■ ふぇろ〜しっぷ in the Room
沢村様
Scene - 15

 水を払う仔犬か仔猫の様に一度だけぶるっと身を震わせる瑞穂の背で、湿って透けかけたYシャツを掠めながら汗を含んだ黒髪が揺れた。
「ぃ……いや…兄さん……ゃ…いや……だ…め……」
 吸いつく様に柔らかな、それでいて薄く頼りない内腿に指を強く押しつけて山崎はゆっくりと滑らせる。指の作りだす窪みにとろりとした熱い潤滑液が溜まり、指を進めるごとにその量は徐々に増して山崎の指の丘に透明な隆起となって絡みつく。
「そうか?俺は好きだな…感じやすい身体」
「やぁ……っ…そんな……兄…さん……こんな場所…で……」
 弱々しくくねる腰はささやかに青年を拒んでいるものの、その抵抗はあまりにも弱かった。空いている片手を瑞穂の胸へと滑らせ、華奢な身体を仰け反らせる形で山崎はそっと引き寄せる。
「こんな場所も、悪くない」
「いや……駄目……っ…見られ……て……ぃや…やぁ……っ…いやぁ……やぁ……ん」
 張ったYシャツに押し潰されている胸の先端の突起を、軽く弧を描いてから布と一緒に摘み上げる山崎に、瑞穂の内腿がびくびくと震えて膝を不定期に締めつけた。
「自分だけ見られたくないのは不公平だろう?」
「兄さ……いや…っ!…ぁ……いや……駄目…それだけは……兄さん……おねがい……っ」
 前身頃の合わせへと滑らせた指に、瑞穂の唇から切羽詰まった哀願の声が漏れる。寒さや恥ずかしさよりも几帳面さからか、第一ボタンから裾までしっかりと填められたボタンをどちらから外すべきなのかを一瞬考えてから山崎はゆっくりと上へ指を進めた。
「――君達も…。津田嬢と…神…でいいのか?」
「彼女は津田綾香、俺は武藤神です」
「俺は山崎大作。山崎でいい。――で…、このままでいいか?それとも…どうしたい?」
「兄さん……!?」
「そ…そんな……」
 何を言いたいのかを察した綾香が驚いた表情で山崎と瑞穂の顔を交互に見た後、背後の武藤へと振り返る。その綾香の耳元に青年が顔を寄せた。
「綾香さん…どうしたい?」
「神くんまでっ」
 自分以外の少女を弄ぶ決定権を委ねられた綾香の頬が真っ赤に染まる…しかしその表情には羞恥の色は濃いものの、嫌悪の様子はない。背を向けている体勢の瑞穂の視線は山崎には判らないものの、おそらくは3つの視線が綾香に注がれている筈である。その視線の中で、綾香の瞳は瑞穂へと向けられていた。
「室生さん……」
 目尻を染めた綾香が、何らかの理由で端から見てもはっきりと乱れた深呼吸を繰り返す。何を意識しているのかを判らない人間はこの場にいない、それなのに綾香は同学年の少女をそのままにしておくという選択を即座に下せずに注目を受け続けていた。
「あ・や・か・さ・ん?」
 一音いちおんをゆっくりと口にする武藤に促され、綾香は乱れた呼吸のまま瑞穂を濡れた瞳で見ながら唇を震わせる。
「でも…室生さんが……困っているのに……」
「じゃあ…室生さんに『気持ちいい』って言ってもらえれば…挿れてあげるよ。それまでは、おあずけ」
「神くん…いじわる……」
 目の前の恋人同士の思いつきに山崎は胸の内で十字を切る。
 何といっても瑞穂は素直に気持ちいいと言える性分ではなく、その言葉を発させる為の苦労は並みではない。その困難さを彼らが知るはずはないのだから発案として仕方がないのかもしれない。本日彼らが本行為に至る可能性はゼロに近いだろう。だが、昂ぶりのあまりに恋人たちが焦れて本行為に及ぶとしても、それまで瑞穂が弄ばれて揚げ句に成功を目の当たりにし、精神面に揺さぶりを与えられるのは確実だった。
「――で…。どうしようか?」