おにいちゃんといっしょ
<そのさん>
ANNA様

 普段、9時には寝てしまう二人にとって、11時過ぎまで起きていたのは無理が有ったようで、翌朝二人が目覚めた頃には、既に兄と父は出かけており、残った母と双子の3人だけが食卓についていた。寝坊したのである。
「お兄ちゃんは?」
「馨お兄ちゃん、もう行っちゃったの?」
 トースターに食パンをセットしながら、母が答える。
「夜食美味しかったって言ってたわよ。」
「ほんと?」
「ほんとに?お母さん。」
「本当よ。お兄ちゃん、空っぽの食器持って起きてきたわよ。」
 二人の前に、湯気をたてた目玉焼きが差し出される。
「みるちゃん。僕、いい事思いついちゃった。」
 南波は大きな目を輝かせながら、満瑠に耳打ちした。
 二人でこそこそと話をしている所に、母親はトーストを差し出しながら話しかける。


「はは〜ん。今夜もお兄ちゃんに夜食を差し入れようって相談ね。」
「お母さん、何でわかったの?」
「ふふふ、お母さんにはお見通しよ。」
「南波ちゃんの声が大きかったんだよ。」
「えー、そんなことないよぉ。」
「何でかなぁ。」
 首をかしげながら、不思議そうな顔をする南波であった。
「ほらほら、何ででも良いから、早く食べてしまいなさい。学校へ行く時間になっちゃうわよ。」
「は〜い。」×2
 二人は急いで朝食をかき込むと、学校へ行く支度を始めた。
 玄関先で母が言う。
「夜食を作るのは良いけれど、怪我はしないように気をつけてね。」
「うん。」
「南波ちゃん、『うん』じゃなくて『はい』でしょう?」
「はい。」
「作るだけじゃなくて、後始末もしてね。」
 二人は昨夜後始末をせずにいたことを思い出し、てへへと笑うと「は〜い。」と声をそろえて返事をした。
「行ってきまーす!」
 豆台風は学校へと去って行った。



 学校への道々、二人は何を作ったら(レパートリーには限りが有ったが…)兄が喜ぶか話し合いながら歩いたので、あっという間に学校に着いてしまった。
「じゃあ、帰りに待っているからね。南波ちゃんの方が早かったら、待っていてね。」
「うん、僕の方が早かったら、昇降口の所にいるからね。」
 別々のクラスに分かれながら、放課後の約束をした。
 当然の事であるが、夜食の事に気を取られ、授業は上の空で学級担任に注意される二人であった。
 


 夕方、家に着いてからも二人は夜のことを考えると、楽しくて仕方がなかった。
 火を使うのは危ないからと、母親の帰りを待ってキッチンに入り、兄の夜食を作った。
 8時近くになって、図書館で勉強してきたと言う兄が帰ってきた。
 まだ、いつもの元気さはなかったが、
「ありがとう。夜中に食べるのが楽しみだよ。」
 と言って、二人の頭を撫でてくれたのが嬉しかった。
 朝、寝坊をしてしまった二人は、兄が夜食に手をつけるのを確認したくて仕方がなかったが、
「明日も寝坊するようなら、二度とお兄ちゃんの夜食は作らせない。」
 と言う母の一言で、しおしおとベッドに入った。
 兄のテストはもう一日、明日は何を作ろうか?と夢に見ながら…。



 テスト最終のその日…
 夕方、いつものように二人がおやつを食べていると、突然荒々しく玄関のドアが開き、誰かが帰ってきた。
 何が有ったのかと二人が慌てて玄関に出てみると、兄が帰ってきた所であった。
「お兄ちゃん、おかえりなさい。」
「馨お兄ちゃん、今日は早かったね。」
 普段のように兄に駆け寄ろうとした二人であったが、兄の青ざめた顔に一瞬立ち竦んでしまった。
「…お兄ちゃん…?」
 兄は…、いつも笑顔で優しい兄は、二人に目もくれず二階へ上がってしまった。
「どうしたんだろう?馨お兄ちゃん。」
「いつものお兄ちゃんと違うよ。」
 何が起こったのか、今までに見たことも無い兄の表情であった。
 不安に駆られた二人は、我先にと兄の部屋に向かって階段を駆け登っていった。