■ レインタクト 第20幕<1>
水瀬 拓未様


 誰かと一緒に眠るのは随分と久しぶりで、だから、人肌がこんなにも暖かいことを美夜は忘れていた。
 けれど、はじめて知ったこともたくさんある。
 向き合ったまま絡めた足と、指による柔らかな愛撫。芹菜の体温と鼓動が自分に浸透していくたび、何とも言えぬ感覚に身体の奥が震え、声が漏れた。
 自分の肌がこんなにも熱を帯びること。
 ささやきひとつで濡れてしまうこと。
 そして、自分がこんなにも欲しがりだったこと。
 染み出すような余韻をいつまでも感じていたくて、芹菜に手を握られたまま目を閉じていたら、鼻先に何かが触れた。
 目を開けると、眼前に芹菜の笑みがある。
 それが、鼻先同士をくっつけている感触なのだと分かるまで、少しだけ時間がかかった。
「……寝ちゃう?」
「いえ……もう少し、このまま……」
 そう答えはしたけれど、すでに意識はまどろみはじめているから、じきに眠りへと落ちてしまうだろう。
 だから意識が途切れる刹那まで、芹菜を感じていたかった。
「……芹菜さんの匂い、好きです」
 自分が暮らしていた空間に、誰かの匂いが染みこんでいく。
 それが芹菜のものであることが、美夜は嬉しかった。
「あたしも美夜ちゃんの匂い、好きだよ」
 くすっと笑ってから美夜の髪に顔をうずめた芹菜は、
「……良い匂い」
 そう囁いて、耳たぶを噛む。
「ん……っ」
 噛まれた感触そのものより、舌で舐められて濡れたことに反応して、自然と身体がすくむように強張った。
「……今度、お風呂一緒に入ろう?」
「え?」
 芹菜の突飛な提案に、思わず変な声がでてしまう。
「うちの寮、お風呂広いから。いつもあたしが使ってるやつで、全身、隅々まで泡だらけにしてあげる」
 悪戯っぽく笑った芹菜の指が、髪を絡めた。
「あ、えと……」
 芹菜の真意が分からずに戸惑っていると、
「そうしたら、もっと同じ匂いだから」
 付け足された言葉で、彼女の企みを知る。
 芹菜の指は、美夜の髪をつまんで、弾くように撫でる。
「あっ……」
 それだけの仕草に声が出て、恥ずかしさからそれを堪えようとしたら、耳たぶをもう一度甘く噛まれてしまった。
「……今夜は、良い夢を見てね」
 要所で囁いてくる声は、美夜が困るたび、楽しそうな響きを帯びる。

 意地悪な人。

 だけど、そんな芹菜の気配をこんなにも近くに感じていられることが、なによりも愛しかった。