Holiday きまぐれな夏 2
【 第2話 】

「見たいのはいいけどさ」
 絵里姉ちゃんに袖をひっぱられてソファにふたたび腰かけながら、俺はささやかな抵抗を試みた。
「なんでこんな手錠がいるかな」
 呆れた声を出して平静を装っていても、本心はまったく逆だった。もしかして、とは思っていてもいざとなると焦ってしまうのはどうしようもない。恐ろしい勢いで早鐘を打つ心臓と、緊張でうわずる声を気取られたくない一心で、スエットを引きずりおろそうとしている姉ちゃんを揶揄するしかなかった。
「だって、こないだみたいに逃げられたらやだもん」
 スエットの前がすでに張り出しているのに気づいて、姉ちゃんの手が一瞬だけ止まった。言われただけであっという間に臨戦態勢になってしまった気恥ずかしさから逃げるように、言われる前に自分から腰をあげ、絵里姉ちゃんの動きを助ける。
「逃げてないじゃん。終わってからは逃げたけど」
「そうだよ、もっと見たかったのに。カズちゃんの意地悪」
 憎まれ口をたたきながら、上はトレーナーのまま下半身は下着一枚になった俺の膝の間に絵里姉ちゃんが座り込んだ。顔がみるまに上気して、あの色っぽい顔になっていく。
 ああ、そうだ。俺はずっとこの顔が見たかったのだ。普段では絶対見ることができない、女の顔をしている絵里姉ちゃん。
「意地悪って……あんだけ見たんだから、充分だろ。見られるほうだって恥ずかしいんだぞ」
 本当は今だって恥ずかしいけど、それよりはずっと期待のほうが勝ってしまっている。熱っぽい視線で、俺の足やら内側から突き上げている下着やらをねめ回している絵里姉ちゃんを見ているだけで、すでにそそり立っているそれがしゃくりあげてしまいそうだった。される前からそこまで昂ぶっている自分が、少し恥ずかしい。
「でも、見たいんだもん。……見ちゃうもん」
 ため息をつくみたいな甘い声でそうささやくと、絵里姉ちゃんは下着の薄い布に顔をうずめた。そのまま布越しに熱い吐息を吹きこまれて、充分熱をもっているはずのそこが更にじわりと温度をあげる。
「カズちゃんの、またおっきくなってるぅ……」
 布ごとざらりと舐めあげられて、気持よさに思わずあごが上がった。なぞられた場所がみるまに濡れて色が濃くなっていく。密着した薄い布越しに、柔らかな感触が何度も押し付けられる。そうかと思うと、柔らかな唇が張りつめた竿を甘噛みして、その間も繊細に動く指先が布を引っ掻くように敏感な先端を刺激する。
 なんだかものすごくいやらしいことをされてる。そんな気がした。焦らされているみたいに、なかなかじかに触れてもらえない。それなのに、俺のそれはすでに限界まで張りつめた状態で絵里姉ちゃんの舌の動きにあわせてびくびくと震えていた。
 俺は荒い息をつきながら、足の間で一生懸命に頭を動かしている絵里姉ちゃんを見下ろした。きゃしゃな肩にすんなりと伸びた顎から首のライン。そこに触れてみたいというささやかな欲望を、がちり、と硬質な音をたててぬいぐるみみたいな手錠が阻む。一見おもちゃみたいにちゃちなくせに、思った以上に頑丈なつくりのようだ。とてももどかしかったけれど、同時に、逆にその事がひどく俺を安心させた。
 不意打ちだった前回とは違って、俺はもう絵里姉ちゃんを女として強く意識してしまっている。自慰の時に舐められた事を思い出すばかりでなく、あろうことかみたことのない裸を思い浮かべ、濡れた体の奥に押し入ることさえ妄想していた。
 心の奥底で疼いている乱暴な欲望と、絶対してはいけないという刷り込まれた理性の葛藤を、この手首を拘束しているおもちゃみたい手錠が開放してくれている。どんなに俺が切実に絵里姉ちゃんを貫きたいと望んでも、自分でそうすることはできない、その安心感。そこから生まれるはずの快楽を望む気持ちより、許されない線を押し流されるままに越えてしまう恐ろしさの方がはるかに大きかった。
 それでも、こらえきれないもどかしさに腰をもぞりと動かすと、それを待っていたかのように絵里姉ちゃんが顔をあげ、下半身を覆う最後の一枚を引きずり下ろした。
