赤いくつ
Written by : 愛良
[12] トラウマ


 私はそれから、月一程度だった売春を月二〜三回、多い時は五回、六回とこなすようになった。一度きりで終わってしまう男もいたけれど、大体の男はもう一度逢いたがった。その中から金払いの良かった男数人と何度も逢うようになり、その男がまた別の男を紹介してくれた。探す苦労は前程じゃ無くなった。私は何かに追われる様に、そうやってお金を稼いだ。
「どうしてこういうコトするの?」
殆どの男がそう訊ねる。
「お金が欲しいから」
そう答えると、説教をする様な男も多かったけど、私は聞く耳など持っていなかった。そう言う男は説教するクセにもう一度逢いたがる。けど、そんな人と逢う気は無かった。それより、そう答えた後、にやっといやらしく嗤う男の方が後腐れ無くて楽だった。とにかく、私は稼ぎたかった。もっともっと、お金を稼いで高校へ行くのだと、そればかり考えていた。

 ある時、毎月月初めの土曜に逢いたがる男が
「未来ちゃん、お金欲しいんだったら、一回で三倍くらいになる方法があるよ」
と言ってきた。そいつは少し変態じみた事をするのが好きらしく、猿ぐつわを噛ませたり、手足を縛ったり、放尿を眺めたり、浣腸したがったり、とにかく様々なプレイを試したがった。私のことを丁度いいオモチャとでも思っていたのだろう。私も、そう思われる方が気が楽だった。それに、この男はとにかく金払いが良かった。
「今度さ、男二人か三人連れて来るよ。……そしたら、一気にお金になるだろ?」
細くイヤらしい目を更に細めて、その男はニヤリと嗤った。とにかくお金が欲しかった私は、一も二もなく「いいよ」と返事した。何人の男に体を開いても同じ事だと思っていた。



「は、話に聞いてたのと違うっ!」
私は男達に押さえつけられながら、その男を睨み付けた。
「あれぇ?ホントにお金になるんだよ。未来ちゃん、お金欲しいって言ってたじゃない。だから協力したのになぁ」
「やだっ……いやぁ、やめてよぉ」
私は男達の押さえ付ける手を振り解こうと藻掻いた。
「了承取ってくれたんじゃないのぉ?」
上半身裸の男が、例の男にそうぼやく。彼はしらっと、
「相互間の誤解ってヤツですかね」
と薄ら笑いを浮かべて言っていた。
「ん〜……仕方ないなぁ……未来ちゃん、痛くしないからさぁ、大人しくしてくんないかなぁ」
上半身裸の男が猫撫で声で私にそう言う。
「やぁ!やだぁ……それだけはいやっ」
「だーいじょうぶだよ。顔も分からない様にするから」
離れた所から、ビデオカメラを抱えていた男が媚びた声でそう言う。
「絶対イヤっ!撮らないで!!やだぁっ」
「……困ったなぁ……話に聞いてたのと違うのはこっちだよ」
上半身裸の男が、頭を掻きながらひとりごちる。
「あ、じゃあ、女子中学生レイプ物なんてどうです?」
愛想笑いを浮かべたまま、例の男はそう提案した。
「うーん。どうだろ?問題無いかなぁ?」
「結構その辺好きな層っているっすよ。イケるんじゃないっすかね?需要あると思いますよ……それに、レイプ物にするんならこのまま撮ってるテープ使えるし」
「じゃ、そうするかぁ」
男達は勝手にそう言いながら、私に向き直った。……冗談じゃない。ビデオに収められるなんて聞いてなかった。それだったら断っていたのに。……私は自分の浅はかさを歯噛みしながら悔やんだ。
「やめてよっ、絶対いやっ、やだったら……むぐぅ」
叫んでいる私の口を、大きな男がその大きな手で押さえた。息苦しくて私は思いっきり顔をしかめる。
「ねぇ、大丈夫だよね?この娘。」
上半身裸の男は、そんな私の様子を少し離れて眺めながら例の男に訊ねる。
「ああ、結構何でもイケますよ。遊んでますからねぇ、今時の若い子は」
「そんな風に見えないけどなぁ」
「それが怖いトコなんですよ。何も知らない様な顔して、結構エグいことでも何でもやりますよ」
「へぇ。現役の女子中学生だろ?夢が壊れちゃうね。金欲しさに体売っちゃうなんてね」
上半身裸の男がわざとらしく溜息を吐いて首を振る。
「こいつら、金の為だったら、なーんだってしますからねぇ」
おもねる様ににやりと例の男は引きつった笑いを見せた。上半身裸の男は
「じゃ、あんたもういいよ。ありがとう」
と言い、そいつに少し分厚い封筒を渡した。
「え……見てちゃいけませんかね?」
例の男は金を受け取った喜びに顔を綻ばせながらも、更に腰を低くして上半身裸の男に訊ねている。
「うーん、部外者はねぇ、ほら、集中力必要だし」
上半身裸の男は掴み所のない、けれど抜け目のない笑顔で例の男に言い、
「ま、そういう事で。悪いね」
と軽くいなして帰らせた。

