おにいちゃんといっしょ
<そのなな>
ANNA様

 二人が翌朝目覚めた時には、兄は既に学校へと出かけていて、食卓には居なかった。
 父も既に出勤しており、食卓では新聞を広げている姉と、二人をせかす母がいるだけだった。
「お姉ちゃんおはよう。」
「おはよう、おちびさん達。」
 姉は新聞を畳むと、二人にご飯をよそいはじめた。
 今朝は卵焼きと大根のお味噌汁、ひじきの煮物と昨日の残りのサラダ。玉葱の辛味が消えて丁度食べ頃。
「ちびさん達、今日は何時頃帰ってくるの?」
「4時頃かなぁ。」
「馨もそんなに遅くならないって言っていたから、外にご飯食べに行こうか?」
「え、本当?」
「お母さんもお父さんも遅いって言うしね。」
「中華が良い。」
 南波が喜んでリクエストを口にした。
「南波はラーメンで良いのね。」
 静香がにやっと笑って答えた。
「ラーメンだけじゃなくって〜、えっと、えっとぉ。」
「餃子もつけてもらえば?」
 お母さんが笑いながら、テーブルについた。
「悩んでないで、さっさと食べて学校行かないと遅刻しちゃうわよ。」
「う〜。」
 南波はまだ悩んでいるようだ。
「ご馳走様〜」
 満瑠は一足先に食べ終わり、南波に言った。
「今日の給食エビチリだから、みるちゃん違うのが良いな。」
「あ、そうだったっけ。」
「馨が帰ってきてから、決めましょ。」
「そうだね。」
 南波も食事を終え、二人は学校へと向かった。
「南波ちゃん。馨お兄ちゃん元気が無かったから、馨お兄ちゃんの好きなものにしない?」
「うん、そうだね。お兄ちゃん試験で大変そうだったもんね。」
 出資者の姉の意向は考えずとも、兄の好みを優先させようと相談しつつ、登校するふたりであった。



 放課後、転がるようにして帰宅した二人は、姉の
「何食べたいか決まった?」
との問いに、
「馨お兄ちゃんが帰ってきてから決めるの。」
と答えて、苦笑いされた。
 兄は5時を回っても帰ってこなかった。
「馨お兄ちゃん遅いね。」
「今日は早くに帰るって言ってたのにね。」
 不安そうに兄の帰りを待つ横で、姉はテレビのアニメを見ていた。
「この分じゃ、刺激物は避けたほうが良いかな。」
 ボソッと姉が呟いた。
「刺激物って?」
 姉の呟きを聞き付け、満瑠は姉に質問した。
「馨、試験でストレス溜まってそうだから、刺激の強い物食べたらお腹壊しちゃうんじゃないかなって思ったの。」
 静香は含みの有る笑顔で、そう答えると再び画面に見入った。
 6時を回って、夕方のニュースが始まった頃、待望の兄が帰ってきた。
「おかえりなさ〜い。」
 バタバタと玄関に向かった二人が見たものは、先日以上に悲壮な顔をし、声も出さずに泣いている兄の姿だった。
 二人が声も掛けられず、玄関に立っていると静香がそっと声を掛けた。
「おちびさん達、あっちの部屋で大人しくしてて。」
 静香は馨の鞄を持つと弟を促すようにして、2階に上がって行った。