秘密の夢
【 第3話 】

「まゆは、自分の身体を触ったことあるか?」
 ヒロ兄は全裸になった私を膝の上に後ろ向きに座らせ、肩ごしに尋ねた。
 私は、というと、生まれて初めて他人の前で一糸まとわぬ格好でいる居心地の悪さと恥ずかしさで、答えるどころではなかった。脱いだときは何がなんでも抱いてもらおうと、よけいなことを考える暇なんてなかったけれど、いざ頭が冷えてみると自分の大胆さに顔から火がでそうだ。
 背中にあたっている洗いざらしのシャツの感触。両膝はヒロ兄のジーンズの膝をまたぐように開かれて、恥ずかしい部分がひんやりとした外気にさらされている。むきだしになったまま、呼吸の度ふるえる胸の先がよけいに羞恥をあおった。でも、胸をかくそうにも、私の両手はしっかりとヒロ兄に握られているのでそれもできなくて、再度繰り返された質問にも、私はうつむき加減のまま、首を横にふるしかなかった。
 ヒロ兄の唇が、首筋をかすめた。熱い息とともにはしった電流に私はびくりと身をふるわせた。
「今のは、いや?」
 穏やかな口調。勉強を教わるときの響きによく似ている。おかしなことだけど、そう気づいたとたん、裸になっている気まずさ……居心地の悪さがすこし、和らいだ気がした。
「こーら、ちゃんと答えろよ。教えてほしいんだろ?」
 もう一度、こんどは耳たぶに熱く濡れた柔らかな唇を感じて、ひときわ大きく胸が高鳴った。
「……いやじゃない」
 教えてもらってるんだから、ちゃんと応えなきゃ。声がふるえてるのはヒロ兄も気づいてるみたいで、包み込むように手をきゅっと握ってくれた。
 ヒロ兄はじゃあもっとしよう、とまるでその感覚を刷り込むみたいに、何度も何度も唇を私の耳元から首筋におしあてた。
 幾度も体がはねあがり、小さな震えがはしる。
 キスをするたび甘い声をもらすミヤの気持ちが少しだけ、わかってしまった。
「まゆ、これはどう……?」
 乾いた指先が、新鮮な空気をもとめて薄く開かれた唇をなぞる。ぞくぞくと唇から鈍い感覚が身体中に行き渡って、もっと、という言葉のかわりに、甘いため息がもれた。いままで意識したこともなかったそこが、快楽をうけとめる器官であることをはじめて知る。
 ヒロ兄の指や掌に呼び起こされるみたいに触れられたところがいっせいにさざめきたち、はっきりと目覚めていく。それはとても新鮮な感覚だった。
 たぶん、これが感じるということなのだ。
 指先は誘うように開いた唇を割り、そのまま口の中にすべりこむ。舌とはちがう硬い指先が、柔らかく濡れた舌を誘い、なぞっていく。目を閉じて口の中に意識を集中しようとする。好き勝手に暴れる指先を舌でからめ捕ろうとするがうまくいかない。そうしているうちにもう片方の手が、ゆっくりとわき腹からゆっくりとのぼって、胸の先をひと撫でし、また脇腹へと戻っていった。しらず、その手に肌をおしつけるように、胸を突きだしていた。
「撫でられると気持ちいいだろ」
 ゆったりとした声に、こくりと素直にうなづく。
「どんなことされると、どんなふうに気持ちいいのか、それだけ覚えておきな」
 ヒロ兄のやや日にやけた大きな掌が、私の白い肌の上をゆっくりと行き来する。口の中が指でいっぱいなのであまりうつむくことはできないけれど、自然と薄目になってしまう私の視界のはしに映るそれと、乾いた掌に撫でられるたび生まれる痺れるような感覚は、なぜかとても淫靡なものにおもえた。ぬるま湯のような温かい気持ちよさに、しらずため息がもれる。
「まゆ……」
 耳元にくちびるを寄せて、ヒロ兄は笑いをふくんだ声でささやいた。
「見えるか? おまえ、すごいやらしい顔してる」
 声につられるようにして顔をあげると、こたつの向こう側の背の高い鏡に、みたこともない自分が映っているのがみえた。
 そう、あれはきっと私にちがいないのに。
 白い白い体をのけ反らせて、唇を指で割られて頬を上気させているのは。
 鏡の中で、ヒロ兄の掌がゆっくりあがって、ささやかなふくらみを覆い隠す。
 一歩遅れて、つまみ上げられた胸の先から、電流のように甘い感覚が走った。
「ぅんっ!」
