Holiday きまぐれな夏 2
【 第6話 】

 すべてが収束して、ゆっくりと荒々しい息を吐き出す自分の体が戻ってくる。
 声も出ない汗だくの顔にそっと柔らかな唇が押しつけられた。
「あ……ごめ…………」
 息が切れてまともな言葉にならない。気がついてみれば自分ひとりが夢中で駆け上がってしまったことがたまらなく恥ずかしく、申し訳なくて、がっくりと頭を下げる。
「ううん、すごく気持よかったよ……」
 ちゅ、ちゅっと柔らかな唇が小さな音を立てて頬から顎にランダムにぶつかってきた。
 頬から耳を掠めた瞬間、電気のようにびりっと痺れが走って反射的に体が強張る。それはまだ繋がった部分からも絵里姉ちゃんに伝わったようだった。応えるようにゆるりと根元から先まで最後の一滴までも絞り取るように波打つ。イったばかりで敏感になった先端が更に刺激され、じわりと残っていたものまで流れ出していった。
「今、また中で動いた……」
 濡れた目でそんなことを言って、嬉しそうに笑った。
 まったく、この顔に本当に弱い。どんなにダメだって思ってたって、この色っぽい顔を見てしまったら逃げられない。お手上げだ。
 なんとはなしにお互い見つめ合って、わきあがってくる気恥ずかしさをごまかすように、軽く唇をついばんだ。
 吐き出したあとの気だるさの中、下肢からの熱にうかされたようになっていた意識が急速に冷静さをとりもどしていく。そして、浮かび上がってきた罪悪感が俺の口を動かした。
「そういえば……俺ばっかりで、絵里姉ちゃんはまだ、だよな」
 視線を落として、ゆるく上下している豊かなふくらみに、そっと手を伸ばす。
 触りたくて、でも手錠のせいで触れなくて、歯噛みするような思いで見つめた魅力的な場所。今更かもしれないけど、でもこんな時でもやっぱり触れたいと思ってしまうのはなんでだろう。
「え? いい、よ。だって、充分気持よかったもん……あ………」
 きゅっと力をこめてみると、むにゅりと捉えどころのない手ごたえが返ってくる。わずかに汗ばんだ肌に掌をおしつけて滑らせる。硬くとがった乳首が掌をころころとくすぐる感触が心地よかった。
 人差し指と中指の間に乳首をはさんで刺激するように揉む。色っぽい吐息が次々とこぼれ落ちてくる。ただの義務感からではなく、さっき少しだけ垣間見た気持よさに喘ぐ顔をもっと見たくなってしまった。
「さっき全然触れなかったから、もっと絵里姉ちゃんに触りたい」
 マシュマロみたいな柔らかさを堪能しながら、キスの雨をお返しする。
 くすぐったそうに肩をすくめる絵里姉ちゃんの耳元に唇を潜らせると、
「うそだぁ…あっ、あんな、えっちなこと、したくせに……んっ、耳、だめぇ……」
「あれは手じゃなくて口だっただろ。あんまり言うとまたするぞ」
「やぁん、えっちぃ………」
 嫌がる口よりも正直に、繋がったままの部分がじれったそうに蠢いて返事をした。じわりとした鈍い気持よさが広がって、不謹慎かもしれないけれど、つい面白い、なんて思ってしまった。
「やわらかい……絵里姉ちゃんの胸」
 単純に揉む動きから次第にすそ野から頂に向かってと搾りあげていくように、手の中で自由に形を変えるそれをおもうさま弄ぶ。合間あいまに、ぎゅっと握りこむたび、湿ったため息が薄く開いた唇から漏れた。うっとりと気持ちよさそうに目を閉じて、甘えるように鼻を鳴らしている。いつもこんなふうに素直で愛らしい絵里姉ちゃんだったらな、なんてついよけいなことを考えてしまった。
