赤いくつ
Written by : 愛良
[5] 1000円のワンピース


 ある日、おじさんが一人の男を連れて帰ってきた。その頃の私は、今度は着るものが無くて毎日裸だった。おじさんが帰ってくると部屋の隅で体を固くしてうずくまるのが常だったから、その男と帰ってきたおじさんを見て、私はほっと安心した。おじさんがとても機嫌が良かったからだ。
 けれど、おじさんは男に何かを言うと、また家を出ていった。私は部屋の隅に蹲ったまま、その男が何者なのかを伺った。
 おじさんと同じ雰囲気、同じ匂いを持つその男は、私を見てまなじりを下げ、猫撫で声で
「未来ちゃんって言うんだってねぇ?」
と笑いながらそう言った。贅肉がたっぷり付いて、汗ばんで脂ぎった男だったけれど、その声はおじさんとそっくりだった。私が無言でおずおずと頷くと、
「今日はおにーちゃんが可愛がってあげる」
と、その分厚い体とは裏腹な薄い唇を舌なめずりした。
「未来ちゃん、気持ちいい事好き?」
無遠慮に男が手を伸ばし、私の体を撫でさする。私はぞくり、と鳥肌が立った。気持ち悪い、と思った。
「未来ちゃんも気持ちよくしてあげるからぁ……おにーちゃんも気持ちよくしてくれないかなぁ……その可愛いお口でぇ……」
ふーふーと荒い息を吐きながらその男はそう言って、ズボンのジッパーを降ろし、中からおちんちんを取りだした。それは、おじさんのとは似ているようで少し違った。形も、色も、匂いも。似ているようで全然違う。おじさんには感じたこと無い汚さを、その男のそれに感じて、私はいやいやと左右に激しく首を振った。
「ねぇ……未来ちゃぁん……」
男は自分のものを私の体中に撫で擦りながら、はぁはぁと荒い息を吐いて
「早くぅ……おにーちゃん、そう聞いて来たんだよぉ……未来ちゃんが気持ちよくしてくれるって」
「誰に……?」
私はおずおずとその男に聞いた。聞いた時点でその答えは既に私の中で明白だった。おじさん以外にそんなことを言う人はいない。
「未来ちゃんのおじさん」
案の定、男はそう答え、私の唇に自分のものを押しつけてくる。むっとした籠もった匂いをそれから感じながら、私はどうしておじさんが、とばかり思っていた。
「未来ちゃんがねぇ……こうするの好きだっておにーさん聞いたんだぁ……エッチだねぇ、未来ちゃぁん……」
 男は気持ち悪い猫なで声を出した。その声はざらざらと耳障りで、私は吐き気がしそうだった。
「……好きじゃ……ないもん」
それは私の精一杯の反抗だった。おじさんだから、私はおちんちんを舐めたり抱かれたりするのが好きだったのだ。誰でもいい訳じゃ無いと思った。
 その途端、男が大声で怒鳴った。
「好きでも好きじゃなくてもどっちでもいいんだよ!早く舐めろよ!金払ってんだよ!」
大声で怒鳴られて、私はびくっとした。殴られる、と思った。痛いのはイヤだ。殴られる痛みは、破瓜の痛みの様に徐々に慣れて和らぐ様なモノでは無いことを知っていた私は、無条件で、殴られる痛みよりも、気持ち悪さの方を選んだ。気持ち悪いのは、いつか慣れると言う事を知っていた。
 おずおずと男のモノに唇を寄せ、ちろりと小さな唇から舌を差しだし、ゆっくりとおじさんにするように丁寧にしゃぶると、男はあうあうと喘いで溜息を漏らした。さっきはあんなに大声で怒鳴りつけ、もの凄い形相をしていたのが嘘の様に、再び猫撫で声に戻った男は、私の膨らみかけた乳房を乱暴に弄りながら
「はぁぁ……未来ちゃぁん、袋も舐めてぇ」
とか
「エッチだなぁ、未来ちゃんは、おちんちん舐めるの好きなんだねぇ」
とか言った。
私は心の中で別に好きじゃない、と否定しながら、殴られるかも知れないと言う恐怖の為それを言う事は無かった。
 男は、私の頭を押さえ込んで喉奥まで自分のモノを押し込み、乱暴に腰を揺すっては訳の分からない言葉を発し、一人で喘いでいたと思うと、やがて喉の奥に白い液体を放出した。おじさん程長い時間は掛からなくて、私はほっとした。

 やがて、男が去っておじさんが帰ってくると、おじさんは上機嫌だった。私に新しい服を買ってきてくれていた。多分、今思えばそれはスーパーで1000円程度で買える様な安物のワンピースだったけれど、そんなことはどうでも良かった。久しぶりに上機嫌のおじさんが服を買ってきてくれたと言う行為に、私は嬉しくてたまらなくなった。
「未来、これはお前が自分で稼いだ金で買った服だぞ。良かったな」
と言って、私の頭を久しぶりにその大きな手で撫でてくれた。晩ご飯も久しぶりに美味しいものをお腹いっぱい食べさせてくれた。あの男は気持ち悪かったけれど、ああいう事をしたらおじさんが喜んでくれる、と分かって、私は安心した。おじさんがどこでどういう風に男に売り込み幾ら貰ったのか、知るよしもなく、またそんなことはどうでも良かった。