「あ……」
 声をあげたのは俺だったのか、絵里姉ちゃんだったのか。跳ね上がるように飛び出したそれをすぅっと冷えた空気が撫でていく。
 見られてしまう恥ずかしさを感じる間もなく、目を閉じた絵里姉ちゃんの顔が近づいてきて、はりつめたモノはピンク色の唇の間にぬるりと飲み込まれていった。
「う……っ」
 とろりと熱く溶けた舌に絡め取られる。めいっぱい硬くなっていたはずなのに、更にどくりと力が流れ込んでいく。ちゅぷ、と腰のあたりから聞こえてくる水音と、ゆるゆると動いている絵里姉ちゃんの頭。そして、温かく濡れた口の中で執拗に舐め回される快楽は、禁忌など簡単に吹き飛ばしてしまいそうなほど意識を侵食して、頭の中を欲望一色に染め抜いた。
 血管が浮き出るほどに強張った竿が柔らかな口唇で柔らかく締めつけられ、張りつめた先端から滲む腺液は流れ出る間も与えられず舐め取られる。それどころかまるごと搾り取るように幾度も吸い上げられ、たまらず声が漏れてしまう。
 実際に体で感じている気持よさもさりながら、可愛い鼻先をこすりつけるようにして、ピンク色の舌を伸ばしている絵里姉ちゃんの嬉しそうな表情が、俺を何倍も興奮させた。泣いているわけでもないのにしっとりと濡れた瞳が時折俺を見上げ、満足そうに細められる。そうすると腰の奥でぐるぐる渦を巻いているそれを、全部飲み込もうとするかのような激しい快感が間髪入れずにつきあげてくるのだ。
「絵里、ねえちゃん……っ、うぁ………」
 小さく尖らせた舌先が裏筋から鈴口をちろちろとなぞり、そのまま先の割れ目をくじるように小刻みに押し開かれる。そんな事あるはずないのに、そのまま絵里姉ちゃんの舌が細く管をたどって俺の中に入ってきてしまいそうな気がして、ぞくぞくと背筋から下肢に電気が走った。
「すごい、カズちゃんのびくびくしてるぅ…」
 熱いため息が根元にまとわりつく。一度離れても、唇はすぐ俺を飲み込んでしまう。硬度を増す一方の俺とは対照的に絵里姉ちゃんの口はどこまでも柔らかくて熱くて頼りなくて、つられるように腰を突き入れてもぬかるんだ感触が全部をゆるゆると包み込んでしまう。同時に弾力のある舌が間断なくくびれや裏筋を撫で回し、ねだるようにまとわりついては根元で疼いている射精感を刺激し続けた。
 なんとか意識をそらさなくてはあっというまにいってしまいそうだ。
 快感に引きずり込まれるまま閉じていた目を開くと、てらてらと唾液まみれになった浅黒いモノが絵里姉ちゃんの頭の動きにあわせて見え隠れしていた。まるで食べられてるみたいだ。うっとりと目を閉じて俺を貪っている絵里姉ちゃん。ため息とも喉を鳴らしているともつかない声を漏らしながら、飽きる様子もなく首を振っている。
「絵里姉ちゃん、舐めるの、好きなんだ…?」
 返事の代わりにもぞりとお尻が動いた。
「見る、って言ってたのに、舐めてばっかりじゃん……」
 困ったような視線が俺を見上げた。それでも口は休まない。背中がたまらなく淫靡な動きでくねったかと思うと、次の瞬間強く吸い上げられた。
「うぁ………っ、姉ちゃん…っ」
 質問をとがめるような乱暴な快感が押し寄せてきて、俺は慌てて奥歯を噛みしめた。絵里姉ちゃんは手加減しなかった。吸いつかれている先から何もかも流れだしてしまいそうな強烈な感覚にたまらずうめき声が漏れる。
 その荒々しい快楽につられるように、体が動き出す。不自由ながらもソファの背に肩を押しつけるようにして、より深く、奥へと、突き入れるように腰を突き上げ、蕩けた口の奥を強引にこづきまわした。
「んっ、んんっ……ふぅ………ン」
 ふと気がつくと、片手を俺の膝にかけ、床に座りこんでいたはずの絵里姉ちゃんの腰が、後ろに突き出すように軽く浮き上がっていた。深くねじ込むたびにスカートに包まれたそのお尻がぶるっと震える。揺さぶられるように乱暴に口を犯されているというのに、目を閉じたままの絵里姉ちゃんの顔は深い陶酔に彩られ、その体からのあちこちから匂いたつような欲情が見てとれた。
 どうしてこの間はわからなかったのだろう?