 痛みにもにた切ないじれったさ。指先できゅっと柔らかく押しつぶされるたび乳首からお腹の奥まで熱く滴っていくものがある。
「んん……ふ……ぅんっ!」
 はずかしくて目をあけていられない。そして、目をとじると、ことさらはっきりとヒロ兄の指の動きを意識してしまって。乾いた指先が幾度も幾度もしこりはじめた乳首をこすりあげて、柔らかくもみほぐすようにつまんでこねまわす。
 体の奥でうずうずと沸き上がってくる、これはミヤを撫でているときに感じているのと同じものだ。じれったくて、なにか足りなくて、でも、それがなんなのか、どうすればいいのかわからない。
 でも今は……今なら、これが足りなかったものなのだと、わかる。
 私の赤くぽっちりとした乳首を弄んでいるヒロ兄の指……そこから沸き上がるせつないような気持ちよさ。
 いつのまにか、胸をつきだすようにして、ヒロ兄の膝の上でみもだえている私がいる。
「まゆ、気持ちいいか?」
 耳元に低い声が吹き込まれる。それだけでぞくぞくと背中から痺れが走る。
「……答えないとだめだよ、まゆ」
 ちょっときつく、ぎゅ、と乳首がひねりあげられた。とっさに口の中の指に歯を立ててしまう。わずかな痛みが痺れとなって拡散していく。
「まゆ?」
 こんどは優しく、優しく、堅くなった乳首の先を擦られる。どこか物足りない気もしたけれど、それでも気持ちよくて、いつの間にか体をよじっていた。
「ん……気持ち、いい……」
「いい子だ」
 耳に熱い息を感じると同時に、ぬるりとからめとられる。水を叩くようないやらしい音が鼓膜に直接響いてくる。執拗に弄ばれる乳首の先から、舌で愛撫されている耳から、脳髄を蕩かすような快楽が忍び込んで、私を啼かせた。
「あ……やぁ……みみ、や………」
 後ろからしっかり捕まえられて、その腕の中でいいようにされるのは、恥ずかしいけれどとても気持ちよかった。
 じわじわと熱がはいあがって、次第に体の奥底を疼かせていく。
 乳首全体を指でしごきあげられ、先をすっとかすめるように撫でられるたび、ぞくぞくするような気持ちよさが生まれてははじけていく。耳の内側をなぞるぬめった舌とそこから生まれる思いもしない気持ちよさに、自分の体がいやらしくうねってしまうのがわかる。それを止められない自分がものすごく恥ずかしい。まだ男を知らない体なのに後ろから抱き込まれて、まるで誘うようにいやらしく腰をくねらせて鳴いている自分。うっすらと目を開くたび、細長い鏡のなかにそんな自分をみつけて、慌てて目をとじてしまう。その繰り返し。
「……は……あっ……あぁっ……」
 いつのまにか息はすっかりあがってしまっている。合間をぬうように漏れる甘い声をかき消すように
「目を閉じちゃだめだよ。ちゃんと、感じてる自分をみるんだ」
ヒロ兄のそんな言葉が聞こえてくる。
「や……はずかしいよ……っ」
 いやいや、と頭をふると、ヒロ兄はくすりと微笑って、つまんだ両方の乳首をきゅうっと高くひっぱりあげた。
「あぁんっ!」
 自然とのけぞってしまった背中に、ヒロ兄のくちびるが押し当てられる。
「知ってる」
 その言葉を聞いたとたん、ぞくり、と体の奥底がしびれていく。
「もっと恥ずかしいことしてやるから、ちゃんと見てなさい」
 ヒロ兄の片手が、私のおなかを撫でながら、どんどん下へ、開かれた足の間へと下りていく。
「あ……っ」
 思わず目を開いて、その行く先を確かめてしまう。
 ヒロ兄の大きな手が、私の足のV字の間にもぐりこむ。はっ、と息をのんだ次の瞬間、指先はおどろくぐらいのやわらかさで、私の熱く疼いている部分を割り開いていった。そこから伝わる感触で、ひどくぬめっているのがわかった。
「ぁ……ん……」
 それが、いわゆる濡れている状態だというのはすぐにわかった。ゆるく曲げた指先が、くい、とぬめりをからめとってはあちこちに塗りつけていく。すごく気持ちがよくて、とろけそうで、それは生まれてはじめての感覚だった。
 女の子のいちばんはずかしい部分を、今、ほんとの兄のように思っていたヒロ兄の指で、撫でられている………突然頭に浮かんだその思考は、思いもかけない羞恥の感情を私に呼び起こした。