 いや、強気の絵里姉ちゃんだからこそ、今のこの素直さにありがたみがあるんだよな。きっと。うん。
 豊かなふくらみの重さをたしかめるように下からすくい上げて、堅くとがっているのにどこか柔らかさを残した乳首をそっと指先で転がした。
「あっ………!」
 甲高い悲鳴が耳を打った。劇的な反応は声だけではなかった。膝の上の体がぶるっと震え、まだ強張りを残している部分が容赦なく締めつけられた。
「うわ……」
 なでているはずなのにころころと転がってしまう硬い先端を摘み上げ、指先でやわらかく揉みほぐす。ますますきゅぅぅっとと熱い肉が絡みついて、膝の上の体が焦れたように身悶えた。
「あ、や、だめ……あぁ………っ」
 耳まで真っ赤になって、濡れた唇を開きっぱなしにして、反らした体を震わせる絵里姉ちゃんを見てたら、再び冷めきらずにくすぶっていた欲情に火がともる。まったく始末に終えない。なんだってこんなに、果てがないのか。
 一度吐き出した後だというのに固くなったまま、全く萎える気配も見せないモノで、ずん、と揺れる体を下から突き上げた。
「あ! カズちゃぁん……あっ、あぁんっ、は………っ」
 一度動き出したら、そのまま止まることはできなかった。
 あっというまに湿った水音が響きだす。やわらかな尻の重みが俺の腰の辺りにぶつかって、さっきほどではないもののやはりこすれ合う肉の気持ち良さに、たまらず息を飲んだ。
「……すごい、中、熱い」
 勢いよく押し寄せてくる快感に逆らおうと、知らずつまみ上げた乳首を強く引き伸ばしていた。強すぎたか、と心配する間もなく、ひときわ高い嬌声とともに白い喉がさらけ出されて、一方的に突き上げられるだけだった腰が、うねるように動き始めた。
「あっ、だめ、カズちゃん……っ、だめぇ……あぁ……」
 それが自分で恥ずかしいのかしきりにいやいやしながら、それでも俺の突き上げる動きと呼応するように体を揺らしている。それがたまらなく可愛くて、いやらしい。ずっと、こうして、俺に操られるように甘い声を上げる絵里姉ちゃんを見ていたい。こみ上げてくる気持ちのまま乳首を引っ張り上げ、乳房自身の重みのせいでみっともないくらい伸びてしまったそれをくにくにと指先で弄んでは、開きっぱなしの唇から濡れた悲鳴を引き出していく。
「あぁん! あ、あぁっ、ダメ、それ、いいの、きもち、いいの……っ」
 胸につりあげられるようにして浮きあがった腰が、耐えきれずにおっこちるたび、小さな体がぶるっと小刻みに震える。落とした視線の先で、とピンク色の襞にめり込むように俺のモノが隠れ、そして引き出されていく。ぬらつく部分がこすれ合い、粘着質な音を立てる。みているだけで昂ぶってしまうほどの卑猥な動きが繰り返される。もぐりこむリズムを乱すように唐突に腰を突き上げると、ひときわ声のトーンが高く跳ね上がった。
「あ、ああっ、あっ」
 ぎりぎりに張りつめた弦をむちゃくちゃにかき鳴らしているような高い声が、居間中に響いていた。同様に、幾度も突き入れている強張りも容赦なく締めあげられ、じりじりと腰の奥で密度を増していく射精感をなんとかこらえようときつく奥歯を噛みしめた。
「カズちゃんっ、むね、だめ、手……手、離してぇ…かんじ、すぎちゃう…っ」
 濡れたまなざしでそんなふうに言われて、正直に言われた通りにするヤツなんているんだろうか。絵里姉ちゃんの言葉の通りぶつかり合ってる部分は凄いことになっていた。あふれ出した蜜が根元まで伝い降りて、辺り一面をてらてらと光らせている。俺を食いしめている中はみっちりと充血して、擦りあげるたびたまらない気持ち良さが頭の中を真っ白に染め上げた。
