赤いくつ
Written by : 愛良
[6] 大樹の陰にて


 おじさんが男達を連れて来る時、大抵おじさんは女の子を連れて外へ遊びに出た。帰ってきたら色んなオモチャや洋服を買って貰っているのが悔しかった。多分、彼女に買い与えるオモチャや洋服の代金は私が男達を歓ばせて得たものだ、とどこかで感じ取っていた私は、女の子に対して辛く当たった。おじさんの気持ちを独り占めした事に対しての怒りと相まって、私は彼女に憎しみさえ抱いていた。
 私は、私を抱きに来る男達に、この家にもう一人エッチな女の子がいる、と告げた。彼らが小さな女の子を好んで抱くと、どこか肌で感じ取っていたからかも知れない。男達は最初驚いて、未来ちゃんだから抱きたいんだよ、とお世辞を言いつつ、目を爛々とさせてその話を詳しく聞きたがった。
 数日後、おじさんが男を連れてきて、連れ出されたのは私の方だった。おじさんは凄く不機嫌で、誰もいない道端で髪の毛を引っ張り何度か殴ったけれど、それは痣が残る程では無かった。そうなったら売り物にならないと思ったのだろうけれど、おじさんの手は怒りで震えて熱かった。それを感じながら、私はざまあみろ、と小気味よく思った。胸の内からせいせいする様な爽快感が私を満足させた。今頃あの少女は見知らぬ男に抱かれ、自分が感じた恐怖と不快感を味わっている事だろうと思うと、笑いが込み上げた。それは、とても残酷な気持ちで、私はその残酷な気持ちが体中に満ちるのを快く思っていた。

 おじさんは、より一層私に冷たく、より一層その少女を可愛がる様になった。それはそれで辛いものがあったけれど、時々おじさんはその少女を買いたがる男を連れてくる。それだけが私を満足させた。おじさんは悔しそうにいつも私を連れて外へ出て必ず殴った。それでも私はその残酷な爽快感の為だったら、おじさんが私に冷たいのも平気なくらいにまでなっていた。心の中で「おじさんはもう優しかったおじさんじゃない」と何度も何度も繰り返し呟く内に、それが自分の中に浸透しきったからだ、と私は思った。



 ある日。女の子を殴りながら、おじさんの帰りが遅いのを少し不審に思っていた日。部屋のチャイムが鳴った。おじさんが出たらダメだと言っていたのを思い出し、出ずに居留守を使おうとしたら、かちゃかちゃ、と鍵を外す音が聞こえ、数人の大人が部屋に勝手に入ってきた。女の子が私の腕を掴んで、離さない。鬱陶しい、と思いながら、その大人達を私はじっと見ていた。いつもやって来る男達とも違う雰囲気を身にまとったその大人達は、警察の人だと言った。
「大丈夫だったかい?」
と訊ねられ、何を聞いているんだろうと思いながら
「おじさんは?」
と訊ね返すと、おじさんは警察に逮捕されたんだよ、と教えられた。私達をこうやってかくまり、売春まがいのことをさせていたから、捕まったのだ、と教えてくれた。それを聞いて、私は自分の世界が崩れて行くのを思った。おじさんと、この女の子と、たった三人で構成された世界。時々外から男達がやって来るけれど、この部屋だけが自分の世界だったのだ。今更外へは出られない、と私はその時思ったのだと思う。
 おじさんは、少女誘拐拉致監禁、児童虐待及び売春斡旋容疑で逮捕されたので、当分ここには帰ってこられない、と警察の人が言った。私は、余計なことを、と思った。私にはこれで充分だったのに。やっと、この生活の中で楽しみを見出せたのに。そう思うと泣けてきた。おじさんが可愛そうとか気の毒とかちっとも思わなかった。
 警察の人は、それをどういう意味に解釈したのか
「辛かったね。もう大丈夫だよ」
と言って、警察に連れて行った後、その後の処置を大人同士で話し合っていた。そして、私ももう一人の女の子も身よりのない、施設から連れ出された子供だと知ると、どこの施設へ入れるかの相談をした様だ。私と彼女は別の施設へ預けられる事になった。その時の私は既に12歳になっていた。
 その後、その少女とは一度も会ったことがない。今どうしているのかさえ知らない。名前すら覚えていない。



 小学校を途中から行っていない私は、正確には小学校六年生に編入するべき所を、特別授業と称して集中的に小学校二年生程度の所からやり直した。それでも、他の子供達が数年掛けてやっている所に追いつける筈もなく、私はもう一年、小学生をやらなくてはならなくなった。
 新しく入れられた施設では、既に力の弱い者では無い年齢になっていたので、前にいた所とはそんなに雰囲気も違わなかったけれど、生活して行くのはそんなに大変ではなかった。お腹はいっぱいにならないし、美味しいものを食べられる訳でもないけれど、殴られる心配は無い。……それに、力のある子供に付き従えば、そこでの生活は楽になると、以前の施設でいた生活で私には知恵が付いていたから、まず一番年長で同い年の男の子に取り入った。取り入る術は、おじさんや男達に教え込まれていたから、簡単な事だった。

 「未来……ちゃぁん……」
と、ピンク色のおちんちんをそそり立たせてはぁはぁ喘ぐ俊樹は、その園で年長で力のある大将的存在だった。頭もそんなに悪くない。リーダーとしての役割を担い、それなりにクールでどこか明るい中にも陰があると、女の子達に人気があったけれど、私の前ではサルの様に、その行為をしたがったただの男だった。
「こうされると、気持ちいい?」
と言って、私はそのピンク色の先端を舌先でちろりと舐め上げる。その途端にびくっと体を震わせる俊樹は、おじさんや男達と較べると全然子供だった。
「気持ちいいよ……未来ちゃん……あぁ……好きだよ。大好きだ……」
俊樹は、最中によくこんな事を口走っていたけれど、私はその好きという感覚がどういう物なのかよく分からなくて、適当に返事をしていたと思う。
 ちろちろと舌先で尿道口を舐めながら、まだ若い裏筋を舐め上げると、ううっと呻きながら俊樹は私の頭をくしゃくしゃとした。ぱくん、と口に含むと、いつもすぐに
「ぁぁ、ダメだ……」
と言って白い液体を喉の奥にどろりと放出した。俊樹のそれはおじさんや男達の様に赤黒くてかってなくて、そんなに大きくなく、その行為は楽勝の事だった。でも、何度果ててもすぐ大きくなって、
「未来ちゃんの中に挿れたい」
と、何度も何度も繰り返し、突き上げてくるのだけが苦痛だった。おじさんや男達ほどに上手い筈もない彼に、色んな私を歓ばせる術を教え込みながら、俊樹を虜にし、施設の大人達の目を盗んではその行為に励んだ。
 その代償として、俊樹は私に授業だけでは追いつけない勉強を教えてくれたし、私はその頃くらいから、勉強は必要だと痛切に感じ始めていた。それは、身よりのない子供にとって武器になる、と、俊樹を見ていて学んだ。







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