おにいちゃんといっしょ
<そのご>
ANNA様

「南波、お茶入れてよ。ケーキ買ってきたから皆で食べよ。」
 姉はそう言うと、さっさとケーキの包みを開き出した。
「満瑠ちゃんってば、お姉ちゃんに何か言う事無ぁ〜い〜?」
 何か含む所でも有るのか、笑いをこらえながら姉が話しかけてきた。
 とっさに何も考えつかず、満瑠はふるふると首を振った。
「ふ〜ん。」
 姉は悪戯そうに微笑むと、鞄の中から数枚の紙を取り出した。FAX用紙のようである。
「私のお姉ちゃん。」
「私のお姉ちゃんを紹介します。」
「あぁー!みるちゃんの作文!なんでお姉ちゃんが持ってるのぉ?」
「先生に誉められたって、お母さんが送ってくれたのよ〜。」
「いや〜ん。読まないでぇ〜。」
「お姉ちゃんの名前は……。」



   「私のお姉ちゃん」

   私のお姉ちゃんを紹介します。
   お姉ちゃんの名前は静香って言います。
   でも、お姉ちゃんのお友達は誰も「静香」なんて呼びません。
   お姉ちゃんの事を「あふろ」って呼びます。
   なんでかって言うと、お姉ちゃんが高校に入った時に付いた
   あだなだそうです。
   ちょっと天然パーマがかかっているお姉ちゃんは、入学してすぐに
   生活指導の教師に 「その中途半端にパーマのとれかかった髪を
   何とかしてこい。」って言われて、むかっとして(ちょっと切れただけよ。と
   言っていました。)アフロヘアにして学校に行ったかららしいです。
   それ以来お姉ちゃんの呼び名は「あふろ」です。
   私達はまだ小さかったのでその事は良く覚えていないけれど、
   お父さんはお酒を飲んでお姉ちゃんの話になるたびに、
   「名前を付け間違えた…。」とか、
   「育て方を間違った…。」
   とか、ぼやいています。
   「あいつは、何をしでかすか分からん。さっさと嫁に行ってくれて良かった。」
   とも言っています。
   だから、お義兄さんの事はまるで神様のようだと言っています。
   お母さんが本気で怒った時も恐いけど、お姉ちゃんが怒った時も恐いです。
   前に南波ちゃんとお姉ちゃんの化粧品をいたずらした時なんか、
   黙って隠そうとしたのが気に入らないと言って、怒られてめっちゃくちゃに
   化粧をされて、写真に撮られました。
   南波ちゃんは逃げようとしたけど、お姉ちゃんに捕まって椅子に縛られて
   お化粧されてしまいました。
   私もテレビに出てくるお笑いの人みたいに、顔に落書きされました。
   「あんた達の結婚式には、この写真を披露してあげるからね。」
   と、言って笑っていたお姉ちゃんは、未だにそのネガを隠しています。
   大きくなったら、可愛いお嫁さんになりたいと思っていますが、
   お婿さんにお姉ちゃんが写真を見せたら、笑われるんじゃないかと心配です。
   お姉ちゃんのざゆうのしょ(何だか良く分からないけど)は、
   ハムラビほうてんだと言っています。
   「それって、なぁに?」って聞いたら、
   「目には目を、歯には歯と拳を」
   って言う事が書いてある本だと言っていました。
   お姉ちゃんなら絶対に実行しそうなので、私も南波ちゃんも馨お兄ちゃんも、
   それ以来お姉ちゃんに逆らわないようにしています。
   でも、普段はいろんな事を教えてくれて、私達をとっても可愛がってくれる
   お姉ちゃんです。
   今は隣の町にお嫁に行ってしまったので、前みたいに会えなくなって
   寂しいです。
                              おわり


「ふふふ。満瑠ったら可愛いじゃないの〜。」
 そう言うと、姉は満瑠をぎゅうっと抱きしめた。どうやら恐怖の大王様は、本日ご機嫌が良いらしかった。
 そうこうしているうちに、南波がお茶を運んできた。
「1人足りないわね。馨は?」
「お兄ちゃんお部屋から出て来ないの。」
「馨お兄ちゃんね、2、3日前から変なの。」
 双子はここ数日の馨の様子を姉に話して聞かせた。
「う〜ん、あんた達二人の話だけじゃ要領を得ないわね。」
「直接馨にも聞いてみることにするわ。」
 そう言うが早いか、姉は2階へと上がって行った。
 後に残された二人は、何事が起こるのだろうとじっと耳を澄ませ、2階の様子をうかがった。
 はたして、何か口論するような声が聞こえた後、姉と一緒に兄も階下に下りてきた。恐怖の大王様の威力は絶大であった。