 その後、おじさんは色んな男を連れて帰ってくるようになった。それは大体週に一回から二回のペースだった。私は男のおちんちんを舐めるだけの時もあれば、体の中に挿れられる時もあった。おしっこするのを見せてと言われた時もあったし、男のおしっこを飲むように言われた事もあった。
 男達は大抵気持ちの悪い猫なで声を出し、私の機嫌を取り、ぎこちない愛撫をして、一人で勝手に喘ぐような人達ばかりだったけれど、おじさんに渡すのとは別に、私にもお土産を持ってきてくれたりして、それは悪いことでは無かった。
そして、必ず誰もがこう言った。
「未来ちゃんは上手だねぇ」
……と。
 私は無自覚なまま、男の感じる場所を熟知していた。
私の所へ来る男達は必ず何回かに一度のペースで私のところへ繰り返しやって来て、美味しいお菓子やお人形をくれた。何度も来てくれる男の個人別に気持ちいいところも分かるようになってきて、私は早くその男達を射精させる術も知った。私が少しでも歓んだふりをすると、男達が凄く満足する事も知ったし、私自身も気持ちよくなるためにどう振る舞えばいいのか、コツも分かる様になってきた。
 それでも、おじさんが与えてくれる気持ちよさに較べたら、それは気持ちいいとは到底言えなくて、男達が帰った後、おじさんに触れて貰いたくて仕方がなくなった。それでも、それを言えばおじさんの機嫌が悪くなると思って、それを言う事だけは封印した。言わずにおけば、殴られない平穏な日々が続くと私はどこかで知っていた。



 ある日、おじさんが一人の女の子を連れて帰ってきた。その子は可愛らしいピンクのワンピースを着ていた。
「今日から一緒に暮らすから」
と、おじさんはその子の手を引いていた。私は胸の奥がちりっと灼ける様な感覚に襲われた。おじさんは、今日からこの子を可愛がるんだわ、と瞬時に悟った。それは言いようも無い不快感を伴っていた。

 その日の夜、私は押入に押し込まれ、出てこないように言われた。そう言われても、何をしているのか知っている私は、押入の隙間から覗いて、おじさんとその女の子の行為を眺めていた。
「イイコだから動かないでね……」
と、あの懐かしいおじさんの優しい声が聞こえてくる。反して、女の子は悲鳴に近い泣き声を上げて、もがいていた。その姿はまるで、小さな生き物と、それを喰らう肉食獣の様で、私はドキドキした。見てはいけないものを見たような気がしたと同時に、私もあんな風に抱かれていたんだわ、と思った。下着がぬるぬるしている様な気がしてそこを触ると、そこは何故か濡れていて、触る度にきゅぅん、とした気持ちよさが襲ってくる。まるでおじさんが優しく触ってくれた時の様で、私はそれを思い出しながら何度も何度もそこを弄った。自分で触るのは初めてだったけれど、おじさんのおちんちんが私の中に入ってくる時の事を久しぶりに思い出した。
「いやーーー、痛いよぉ、痛いよぉ、いやだーーーー」
と泣き叫ぶ女の子の声がやがてくぐもり、ぐぅっと言う押しつぶした様な声が聞こえてくると、何だか滑稽な気がした。その痛みが無くなると、その内気持ちよくなるのに、それを知らないのはまだまだ子供だからだ、と私はどこかで思い、自分がその気持ちよさを知っている事を誇らしく思いながら、色んな思いを抱えて、私は押入の中で自慰に励んだ。
「ぅぅぅ……」
と、おじさんがイク直前の声を久しぶりに聞いて、私は灼けるような嫉妬と共に、その声で果てた。

 私は多分、その女の子の事をよく殴ったと思う。おじさんが見ていない所で、おじさんに言ったらもっと酷く殴るからね、と言いながら気に入らない事があるとすぐに殴った様に思う。それは、自分へはもう二度と与えられない愛情をその女の子が一身に受けているからであり、嫉妬という言葉は知らなくても間違いなく嫉妬していたからだと思う。
 その女の子が来てから、おじさんと一緒に寝ていた布団は女の子のものになり、私は押入で寝るのを余儀なくされた。押入でおじさんとその女の子のまぐわいを見、自分で自慰を行い、果てた後寝るのが日課となった。
 自分で触りだして気付いた事だけど、おまんこに小さな突起があって、それを触るととんでもなく気持ちがいいことに気が付いた。よくおじさんが触っていたのはこれか、と思いながら指で優しくころころと転がすと、おじさんが優しく触れてくれていた時の事を思い出して、ふんわりといい気分に包まれる。いい気分に包まれた後、そこを強くこすると、痺れるような気持ちよさに変わって、あっと言う間に何が何だか分からなくなる、と言う事を知った。
 おじさんが男を連れて来る時、私はその男達にそこを触って貰うようにおねだりした。いつの間にか、私は男に対しておもねるようなねだり方を身につけていた。







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