 苦しいせいだけじゃない荒い息遣いも、とどまる気配すらみせない舌の動きも、せつなそうに寄せられた眉も、時折じれったそうによじられる体も、なにもかもが絵里姉ちゃんの中で吹き荒れている欲望のあらわれだというのに。
 俺のモノにむしゃぶりつきながら感じているであろう絵里姉ちゃんを見ていたら、もうこれ以上こらえる理由なんてなにもないような気がした。
 絵里姉ちゃんの舌が、口が、こんなにも激しく俺を追い上げていて、そして絵里姉ちゃんの小さい体は俺に深くねじ込まれるたびに幾度も震える。膝がだんだん開いて、こんなに誘うような顔で甘ったるい鼻声を漏らしていている。
 嵐の海のようにくりかえし間断なく押し寄せてきているそれが、いまにもはじけてしまいそうな予感に、俺はとうとう声をあげた。
「絵里姉ちゃん……もう……っ」
 次に起きたことは、俺の予想と期待をはるかに超えていた。
 寸前まで高められたそれが、絵里姉ちゃんの口内から抜き出されてしまったのだ。反り返ったモノはそとから見てもわかるくらいビクビクと震え、その先と絵里姉ちゃんの唇の間を細い銀の雫が渡った。
「えっ」
 嵐のような快楽から突然とり残された俺は、何が起きたのかわからず、いたずらっぽい顔で荒い息をついている絵里姉ちゃんを、呆然と見つめるしかできなかった。
 唇と入れ替わりに、白い指先が唾液に塗れたそれの上をなだめるようになぞっていく。けれども、あまりにもぬるすぎる淡い感覚はヒートアップしたままの思考を無遠慮に引っ掻くだけだった。
「なんで……っ」
 行き場をなくして荒れ狂う焦燥が、俺の口調を荒くした。たまらず叫ぶと、それを待っていたかのように絵里姉ちゃんはにっこりと唇の両端を吊り上げ、猫のような仕草で俺の膝先に上気した頬をすり寄せてきた。
「舐めるの、すき。……だからいっぱい、いっぱい、舐めさせてね?」
 さっきの質問に対する痛烈な意趣返し。
 ああ、そうだ。絵里姉ちゃんがあんな恥ずかしい質問をされて黙っているはずなどないではないか。してやられた悔しさと同時に、その言葉が意味しているもの―――ずっとフェラチオでイくことができないまま舐められ続けるかもしれない可能性に思い至って、ぞくりと肌があわ立った。
「……あんまり舐めたらふやけるんじゃないのか」
 悔しさまぎれにこんなへらず口をたたいていても、ギリギリで寸止めされた腹立たしさより、焦らされていっそう高まるであろう快感に期待している俺の本心など、見透かされているに違いない。
「ふやけるくらい舐めてもいい?」
 鼓動にあわせて小刻みに震えているモノに、ちゅっと小さな音を立てて唇が吸いついてくる。裏筋から先端にかけて、時々舌を覗かせながら軽やかなキスが繰り返される。
「………いいよ。絵里姉ちゃんに舐められるの、むちゃくちゃ気持ちイイから」
 だから、また咥えてほしい、と口に出す代わりに唇を割り開くようにしてそれを押しつけた。絵里姉ちゃんは急に正直な言葉を投げられてビックリしたように目を見開いていたが、柔らかく濡れた唇は逆らう事なく俺の強張りを受け入れ、再び、熱く蕩けた口の粘膜が俺を包み込んだ。
「んん………」
 さっきより、もっとうっとりと溶けた表情で、絵里姉ちゃんが唇をめいっぱい開いて俺のを深くくわえ込んだ。何度見ても、その顔は刺激的で、いやらしくて、俺をいてもたってもいられない気持ちにさせた。
 ためらうことなく、喉奥をめがけて腰を突き上げる。口内を擦るずるりという音が、耳からではなく肌の上を駆け抜けて伝わってくるようだ。腕を動かせないままぎこちなく腰をゆすりあげる俺の動きと、深く喉奥へと飲み込んでいく絵里姉ちゃんの動きがシンクロして、総毛立ちそうな痺れが背筋を這い上がっていく。
 もっと舐めたい、と絵里姉ちゃんは言うけれど、この愉悦に耐え続けていくなんてとても不可能なことのように思えた。腰の奥が重くはりつめて、どろどろとした欲望が渦を巻いて出口を求めうねっている。どんなに乱暴に突き入れて掻きだしても、絵里姉ちゃんの舌は絶え間なく先やくびれに絡みついて逃げ場がない。
 再び限界寸前まで火勢をかきたてられるのに、いくらも時間はかからなかった。
「絵里ねえちゃん……ッ、ちょっ、だめだよ………っ」
 声をあげ、絵里姉ちゃんを呼べば呼ぶほど、咥えられているそこから沸きあがるひりつく快感はどんどん勢いを増していき、何とか踏みとどまろうとする俺を押し流そうとする。
