おにいちゃんといっしょ
<そのよん>
ANNA様

「おにいちゃん!」
「馨お兄ちゃん!」
 二人はドアの前で兄を呼んだが、兄は部屋から出て来はしなかった。ドンドンとドアを叩いていると、ようやくドアがわずかに開かれ、真っ青な顔の兄が顔を覗かせた。
「二人とも…悪いけど、お兄ちゃん独りになりたいんだ。遊んであげられなくてごめんね。」
 小さな声で呟くように用件のみを伝えると、ドアはすぐに閉じられてしまった。
「…おにい…ちゃん。」
 二人はすごすごと階下に戻った。
 兄が帰って来さえすれば…、何時もならそう思いながら二人っきりで過ごすこの空間が、今日に限っては兄がいるのにもかかわらず、永遠に続くようにさえ思われた。
 どちらも口を利かない。黙って座っていた。
「お兄ちゃん、どうしちゃったのかな。」
 南波がぽつんと呟くと、それにつられるようにぐすぐすと満瑠が泣き出した。
「…馨お兄ちゃぁん…。」
「みるちゃん、泣かないでよ。」
 南波も涙声であるが、満瑠の兄である手前、泣き出したいのをじっとこらえていた。
「お母さんかお父さんが、早く帰ってくれば良いのに。」 
「おかぁさぁーん、早く帰ってきてよー。」
 泣いた所で状況は変わらないのはわかっていたが、まだ小学生の二人には感情の制御は出来ず、こらえていた南波もじきに泣き出していた。



「ピンポーン」
 玄関のベルが鳴った。
 まだ両親が帰ってくる時間ではなかったが、両親のどちらかさえ帰ってくれば何とかしてくれると思っている二人は、脱兎の如く駆け出した。
「おかあさーん。」
「おかあさ〜ん。」
 はたして、二人の前に現れたのは、母親ではなく妙齢の女性であった。
「何を泣いているのよ。おちびさん達。」
 許可もないのに玄関に上がってくる。
 旅行用の重そうなトランクを玄関に置くと、2階を仰ぎ見て言った。
「馨は2階?あの子も帰ってきてるんでしょう?」
 二人はビックリして泣くのを止めた。
「何よ。姉の顔を忘れでもしたの?お正月に会ったばかりじゃないの。」
「お姉ちゃん?」
「…どうしたの?お義兄さんは?」
「旦那様は出張中、母さん何も言ってなかったのかなぁ?」
 しょうがないなとぶつぶつ言いながら、双子の頭を撫でる。
「お母さんが帰ってこないからって、泣くんじゃないの。」
「馨〜!ちょっとぉ、お姉様のお帰りよ。顔くらい出しなさいよ。」
 2階に向かって声を掛けると姉は居間に向かった。



 怒った時の母に次ぐ、この家で最強の人物の帰還であった。