■ ふぇろ〜しっぷ in the Room
沢村様
Scene - 20

「ふぅん…キス済みとはね」
 思わず口元に手を当てて俯く瑞穂の耳に、山崎が息を吹きかける様に心なしか低く囁きかけてくる。
「違…っ……、違うの…あれは……事故みたいなもので……」
 そう言いながら瑞穂は山崎の膝の上で身をよじる。もしも綾香に愛撫をされるとしたらどこでなのだろうか?この狭い室内で男子二人の邪魔にならない場所…しかしそもそもこの狭さではおかしな吐息を漏らしてしまっても異性の耳には届いてしまうであろう。幼なじみと自分をそう分類していいのかは疑問なものの、互いに異性の相手がいるというのに女子同士を絡ませあうという行為に瑞穂の思考はどうしてもついていけなかった。――だからと言って綾香と二人きりならば同性で絡み合って淫らな行為に耽れるかと言えば…不意に廊下で折り重なった時とカーテンの中で身を寄せあっていた時の綾香の身体の柔らかな感触を思いだし、瑞穂は耳まで赤くなる。
「綾香さん、室生さんとキスしたんだ?」
「廊下で……廊下で転んだ時にぶつかっちゃったの……ホント…ぁぅ……、ね…神くんじゃない人と…キスなんて……したくないの……だから……」
 言い訳をしながら綾香の手が自分の脚を大きく開かせたままの武藤の腕の上を何度も滑る。人前とは思えない乱れた甘える仕草を視界の隅で見、瑞穂は吐息を漏らす…明らかに少年に身も心も許している綾香の素直さは恥ずかしいもののどこか羨ましかった。
「怒ってないよ。――見たかったな、二人とも可愛いから凄くよさそうだ」
「本当……? 怒ってない……?」
「本当。たっぷり見たいな…女の子同士のキス……。――山崎さん、キスは……」
「していないのは最後だけ。この通り」
 背後から伸びている手が軽く首を捻らせる動きに、瑞穂は反射的に瞼を閉じる。
 腿の上に乗っている為に生じる高低差に山崎が背筋を伸ばす動きを密着している背中に感じ、誘われるままに身を捻った瑞穂の唇の先に人の気配があった。
「だめ…他にひとが……」
 小さく囁きながら飴かガムかのペパーミントのにおいを感じた次の瞬間、言葉の途中だった為にわずかに開いていた無防備な唇を山崎の唇が啄んだ。びくりと震える瑞穂の顎の線を支える指をそのままに、片手が瑞穂の腿の上に延ばされる。少し首を傾けながら何度もゆっくりと鳥の様に唇を重ねては時折軽く唇を甘く噛むキスが繰り返される。
 身体を捻った為に手が届く様になった胸板に指を添えた瑞穂は、直接触れた山崎の肌の感触に身をわずかに強ばらせた。相手が上半身裸だという事を何故かすぐに忘れてしまう…そして幼なじみの肌を感じた瞬間に動悸が速まる事を繰り返す。毎朝山崎家の両親に隠れて交わす『朝の挨拶』は互いに制服姿になってから行われる為、夜毎の濃厚なコミニケーションとは趣が異なる。――明るい日中の校内で交わすキスは朝のものと基本的に変わらない筈だった…しかし山崎は上半身裸であり、瑞穂自身は借りたYシャツ一枚という頼りない姿だった。それが瑞穂を危うい感覚にさせる。
 何度も優しく重ねられる唇に、そのたびに瑞穂の内心で緊張と安堵が繰り返される。次は舌が捻じ込まれてくるか、唾液が流し込まれるか…唇がわずかに離れるたびに予測に身構える瑞穂の下腹部から全身にじわりと甘く淫らな昂ぶりが染みわたっていった。顔見知りの前で触れ合うだけのキスを交わすのですら恥ずかしいというのに、何度も山崎の唇はそれを繰り返し、綾香達に見せつける様に徐々にその身体を倒して横顔を晒させる。――見られているのかもしれない…目を逸らしてくれているのかもしれない…瞳を閉じている瑞穂には彼女達の様子は判らなかった。映画やTVで見る様な重ねるだけのキスを見られてしまっただけならば、まだ引き返せる所に自分は居るのかもしれない。
 最初は山崎の腿の上にまっすぐに座り込んでいた瑞穂の身体は、上半身を捻っていた為にいつの間にか斜めを向きかけていた。何度も擦りあわせた膝から力が抜け落ちかけ、内腿に滑り込んだ山崎の手が粘液と汗の混ざり合った濡れて火照った肌の上を優しく滑る。徐々に脚を開かせていくのを感じながらも、瑞穂は内腿をわななかせる事しか出来ずにいた。
「ん……んん……っ!」
 ようやく差し入れられた舌に、瑞穂は小鼻から切羽詰まった鳴き声を漏らす。
 よく動く舌が唇の内側の粘膜をくすぐりはじめた時、少女は歯を合わせて拒まずに、舌が軽く捻じ込めてしまう程度に薄く歯の間を開いたまま細いすすり泣きを漏らした。少しざらついた舌がぬるつく口中粘膜をゆっくりと舐り、余すところなくその感触を確かめる様に唇とその内側を蹂躙した後、歯と歯茎へと移っていく。
 舌に絡みついていたねっとりとした唾液のペパーミントの辛みが口内に広がるのを感じながら、瑞穂はまだわずかにしか溜まっていない唾液が嚥下する。――幼なじみの青年に濃厚なキスをされている所を見られてしまった…唾液を飲み込む所も、開いた内腿を愛撫されている所も…。消えたくなる程の恥ずかしさと同時に、それを押し流す様に身体を熱くさせる怖く甘い昂ぶりに、瑞穂の下腹部が無意識に収縮と弛緩を小刻みに繰り返して粘液がとろとろと溢れ出た。切なくもどかしい軽い浮遊感に鳴き声を漏らす瑞穂の舌が揺れ、山崎の舌に触れる。
 力の入らない身体を乗せたまま、人一人が割り込むには十分な状態へと山崎の足がゆっくりと開かれた。