「やだ…っ」
 思わず腰を引いてしまったせいで指先は襞を一気になぞり、合わせ目のかたくしこった部分を引っ掛かけた。瞬間しびれるような感覚がそこを走り、おもわず声をあげていた。
「あぁっ!」
「まゆ、気持ちいいだろ?」
 ヒロ兄が耳元で囁いたけれど、私は体の芯をつきぬけた余りにも強い快楽の余韻で答えることができなかった。
 感じやすい部分を押さえた指はそこからどこうとはせず、くちゅ、と濡れた音とともに、柔らかなタッチで円を描くように動き始めた。じんじんと熱がそこで渦を巻き、快楽があふれだしてくる。ときどき様子をみるかのように動きが止まってしまうのがじれったくて、私は思わず小さな声で、ねだっていた。
「あ……や、やめないで……っ……ん……」
 ヒロ兄の腕にしがみついて身もだえる私の耳元に、苦笑まじりの囁きが吹き込まれた。
「大丈夫、やめない。もっとしてやるよ」
 そして、優しく撫でるだけだった動きが、やがて転がすようなものにかわり、蕩けるような快感と体の奥からの疼きはいよいよボルテージを増してきた。
「あぁ! あ! や……あぁっ!」
 ヒロ兄の指先で演奏されている楽器みたいに、その動きにあわせて私は鳴いていた。
「まゆ、かわいい…」
 ヒロ兄の言葉が耳に届くたび、じん…と波紋のように快楽の琴線がふるえる。体を支配している強烈な感覚と裏腹の優しい声は、思った以上に私のとまどいとためらいを溶かしてくれる。
「…ほんと……?」
 薄目をあけて見上げると、ヒロ兄はびっくりするぐらい優しい表情で、私の頬にキスしてくれた。
「ほんと、かわいいよ。こんなかわいいまゆ、みたことない」
 くい、と指先が、きつく蕾をつまみあげる。
「あぁんっ!」
 おもわず体がのけぞる。それを待っていたかのように、ヒロ兄の腕が私のウエストの下にさしこまれた。体をそらしたまま抱きすくめられて、逃げようとする動きが封じられてしまう。ヒロ兄の指がそこを守っていた覆いをよけ、感じやすいソコをぬるぬると擦りあげる。体の奥底があつく蕩けてはじけそうになり、私はいやいやと髪をふりみだした。いつのまにか私の腰は快楽を求めてヒロ兄の手にそこを押しつけるように動いていた。
「ふぁ…ぁ……あぁ……っ」
 びくんと体が跳ね上がるのをどうにもできない。
「ヒロ兄ぃっ! だめ……やぁっ……あぁん……っ!」
「だめじゃないよ、まゆ……」
 耳元に唇をもぐらせるようにして、熱い息とともにヒロ兄の声が吹き込まれる。その感覚にさえ私の体は反応して、ひときわ甘い感覚が体と感情をしびれさせた。
 くちゅ、と湿った音が響いてきて、それが弄られている部分から聞こえているのだと思うと、恥ずかしくて目も開けていられない。ぎゅっときつく目を閉じて、そしてそれはことさらはっきりとした快楽の感覚を求めるため以外のなにものでもなくて。意識が触れられているところだけに集中して、ヒロ兄が与えてくれる気持ち良さに溺れる。
 くり返し波のように突き上げてきては激しさを増していくその感覚から必死で逃げようともがく。
「あ! あ……ヒロにぃ……っ……だめ……だめ………」
 それを恐れているのか待ち望んでいるのか、わからない。ただ奥から突き上げてくる痺れと次第にはっきりとしてくる予感に、ただ、ただ、嵐のような感覚にまきこまれたまま、ひたすら喘ぎ、嬌声をあげるしかできなかった。自分が何を口走っているのかすらも、もう自分ではわかっていない。
「はぁんっ!」
 ぬるん、というカンジで指がひだの中にすべりこんできた。生まれて初めて、“体の中”の感覚を自覚する。こういうのを異物感というのだろうか。そんな考えが一瞬だけひらめいたけど、中で指が小刻みな抽送をくりかえし、同時に硬くなってしまった感じやすい所を刺激されているうちに、そんなことは何も考えられなくなっていた。ヒロ兄の指が密着している部分全部が蕩けて、ひっきりなしに動きまわるそれを必死で引き止めようとしているうちに
「ああああああっ!」
 そこから背中にむけて真っすぐに熱がかけぬけて、あたまの中が真っ白に焼ききれてしまった。