■ レインタクト 第20幕<5>
水瀬 拓未様


 芹菜から、以前話した食事会を明日開く予定だと聞かされて、咲紀は学園の帰り、馴染みのスーパーに立ち寄った。
 今回は前回――屋上で美夜を誘って芹菜を驚かせたもの――よりも人数が増えるという話なので、必然的に気合いも入る。
 人数が多いなら話も弾むだろうし、それなら気楽に食べれるほうがいいかなと、クラブサンドを作ることに決める。
「これなら多少好き嫌いがあっても大丈夫だし、余分に作って、もし余っても、持ち帰ってもらえるだろうし」
 パンはお気に入りのパン屋で別に買うとして、具材は自分が挟みたいものをメインに、気分と値段で選んでいく。
 この鶏肉が美味しそうだから蒸して使おう、とか。
 やっぱりトマトは外せないな、とか。
 カゴのなかはあっという間に材料で溢れて、予算もちょっと溢れてしまったけれど、それでもかまわないとレジを済ませる。
 料理をするのは楽しい。
 手間をかければかけるだけ、美味しくなっていく素材。
 自分の作ったものを食べた人が笑顔になってくれるのを見るのが、咲紀はなによりも好きだった。
 自分も嬉しいし、相手も嬉しい。
 それは至極単純なことだけれど、シンプルだからこそ、ごかましのない至福だ。

 恋愛も、それと似たようなものなのかな。

 ふと、買った材料を袋につめていた手がとまる。
 だとするなら、あの日の自分の告白は、少し急ぎすぎて火の通りが甘かった煮物みたいなものだろうか。
 いや、むしろ――――煮込みすぎて固くなった、とか。
「……レシピがあればよかったんだけど」
 呟いて、なんにでも料理に結びつけてしまう自分の思考が少しおかしくて笑ってしまう。
 でも、そんな自分が嫌いじゃなかった。
 だから明日も、精一杯美味しいものを作ろうと思う。
 せっかくの機会だから、久しぶりにパンケーキを焼いてみるのも悪くない。
「私の料理なしでは生きていけない、ってぐらいのを、いっちょ作ってやりますか」
 それはもはや料理ではなく魔法の領域だな、なんて考えながら、咲紀は買い込んだ材料を手に、パン屋へと向かった。