赤いくつ |
Written by : 愛良 |
◆ [15] 情事 ◆ |
「んっ……ぁ……んはっぁ……んんんっ……ぅ……」 ふと目が覚めると、闇の中で艶めいた抑える様な声が聞こえてきた。 「……声出すと……未来が起きるぞ……」 圭ちゃんの低くお腹に響く様な声も聞こえてくる。薄く漏れてくる隣の部屋からの明かりで、部屋の中も薄ぼんやりしている。 「んぅっ……だ……て……ぁ……いじ……わる……」 「未来には見せたくないんだろ?……なのに抱いて欲しいなんてなぁ……香織はスケベだな……」 普段はかおりんって呼んでる圭ちゃんが、香織って呼んだことで、私の頭は急激に醒めた様な気がした。 「ぁぁ……っ……だって……だってぇ……」 かおりんの絞り出す様な切なげな声が聞こえてくる。 「だって……?……お前、もう三回セックスしてんだぞ?今日……なのに収まらないのか?」 「ゃっ……圭司の意地悪ぅ……」 微かに、くちゅっと言う湿った音が聞こえてくる。どくん、と私の心臓が跳ねる。 ……ヤってる…… 私は血の気が失せて行くのを感じた。どうしよう、どうしよう、どうしよう、と気持ちばかりが焦った。かおりんがまた違う人に見えるかも知れない。相手は圭ちゃんだ。圭ちゃんだって違う人に見えてしまう可能性がある。また吐き気を催したらどうしよう。醜く見えてしまったらどうしよう。 布団の中でそっと耳を塞いだ。ぎゅっと目を瞑った。それでも漏れ聞こえてくる二人の小さな囁き声と喘ぎ声は、私の耳に微かに届いてくる。 「ああ……お前、仕事の後はダメなんだよな……」 圭ちゃんの抑えた声が耳に何故か優しく響く。 「圭司……ぁ……圭司ぃ……抱いて……ね……もっと……いっぱい……」 かおりんのおもねる様な甘え声が、何故か胸を熱くする。 「あぁ……香織のして欲しい様に……ほら……忘れてしまえ……」 ちゅっと唇を寄せ合う音が響く。心臓がどくんどくんと鼓動する音が聞こえてきそうだった。 「んぁ……圭司っ……あああっ」 かおりんの小さな甲高い悲鳴。私の体をその悲鳴が突き刺していく。ずくん、と体が……下半身が、蠢く様な感じがして一瞬戸惑う。……私、この感覚を知っている……? 感覚が研ぎ澄まされた気がした。耳を塞いでいる筈が、聞き耳を立てている。強く瞑った目の裏に、まざまざと圭ちゃんとかおりんの情事が思い描かれる。知らない間に息が荒くなっていた。いつの間にか体を丸めていた。 湿ったくちゅっと言う音が常に聞こえてくる。かおりんの抑えた悲鳴が小刻みに発されては、すぐに闇の中に消えていく。私は思わず、自分の股間に手を伸ばした。そこはぬるぬると途方もなく濡れそぼっていて、溢れだしてくる。 「ぁ……ぁぁ……んぁ…………んっ……んんっ」 かおりんの喘ぎ声に呼応する様に、とろとろと溢れ出して来ている様な気がした。 私は我慢出来なくなって、ベッドから身を起こすと気付かれない様に明かりの漏れるドアに近づいた。隙間から覗き込む。二人を見て吐き気を催すかも知れないと言う恐怖心よりも、好奇心の方が勝ったのだと思う。それは、デジャヴでもあった。おじさんの所で経験したもの。おじさんとあの子の行為を毎晩の如く覗き見て、私は……私は……確かに興奮していた。あの時の感覚が蘇る。 リビングルームは微かな光で満たされ、そこに浮かび上がっていたのはかおりんの白く張り詰めた太股と、圭ちゃんの浅黒く逞しい太股だった。かおりんの足が時折痙攣してはつま先に力が入る。私はドアの隙間を二人に気付かれない様に注意深くもう少し開けた。二人掛けのソファの上で、圭ちゃんの背中に腕を回しているかおりんが、小刻みに震えながら喉を逸らして喘いでいるのが見えた。 それは何というか、今日の撮影の時とは全く違っていた。