■ レインタクト 第20幕<7>
水瀬 拓未様


 里奈とのキス騒動から一週間が経って、結花を取り巻く環境は少しずつ変わり始めている。
 中等部の後輩は、変わらずに自分を慕ってくれる子と、夢から覚めたようにぱったりと顔を見なくなった子にわかれた。
 やはり一過性な部分もあったのだなと、そう思えば少し寂しい気もしたけれど、それを移り気だと責めるつもりはない。
 自分は憧れの対象だと知っていたし、里奈とのキスは、そういう立場との決別であると分かっていた。
 むしろ想定外といえば、里奈が髪を切ったことだ。
 美夜との関係をごまかすために里奈を利用してしまったのは事実だから、そのせいで彼女が髪を切ったのであれば、責任は自分にある。
 そんなことを思っていたら、
「自分のせいで髪を切ったと考えているなら、思い上がりよ?」
 里奈からそう言われて、言葉に詰まった後、苦笑した。
「悪い癖。なんでも自分のせいだって考えるところ」
 溜め息混じりに笑う里奈の口調には、以前のように互いを牽制する雰囲気はなく、忠告と言うよりも愚痴に近い。
「……あなたも、人の事は言えないでしょう」
 少し気恥ずかしくて、そんなふうに言い返したら、里奈はおかしそうに笑ったあと、
「そうね」
 そう言って、素直に頷いた。
 あのキス以来、里奈とはこんな調子で、以前のようにすれ違うたびに噛みつき合うような会話――端から見れば今だって似たようなものかもしれないけれど――をすることもなくなった。
 里奈と二人で話していると、あれこれと小声でやりとりする女生徒たちの姿が目に入ることもある。

 さえずる、とはよく言ったものね。

 毎朝のように自分を眺める、名も知らぬ生徒たち。
 けれど、中には面と向かって言ってくる頼もしい少女もいる。
「里奈とのこと、友達から聞いた」
 その日、寮室で本を読んでいたら帰ってきた芹菜がいきなりそんなことを言い出したので、相変わらず噂に振り回されないんだな、と思って笑ってしまった。
「いつの話をしてるのよ」
「仕方ないでしょう、あたしは今日知ったんだから」
 少し拗ねながら答えた芹菜の様子がおかしくて、ついつい、からかいたくなってしまう。
 これも悪い癖だろうなと分かってはいるけれど、そんな自分が好きな以上、やめる必要もないだろう。
「それで? なにか聞きたいことでも?」
「別に……ないけど」
 はぁ、と溜め息をついた芹菜は、それから、
「この前の約束、覚えてる?」
 と、そんなことを言い出した。