で、武藤の制服のスラックスの外側に置かれた綾香のピンク色に上気した脚がわなないて震えている。膝を合わせようとしているのならば強引に合わせる事など出来るであろうが、何故か綾香はそれをしない…その理由が判る様な気がして瑞穂の動悸が更に速まり息苦しさが増す。
「じ……神くん……いじめないでぇ…、おかしくなっちゃう……」
「でもこんなに近くで見られたら恥ずかしいよね?」
「……。いじわる…神くんの……いじわるぅ……」
 鼻のかかった明らかに甘い響きの篭もった綾香の声に、瑞穂はその表情がどの様なものなのかをちらりと見ようとした。
「……」
 背後の少年にすっかり身体を預けきっている綾香の手が、己の下半身を弄ぶ武藤の腕をゆるやかに掻いている。その指の動きは咎めて爪を立てているのではない事は、滑らかに時折円を描かせてくねらせている仕草から見て確かだろう。閉ざされた瞳と対照的に半ば開かれた唇から垣間見える白い歯とその奥のピンク色の舌が艶めかしく、熱い吐息を感じた様な気がして瑞穂の腰がびくりと震える。
「見ては…いけないの……兄さん…、ね……見て……は……」
「見るのも嫌って事かな?」
「そんな…っ、そんな…失礼な……ことではなくて……」
「いやらし過ぎて相手を軽蔑する様に見えるかもしれないな、ここで視線を逸らしていると」
「そ……そんな……」
 山崎の言葉に、誤解されるかもしれない事に気づいた瑞穂は呆然とした。他者の秘め事は本来見るべきではない、それは自分がされたくない事は人にもしてはいけないという基本的な考えに基づくものである。しかし確かに視線を逸らされた意味を誤解された場合は相手を蔑んだ態度と映る可能性がゼロではない。説明をしてから視線を逸らせばいいのかもしれない…そんな思考の中、ふと瑞穂はある事に気づいた。――綾香の口からは「見ないで」という制止の言葉が発されていない事実に。
『津田さん……?』
 もしかして自分の常識が狂っているのだろうか?そんな疑問に戸惑う瑞穂の肩を、ゆっくりと山崎の手が宥める。だが、瑞穂の感覚ではやはり他者の秘め事はやはり秘めるべき事という位置からそう簡単に変わる筈がなかった。
 先刻と異なり時折ぬちゅりと粘液質な音が沸き立つだけになっているのは、武藤の指がゆっくりと谷間の粘膜を撫でるだけで激しい動きがない為である。しかしそんな音ですら瑞穂の羞恥心を煽り立てるには十分過ぎた。
「綾香さん。――どうして欲しいの?」
「いじわるしないで…ぇ……、切ないの……、ね…?神く…ぅん……おかしくなっちゃう……」
「しっかり言わないとしてあげないよ、綾香さん」
 武藤が求める言葉に、人事だというのに瑞穂の身体がびくりと震える。――まるで自分が言わねばならない様な奇妙な強迫観念と同時に激しさを増す羞恥に、瑞穂は肩で浅い呼吸をつく。