「すごい、気持ちイイ……絵里姉ちゃんのなか、すごくいやらしい」
「やっ、あっ、言わないで…っ、だめなの、気持ちいいのぉ……っ」
 不意に、ふらり、とバランスをくずしたように、力の無い上半身が俺の胸に倒れこんできた。
 いいかげん背中と腰がキツくなってきていたので、これ幸いとその体を抱えこむようにぐるりと体をひねって、ソファの上に絵里姉ちゃんを組み敷く。
「ふぁぁんっ……っ」
 その動きにさえ感じてしまうほど蕩けた顔を真上から見下ろして、白い太ももを抱え上げると、そのまま乱暴に腰を動かしはじめた。
「あ! あぁぁぁ……っ」
 下からつきあげている時とは段違いに軽くなった腰で、思うさま絵里姉ちゃんの小さな体を縦横無尽にかき回していく。
 どろどろに溶けて、いやらしくまとわりついて、快楽をくみ出す無限の壷みたいな絵里姉ちゃんの体。ソファの上に髪を広げ、くしゃくしゃの泣きそうな顔で声をあげ続けている。苦しそうにゆがんでいるはずの顔が、俺を更に興奮させていく。狂わされていく。ひらきっぱなしの唇をそのまま唇でふさいで、口の中に全てを閉じ込めた。
「ふぅン、んんんん…………っ」
 ぬめる舌と舌。上でも、下でも繋がってる。一つに絡み合っている。強く舌を吸い上げてくる口も、容赦なく俺のモノをこねまわすアソコも、ぜんぶぜんぶ俺だけで埋め尽くしている。
 嬉しくて、気持ちよくて、幸せで、なのにどうしてもそこにとどまれない欲望がある。それが嫌とか考える間もなく、体が動いて絵里姉ちゃんの奥の奥までも蹂躙していく。
「んーっ、んんんーっ!」
 閉じ込められた声がそのまま俺の中でこだまする。
 乱暴すぎて苦しいのか、せっぱつまった響きがじかに伝わってくる。
 2度目だというのに俺ももう全然我慢がきかない。いろんな気持ちが、信じられない快感が、入り乱れて密度を増して、もう限界までふくれあがってどうにもできないまま、渦をまいて走り出している。
「あ! あぁぁっ! カズちゃん、だめ、だめ、いくぅぅ………っ!」
 新鮮な空気を求めて口を離した瞬間、悲鳴みたいな大きな声が、飛び出した。
「おれも、でる………っ」
 俺もなんとかそれだけを叫んで、あとはこみ上げてくる灼熱の快感と嵐のように貪り尽くす動きに没頭した。
「だめ、いく、いくカズちゃん、わたし、いっちゃう、あ! ああああ……………っ!」
 がくがくと暴れ回る体がきつくのけぞって、ついでに俺を容赦なくぎりぎりとしめあげた。
 それが決定打になった。いやらしく暴れる胎内に搾り取られるまま、硬い子宮口に先端を押しつけて熱い精液を解き放った。
 2度、3度と幾度となくしゃくりあげて噴き出すたび、瞼の裏がまたたく。
「うぁ……あぁ…………っあ…………っ」
 信じられないほど長く、何度も震えて全てを出し尽くした。熱く、何もかもが熱くて、それが俺の熱なのか、絵里姉ちゃんの熱なのか、もうわからない。
「はぁぁ………っ」
 魂まで吸い取られてしまったように、精根尽き果てて自由にならない体を柔らかな体の上に投げ出す。きっとかなり重いだろうが、今は動けない。お互い汗まみれで息をつく動きにさえぬるぬると肌がすべった。
 しばらくは荒い息だけが2人の間に籠もっていた。
「あぁ………私も、シャワー浴びなきゃ……」
 ぽっかりとからっぽになった頭のどこかに、ぽつりと呟くそんな声が聞こえた。