私は徐々に全身から力が抜けていくのを感じながら、息を殺してその二人を覗き続けた。かおりんの白い腕が艶めかしく宙を掴んではまた圭ちゃんの背中を抱きしめる。圭ちゃんの大きな背中に爪を立てる。時折圭ちゃんの背中越しに見えるかおりんの仰け反った白い顎が、何だかとても美しく見えた。筋肉の筋が浮いた圭ちゃんの背中が、何だかとても美しく見えた。 「んう゛っ……んんぅ……ぁ……ダメ……こ……え……漏れちゃう……」 絞り出す様に、途切れ途切れに訴えるかおりんに応える様に、圭ちゃんがかおりんの顔の上に自分の顔を近付ける。 「んんんっ……」 くぐもる様なかおりんの声から、二人が口吻けているのが分かる。絡みつく様な濃厚な空気が二人を取り巻いて発光している様な気がした。 私は身を乗り出す様に隙間に顔を押しつけて、そっと自分の下着の中に手を滑り込ませた。さっきから溢れている愛液が下着から染み出して熱気を放っている。薄暗い闇の中で時折かおりんの白い乳房が浮かび上がる。 「ぁぁっ……ん……」 妖しげに揺らめくかおりんの乳房と声に弾かれた様に、私は自分の体を少し揺らして乳房を揺らす。圭ちゃんの手がかおりんの繁みを撫でる度に私も自分の繁みを撫で上げる。ふーふーと息を殺しながら、二人の絡み合う姿を見ていた私は、その艶めかしくて美しい光景に吐き気を催した記憶さえ忘れて、食い入る様に見つめていた。……見つめながら、圭ちゃんの這う手をなぞった。 「香織……ここか?……ここが好きなんだろ?」 「ぅぁぁ……ぁぅ……そ……こっ……」 かおりんの悲鳴にも似た喘ぎ声が聞こえる。息苦しそうに悶えながら、悦びを隠せない声。体の中心がずくん、と跳ね上がった様な気がした。 「入れ……てぇ……圭司っ……来て……も……だ……め……」 かおりんの髪の毛が揺れる。頭を左右に振りながら、我慢しきれずに懇願する。ちゅっと唇が重なる音が響いて、ぶちゅっと言う粘液を掻き出す様な音が聞こえる。 「くぁ……ぁっ……ぅ……」 喉の奥から小さく振り絞る様な掠れたかおりんの悲鳴。ぞくぞくぞくっと私の背筋に鳥肌が立つ。 ―あぁ、気持ちいいんだ?かおりん……気持ちいいんだ……?― 胸と体の奥が締め付けられた様な気がした。思わず私は自分の中に指を潜り込ませる。男を何度も迎え入れたことがあるそこは、初めて迎え入れる自分の指でさえ、躊躇無くずるん、と迎え入れた。 かおりんの掌が、圭ちゃんの背中にしっかり絡みついている。かおりんの足が、圭ちゃんの腰にしっかり絡みついている。圭ちゃんの背中越しに見えるかおりんの表情は薄暗い中でもほんのりと赤く上気しているのが分かって、この世のものとは思えないくらい美しい人に見えた。 ……ぁぁ…… ふと気付けば、私はかおりんとそっくりな表情をしていた。かおりんが苦しそうに顔を歪めればあたしも顔を歪めた。かおりんが大きく息を吐き出せば、私も息を吐き出した。泣き出しそうな表情をした時は、私の目にも涙が溜まっていた。 圭ちゃんの腰の動きに併せて、私は指を動かした。圭ちゃんがかおりんの膣内を押し分ければ、私の指が私の膣内にくぐもって行った。圭ちゃんの腰がかおりんから少し離れ、ここからでも二人の体の隙間から見え隠れする結合部分が見えれば、私の指は私の膣内の入り口付近を掻き出していた。 「香織……いいか?香織っ……」 「圭司ぃ……ぁ……ぁ……ぃぃっ……」 二人の間に会話らしい会話は殆ど無かった。かおりんの抑えきれない喘ぎ声と、圭ちゃんの荒々しい息を吐き出す音と、ソファが軋む音だけが薄闇の中にこだましていた。 「圭司……圭司……ダメ……きそ……ぅ……ぁぁっ」 「いいんだ……香織、イッていいんだ……」 切ないほど切羽詰まったかおりんの声が、頂上に昇り詰める事を示唆していた。