「さて、と」
例の男を帰らせた後、振り返った上半身裸の男の目は既に笑ってなかった。口許は口角が上がっていたけれど、とても笑顔には見えなかった。
「あんたには悪いけど、俺たちも仕事なんでね。……悪く思わないでよ」
そう言ったかと思うと、押さえつけられた私の傍まで歩み寄ってきて、着ていた制服を乱暴にまくり上げた。
「簡単に金が稼げるなんて思うなよ、お嬢ちゃん」
更に乱暴に、下着を上へたくし上げる。剥き出しになった乳房を乱暴に鷲掴みにしたかと思うと、その指をぎゅっと乳房の肉に食い込ませた。
 私は、初めて男に触れられることに対して恐怖を感じた。私を性欲の対象として見ていないその目が怖かった。淡々と作業の様に私の服をまくり上げ、肌を露わにするその男の手が機械的に動くのが怖かった。
「やだっ、いやぁ、お金いらないから!いらないから、帰してぇ」
「もう遅いよ。さっきの人に紹介料渡しちゃったからね」
もう一人の男が私の両手を強く掴み、カメラを持った男が、カメラを回しながら片手で足首を捕まえる。
「撮らないでよぉ……やっ……離して!」
「暴れんじゃねーよ。面倒臭ぇなぁ」
手と足を捕まれ自由に動けない。私は、腰を捻って体を右へ左へ回しながら、もだえる様に暴れた。上半身裸の男がスカートをまくり上げ、股間にその手をあてがう。
「ああ、色気のない下着だなー。おっ勃たねーよ。まだてんでガキだなぁ」
けけけ、と嗤いながら両手を掴んでいた男がバカにした様に言う。
「うーん。でもちょっと発育良くないですかぁ?……もっと胸が無い方がいいだろうになぁ」
カメラを回していた男がそう言ったのが、耳に響いた。
―モット胸ガ無イ方ガイイダロウニナァ―
ぐらり、と天井が回った様な気がした。
―オジサンハモウ未来チャンヲ愛セナイヨ―
一瞬、おじさんの表情が脳裏に浮かんだ。苦い物を口の中に入れた様な顔で、憎々しげにそう言った表情。私の全てを拒絶する表情。
「あーやっと大人しくなった」
「そうそう、そのままで気持ちよくなれよー」
「でも、それじゃぁレイプ物にはならないんじゃないっすかねー」
けけけけ、と嗤う男達の声が、もの凄く遠くで聞こえた様な気がしたけれど、その言葉の意味は理解出来なかった。ただ、ぐるぐると自分の内側で渦を巻く黒く湿った感情に吐き気を催した。おじさんのあの時の私を全て拒絶する表情が、私を内側へ引きずり込んだ。


 男が、私の胸を触った。男が、私の脚を撫でた。男が、私の股間に指を突っ込んだ。男が私に覆い被さってきた。男が私に自分のモノを咥えさせた。男が私を舐め回した。男が私に入り込んできた。男が私を貫いた。男が、私の中を擦り上げた。男が、腰を打ち据えた。男が……男が……おじさんが……?
 それらは全て、おじさんの顔とフラッシュバックした。おじさん……?

