■ ふぇろ〜しっぷ in the Room
沢村様
Scene - 18

「ね…、神くん……舐めたいの……」
「駄目だよ、綾香さん。ちゃんとしてからでないと今日は許してあげないよ」
「意地悪…」
 いつの間にかぼんやりとしていたらしい瑞穂は、目の前の恋人同士の睦まじい様子に緩い吐息を漏らす。とても恥ずかしい姿を晒してしまった気がしたものの、彼らの様子から察すると見られたり注意を引いてしまってはいなかったらしい。と、汗ばんでしまっている自分の背中を幼なじみが受け止めていてくれている事に気づき、瑞穂はまだ落ち着かない肌とささやかな沈殿感に、瞳を閉じる。
『兄さん…温かい……』
 先刻の不安が夢の様な、しかしどこかざわめきの残る心地よい脱力に身を任せる瑞穂の身体を、そっと山崎の腕が背後から抱きしめた。
「――落ち着いたかな?」
 蜂蜜を思わせる甘いスキンシップに、まだ慣れられずにいる瑞穂の落ち着きかけた動悸がまた速まっていく。病院で受け続けていた狂いそうな愛撫に酷似した激しさを有するというのに、医師と異なり幼なじみの青年が時折みせる包み込む様な優しい抱擁は緩急をつけて少女の胸を波立たせる…性的な仕草であっても、男女の交わりはセックスだけではないと諭してくれる様なその温かさは、家族の様な存在への優しさなのか異性としての優しさなのかが判らないままであってもそのまま浸っていたくなる。
「す……少し……、その…大丈夫……」
 先刻の昂ぶりの恥ずかしさに瑞穂は嘘をつく。――下半身の気怠さだけでなく、下腹部はまだ恥ずべきもどかしい疼きが残り続けている…しかしそれも放ってしばらくすれば収まるであろう。あれからどれだけの時間が過ぎているのかが瞬間的には判らない上に快楽に対してどうしても否定的な瑞穂に出来る答えは限られていた。
「少し満足しかけているけれどもの足りない、だろう?」
「――っあ!」
 背後から瑞穂を抱きしめていた腕が動き、不意に山崎の手がYシャツの胸のボタンを器用に1つ外して滑り込んで柔らかな胸に直接触れる。
「『大丈夫』っていうのは何かがあった時に言う言葉だろう? ――だったら、何かがあるって事になる」
「いや…ぃや……兄さん…っ、おねがい……触るのは…ぁ……ぁん…ゆるして……」
「まだ凝っている」
 汗で濡れて透けかけている布の下にかすかに浮かび上がって映る青年の手が動くたびに、固く尖ったままの胸の先端を山崎の親指と中指が小刻みに擦りあげて瑞穂の吐息を震わせた。同じ素材の女子のブラウスがブラジャーを透かしてしまう恥ずかしさとどこか似ている恥ずかしさではあるものの、自分が異性に胸を愛撫されている光景は酷く少女の羞恥心を煽り立てる…ましてや同じ部屋にもう一組の男女が居るとあっては。
 山崎の腿の上で身をよじった瑞穂は、ヒップに感じた硬い感触にびくりと身を強ばらせる。
「兄……さん……」
 異性の昂ぶりを感じた瞬間から下腹部から全身へとじわりと広がっていく甘い感覚に、少女は何度も肩で震えた浅い呼吸を繰り返す。
 取り柄などない自分が他者に何かの手助けを出来れば嬉しい、そんな考えを持つ瑞穂であるが「それ」が非常に危ういものである事をうっすらと感じていた。――処女としてはあるまじき異性への奉仕衝動…喜ぶ顔が見たいという優しく幸せな感覚とは別の次元に存在する、獣の様な狂乱に身を委ねてひたすら尽くしたい、淫らに異性に平伏して望むがままに貪られようとする不可解な従順さに、瑞穂は怯えていた。
 幼なじみの威容を感じ取っただけで、身体の奥から熱くもどかしく恐ろしい感覚が込み上げてくるのを瑞穂は感じる。
「ぁ……あ…ぅ……っ…兄さん……にぃさ……ん……ごめんな…さぁ…ぃ……おねがい…ゆるして……ぁ…ぁん……くぅ……ん」
 触れられてもいない下腹部の奥からとろりと溢れる熱い粘液の感触に、瑞穂はぶるっと白い肌を震わせた。俯せぎみになっている姿勢に、腰までの長い黒髪の先が汗に濡れた腿をなぞり、こそばゆさが甘い刺激に結びつく。
 異性を刺激してはならないと理性が注意を喚起するものの、熱く甘い苦しさに瑞穂の身体は自然と山崎の腰の上で淫らにくねっていた。その動きが異性を擦りあげて悦ばせるものなのかを少女は知らない…手を添えるか唇と舌で奉仕をする方法は教えられていても、腰で男を悦ばせる方法を瑞穂はまだ理解していない。
 いっそ綾香の様に奉仕の要望を口に出来ればよかったのかもしれない。だが瑞穂の頑で潔癖な部分がそれをふしだらな行為だと躊躇わせる。ましてや先刻まで優しく自分を抱きしめてくれた幼なじみが性的に興奮していると思う事自体が間違いなのかもしれない…男性は何もなくても身体が変化してしまう事があると、以前教室の男子の声高な雑談で聞くとはなしに聞いてしまっている。だとすれば瑞穂のこの意識は淫らな妄想ではなかろうか?
 優しい包容の直後だというのに昂ぶってしまう身体に怯える瑞穂の膝が、細かく擦り合わされては時折うすく開いていく。