「そんなにしたら……出るって……うぁ…………っ」
「んんんっ、ふぅ……んむ………」
 濡れた唇から水っぽくて淫猥な音が絶え間なく零れ落ち、見慣れた居間いっぱいに響き渡っていた。腕を戒められて思うように動けない焦りが更なるじれったさを生み、じれったさがわずかに物足りない快楽をより貪欲に貪らせる。激しく動いても、乱暴にその口を犯しても、もっと、と求める気持ちには果てがない。
 俺の腰にしがみつく様にして浮かせた腰を揺らして、頭を振っている絵里姉ちゃんの姿や、その体から匂いたつ甘ったるいにおいが、信じられないような非現実感で心を浮き足だたせ、絶え間なく突き上げてくる鋭い快楽がその足を現実に縫いとめる。
 もう俺の頭の中は、下肢で執拗に疼き続けているそれを吐き出すことだけでいっぱいだった。
 早く、一刻も早く、このたぎる精液を絵里姉ちゃんの口の奥に吐き出したい。熱くぬるつく粘膜の、その体の奥へと、全てを流しこんで、汚し尽くしたい。
 俺だけが、いつもいつもこんなに心と体を揺さぶられて、瀬戸際であがいている。その現実を一瞬でも忘れられたら。
「絵里姉ちゃん、ダメだ……出ちゃうよ………っ」
「んっ…だめぇ……もっと、もっと舐めたいのぉ…」
 ひくつくモノをなだめるように、柔らかく根元から舐めあげられる。ぱんぱんに張りつめた先に唇をぬるぬると擦りつけて、けれどもまた飲み込まれてしまえば、限界はすぐ目の前まで迫ってくる。その繰り返し。
 絵里姉ちゃんの言葉にいつも嘘はないけれど(あるときは嘘ではなくホラだ)、今回ばっかりはそれがひたすら恨めしい。
 いく寸前まで高められては引き戻され、そしてまた高められ、そんなことを何度も繰り返されているうち、次第に暴力的な衝動に支配されていく自分に気がついた。
 もし手錠をつけられているのでなければ、俺の手は絵里姉ちゃんの頭を押さえ込み、容赦なくその喉までを貫いていたに違いない。たとえ、絵里姉ちゃんが泣きわめこうが苦しもうが躊躇することなく、押さえ込まれた欲望を吐き出すためにその口を犯しぬいていただろう。絵里姉ちゃんの顔中に飛び散る自分の精液を想像するだけで、臨界点ぎりぎりでそそり立っているそれが大きく跳ね上がった。
「もう、いいかげん、イかせてくれよ……っ」
 息もたえだえに負けを認めると、絵里姉ちゃんはかなり残念そうな顔で―――いったいどれだけ舐めれば気が済むんだろう?―――しぶしぶ頷いた。
「ん、いいよ。1回で終わりってわけじゃ、ないもんね。いっぱい、出してぇ……」
 きわめて不穏当な発言が意識の隅にひっかかったような気がしたが、この際おいておくことにした。今はそんなことにかかずらっていられるような場合ではないのだ。
 ほんとうに今まで経験がないほど膨れ上がってしまった、眩暈すら呼び起こしそうなこの射精欲を一刻も早くなんとかしなくては、今にも狂ってしまいそうだった。
 もしかしたら、もうとっくに狂ってしまっているのかもしれない。
 血の繋がった叔母との行為で、こんなにも快楽をたぎらせて。
 本当に。
 眩暈するほどに、この人を犯したいと思ってしまっているなんて。
「絵里ねえちゃん……っ、…………でる……っ」
 言葉にした瞬間、またそらされてしまうのではないかというかすかな不安が胸をよぎる。けれどもそれは杞憂にすぎなかった。よけいな考えなどみるまに吹き飛ばしてしまいそうなほど、鋭い快感が突き上げてきて、俺は心と体が求めるままに、強く引き絞っていた手綱を解き放った。
「ねえ、ちゃんっ、うぁ……っ、あ、ぁ……………っ」
 根元でドロドロに沸騰して渦巻いていた欲望が狭い通路を一気に駆け抜けて、全てがはじけとぶ。信じられないほど長く、幾度も繰り返される小刻みな愉悦。一瞬のはずなのに永遠にも思える眩暈。
「んっ、んく…………っ」
 どこからか、絵里姉ちゃんの喉を鳴らす音が聞こえてくる。まだ強く吸い上げられているのに今更のように気づいた。そして、たった今通り過ぎたばかりの快楽がそれで引き伸ばされていた事を理解した。
 目をあけると、まだしぶとく咥えたままこちらを見上げている絵里姉ちゃんと目があう。いいかげん続いている刺激が苦痛になりはじめていたのだけれど、あまりも激しすぎる快楽に脳も下肢もまるごと痺れてしまってすぐには声も出せない。
 息を荒げたままぐったりとソファに体を沈めて、俺は白旗を揚げた。