 ―未来チャンハ、素直ナイイコダネェ……ホラ、モット声出シテゴラン―
「あああああ〜〜〜……もっとぉ……もっとぉ……」
「おっ……急に締まりが良くなった」
「声、出てきましたねぇ……感じて来たのかな」
「さっきみたいにねぇ、全然動かないでいたら困りますもんねぇ」
「人形抱いてるみたいだったもんなぁ」
「お腹熱いぃ〜……熱いのぉ〜……おじさぁん……はぁうぅん」
 ―アァ、オジサンモ気持チ イイヨォ―
「腰使い出したぞ、おい……」
「ぅっ……舌も……使いだしましたよ……うはぁ」
「未来、いっぱい濡れた?おじさぁん……未来、いいこ?」
 ―未来チャンハ、ホントニイイ子ダネェ―
「未来ちゃんって言うのかぁ……ぅっ……ああ、いいこだ」
「すげぇ……中学生の技じゃ無いっすよ、これ」
「いいこだから、気持ちいい様に動いてみな」
「気持ちいいよぉ〜……未来、気持ちいいよぉ〜……おじさぁん……」
「ああ、おじさんも気持ちいいよ」
 ―未来チャン大好キダヨォ〜―
「うひゃ〜……舌の使い方も上手いっすよ……ぅぅっ……」
「あんっ、未来もぉ〜……未来も……ぁぁぁ……」
「すげぇ……狭い……し、熱い……こいつのおまんこ」
 ―オマンコ気持チイイ?未来チャン……―
「おまんこ気持ちいいっ、おまんこいい〜〜」
「そうか、おちんちん美味しいか?」
 ―未来チャン、オジサンノオチンチン好キ?―
「ああああぁ〜……おちんちん好きっ……おじさんのっ……んぁぁ……おちんちん大好きぃ〜」
「おちんちん好きか。ほら、ほら、ほらっ……ぁ……ぁ……」
「未来ちゃん、大好きなおちんちん、もっといっぱい舐めて」
 ―未来チャンノ可愛イオ口デ、イッパイ舐メテェ……―
「うんんっ……舐めるのぉ……いっぱい、舐めるぅ……おじさぁん……」
「いいこだなぁ、未来ちゃんは……ぅ……ぁ、はぁはぁ……ほら、もっと動いて」
 ―イイコダネェ未来チャンハ……ハァハァ……モット動イテネェ……―
「んっ、あっ、あっ、ぁぁん……おじさぁん……おじさぁん……」
「ぉぁ……中が……っ……締まってる……」
「未来ちゃん、イク時は言ってねぇ」
「おじさぁん……おじさぁん……あぁ……んっ……っか……ないで……」
「え?」
「おじさん……おじさん……未来イイコにするからぁ……」
 ―イイコニシテタラ、オジサンイッパイ未来チャンヲ愛シテアゲルヨォ―
「嘘つき……おじさんっ……ぁぁ……嘘つきぃ……」
「……」
 ―オッパイガ膨ラミ始メタンダネ……―
 ―オマンコニ毛ガ生エルンダネ……―
「私の……っ……んんぅ……せいじゃ……無いのにぃ……」
「や、やばくないですか?」
「未来ちゃん?ちょっと、大丈夫か?」
「ああああ……やだぁ……叩かないでぇ……」
 ―小サナ時ハアンナニ可愛カッタノニ……―
「おじさぁん……ああっ……ぁぁぁ……何でぇ……?」
 ―オジサンハモウ未来チャンヲ愛セナイヨ―

 涙がだらだらと流れていた。遠くの方で男達の声が微かに聞こえた様な気がした。私は狂った様に腰を動かし、突き上げてくる刺激だけに縋っていた。愛してよ、ずっと愛していてよ、愛してよ……







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