おにいちゃんといっしょ
<そのろく>
ANNA様

 夕食の時も、馨お兄ちゃんは暗い顔のままだった。
 お母さんが心配して、声を掛けたけど消えそうな声で「何でも無い。」と言っただけだった。
 お姉ちゃんが居たのでそれなりに賑やかな夕食だったけど、馨お兄ちゃんは最後まで大人しく、食事が終わるとまた自分の部屋に篭ってしまった。
「どうやら、失恋したらしいのよね。馨。」
 夕食後に番茶を啜りながら、お姉ちゃんがあっけらかんと言う。
「あら、そうなの。馨も大人になったものねぇ。ついこの間までおしめをしていたと思ったら…。」
 お母さんもあっけらかんと話している。
「…それがね、相手が他の人と一緒にいたってだけで、失恋した気でいるらしいのよ。」
「情けないわねぇ、全く。」
「あれでも、私の弟かしら。」
「あれでも、私の息子かしら。」
 同じような言葉を発して笑う……この二人、紛れも無く親子だと思った。



 それにしても、私達のお兄ちゃんに好きな人がいるのはショックだった。そして、見も知らぬ相手なのに、馨お兄ちゃんを振るなんて許せない彼女だと思った。
 南波ちゃんも同じ気持ちだったらしくて、二人ともむっつりしていた。
 そのうちに、お父さんが帰ってきて、お母さんはご飯の準備に台所に行ってしまった。
「南波、あんまりお茶ばっかり飲んでると、おねしょするわよ。」
「しないもん。」
「小学校の一年生になっても、夜中に1人でトイレに行けなかったのはだれだったけ?」
「お姉ちゃん!」
「ん〜? 今は1人で行けるようになったのかなぁ?」
「もう赤ちゃんじゃないから平気だもん。お姉ちゃんの意地悪ぅ。」
「本当に赤ちゃんじゃないか、確認してやる〜。」
とか言って、お姉ちゃんが南波ちゃんをくすぐりはじめた。
 南波ちゃんがきゃあきゃあ言って逃げる。
「満瑠はどうかな〜。」
 攻撃の矛先が私にも向いてきた。
「いや〜ん。」
 こうなったら逃げるしかない。部屋の中は鬼ごっこの会場になってしまった。
「こら、静香。お前こそいくつになったんだ。」
 食事を終えたお父さんが、呆れたようにお姉ちゃんに言った。
「あはは、流石に小学生相手だと息が切れるわ。」
「ほら、もう9時になるぞ。お前達はもう寝なさい。」
 お父さんの一言で、私達を押さえつた手を離しながら、お姉ちゃんは笑って言った。
「馨の事は、後で話しを聞いておくから、お姉様にまかせなさい。」
 南波ちゃんと私は、顔を見合わせながら頷いた。
 馨お兄ちゃんの事が気になったけど、こっそり聞き耳を立てているのがわかったら、お姉ちゃんに何を言われるかわからなかったので、歯磨きして顔を洗ってパジャマに着替えてお布団に入った。
 お姉ちゃんに任せればどうにかしてくれるだろうと言う期待と、お姉ちゃんに任せて大丈夫かなと言う不安を感じながら…。