圭ちゃんの声が、あまりに優しくかおりんを包み込む様で、私は思わずその声に反応してしまった。 ―いいんだ……未来、イッていいんだ……― ……ぁぁぁっっ…… 初めて膣内に指を入れたにも関わらず、私は何の苦もなく自らのポイントを無意識に探り当て、そこを刺激していたのだと思う。難なく私は圭ちゃんの声にイカされた。圭ちゃんの、優しい声に。 「ダメ……ぃけない……いやっ……だめぇ……」 私がはーはーと荒い息を吐きながら、ぐったりしてかおりんから借りたパジャマのズボンと、裸足の足元をぼんやり眺めていると、そんな声が聞こえた。思わず顔を上げて隙間から覗くと、かおりんが自分の顔に両手を当てて、小さく硬直しているのが見えた。 「ダメ……イケないの……ごめん……圭ちゃん……ごめん……」 その声は震えていて、あまりにか細くて、私は思わず自分のしていた事に気が付いた。……これって覗きじゃないの。途端に自分が恥ずかしくなった。覗きながら私は勝手に夢想してイッてしまったのだから。 「いいんだ……大丈夫……」 圭ちゃんの、相変わらず優しい声が聞こえる。それすら、私の胸を刺す様な気がした。 小さく蹲ったまま動かないかおりんの肩が小刻みに震えている様に見えた。私は自分の中に言い様もない自己嫌悪が沸き立って来るのを感じていた。 「ほら……もう寝よう……な?かおりん」 「ん……圭ちゃぁん……ごめんね?シて……あげる」 哀しみをまとったかおりんの声が、圭ちゃんを気遣う様に囁く様に言う。 「いいよ……今日はもういいから……」 「だって……」 「な?寝よう……未来が起きちゃったらマズイだろ?」 その声に私は一瞬硬直した。ごめん、起きてる……起きて……覗いてる……そう思うと罪悪感が沸々と沸いてきて、それが二人にバレるのが何故か怖くて、足音を立てない様に焦りながらベッドへ潜り込んだ。 布団の中に潜り込み、膝を抱える様にして体を丸める。ぎゅっと目を閉じる。耳を枕に押しつける。かおりんの優しい香りが毛布からふんわり漂ってくることさえ、今の私には責められている様な気がして、何だかとても切なかった。 「ィケないの……ごめん……」 かおりんの泣き出しそうな切羽詰まった声。 「イッていいんだ……」 圭ちゃんの包み込む様な深くて優しい声。 その二人の様子に何か事情がありそうだとは微かに思ったけれど、そんなことよりも今の私は自分のしでかした愚かでみっともなく恥ずかしい行為に打ちひしがられていた。 二人の艶めかしい声と、艶めかしくて美しい肢体が脳裏に浮かび上がっては消えていく。ずくんずくんと体の中心が疼く様な感じに、私は歯噛みしそうな位のもどかしさを感じながら、それでも布団の中からぴくりとも動くことは出来なかった。動いたら、全てがバレそうな気がして、怖くて動けなかった。 何故、二人の情事を見ても吐き気を催さなかったのだろう。それどころか何故二人の情事で自慰行為を行ってしまったのだろう。そう言う暗く澱んだ様な疑問が心の奥から沸き上がってくる。 体の中心が痛いくらい疼く。さっきイッた筈の膣内が勝手にきゅっきゅっと収縮しているのが何となく分かる。まだまだ欲しがっている。それすら、自分が欲の塊に思えて情けない思いでいっぱいになる。 目を開けているのか閉じているのか分からない暗闇にじっと身を潜めて、息を殺した様に布団の外から物音がしないか聞き耳を立てる。まるで、布団の中だけが自分の世界の様で、外界から取り残された闇の中に息づいている様だった。 眠れず悶々としながら遅々として進まない夜に歯噛みする。泊まるんじゃなかった、と言う思いが渦巻く。 それでも、いつの間にか夜の闇に吸い込まれる様に私は眠りに落ちてしまっていた。 |
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