赤いくつ
Written by : 愛良
[23] 閉ざされた庭L


「お願い……も……ぁぁっ……許して……」
絞り出す様に沙也香がそう呟く。
「ご冗談を……私を誘ったのはあなたでしょう?」
明日、きっと筋が痛むわ……そう思いながら、私はそれを辞めようとはしなかった。
「いやっ……ぁぁ……も……お願い……ぁぁぁっ……」
「お願い……何です?」
「お願いだから……ひぁっっ……あああああっ」
「お願いだから?」
「ダメ……いやぁぁぁ……そんなに強くしちゃ……」
「ふふっ……いいですよ……またお漏らしでもしちゃいますか?」
「………………っっ!……ぃやぁ……っ」
沙也香の腰がカクカクっと揺れた。かと思うと、彼女の股間からぴゅっと透明な液体が迸る。……今夜はこのベッドで眠れないな、とふとそんなことを思いながら、私は彼女の潮で濡れた掌を沙也香の腹に擦りつける。
ふーふーと大きく息を吐きながら沙也香はぐったりとベッドに横たわっている。朱に染まった白い胸元が大きく脈打って。
私は、その様子を見ながら、また彼女の脚を開き、ドロドロに溶けきったそこに再び指先を忍ばせる。
「も、やめ、て……おね……がい」
ぜぃぜぃと呼吸を荒らげながら懇願するように私を見つめる沙也香の顔は、真っ赤に染まって、汗で髪の毛の筋が顔にこびりついている。私はそんな懇願など聞き入れず、容赦なく、指先をぐい、と曲げる。
「ひぁっ……ぁ〜〜〜〜」
喉の奥から絞り出すような声を出し、沙也香が悲鳴を上げる。既に痙攣に近い位に、私の指先を締め付け、ピクピクと小刻みに蠢くそこは、沙也香の悲鳴に合わせて大きなうねりを起こす。
「誰も、ここまではしてくれませんでした?お嬢さん」
……正直、私もここまで出来るとは思って無かったわ、お嬢さん。
ぼんやりとこんなことを思いながら、彼女のクリトリスを指先で擦り上げ、つまみ上げる。
「あぅぁ……あううっ……いやぁぁぁ……」
汗と、涙でぐしょぐしょになった顔を大きく左右に振りながら、彼女はまたぴゅっと潮を噴く。何度目だろう。一度イッた後は面白いくらいすぐに潮を噴き出すものだと、私はこの時初めて知った。
AVなら、ここで男優が自分のペニスを挿れるんだけどね……と、ふと思う。まさか、現場に顔を出していたのが、こういう所で役に立つとは思わなかったわ、圭ちゃん。
ぐっしょりと濡れきったシーツの上に浮かび上がる紅潮した白い肢体は、やがて啜り泣くことも呻くこともしなくなった。



「あなた……凄すぎるわ。予想以上よ」
恥ずかしそうに沙也香が髪を直しながらそう言った。ほんの数分、気絶したらしい彼女は、気が付くと途端にとろけたような女の顔のまま、媚びるような眼差しを送りつけた。
「光栄です」
私は心にもない事を言いながら、極上の笑顔を向けた。予想以上……と言うことはやっぱり、ある程度、沙也香は私の事を知っているんだな、とちらりと思う。
「素敵だったわ……どこでそんな技術を身につけて来られたの?」
髪を整え、服を着ながら彼女がそう尋ねてくる。……どこで?白々しい事を聞く、と思いながら
「ご存知の通りですよ」
と、笑顔を称えたままカマを掛けてみる。
「ふふ……そうね」
曖昧に言葉を濁しながら沙也香が微笑んだ。ああ、やっぱりな、とどこかで思う。
「ね……あなた、来週空いてらして?」
「ええ、特に予定はありませんが」
「そう。……パーティがあるの。あなたに紹介しておきたい方がいるのだけど、いらして下さる?」
有無を言わさないおつもりなんでしょう?と私は心の中で溜息を吐きながら了承した様に頷いた。
「約束よ……そうそう、ドレスはこちらで用意しておくわ」
くすり、と嗤う様に彼女が言う。……ああ、そういうことか。さっきまで私に組み伏せられていた屈辱を取り戻すかの様に、そう言うことで、優位に立とうと言う訳か。確かに私は正式な場に赴くための服など持ってはいないしね。
「……ありがとうございます」
私がそう答えると、満足そうに沙也香は部屋を後にした。どっと疲れが押し寄せる。私は濡れた箇所を避けながらベッドに倒れ込むと、そのまま昏倒するように眠ってしまった。



それからの一週間は驚くくらい平穏に過ぎていった。沙也香が近付いて来ることも無く、至って普通の日々だった。両手の筋が多少つったけれど、それもすぐ治まった。多少動いたかに見えた私の時計は、またそこで止まった気がした。

「……あなた、パーティがあるって私、言わなかったかしら?」
約束の日になっても沙也香から何も連絡が無かったので、部屋で原書を読んでいたら、私の部屋に沙也香がやって来た。
「それは伺ってましたが、何時から何処で、とは伺ってませんでしたから」
私は敢えて素っ気なく答える。
「だったら聞きにおいでなさいよ。……それでも多少用意をしているのかと思ったら、全くなのね」
呆れたように沙也香が言う。ほんのりと化粧を施したその顔は、いつも以上に目鼻立ちがくっきりと整い、美しさをより増している。
「あなた、お化粧道具は持ってらして?髪の毛も。そんな風にまた一つに束ねて、型がついてしまうでしょう?……いいわ、私の部屋へおいでなさい」
彼女は私を視線で促すと、すたすたと自分の部屋へ先に歩いていく。レースをふんだんに使った白いドレスは、彼女にとてもよく似合っていた。
「ドレスはこれを着て。そうね、ハイヒールは……どれがいいかしら。お化粧の仕方ご存じ?……あら、知らないの?……いいわ、私がやって差し上げるから。髪はアップにすれば、型が付いてるのも関係ないわね」
部屋に着いた途端捲し立てる様に指示する沙也香は少し楽しそうだった。
「先にそのドレスを着るの。そしたら、こちらに座って、ね。あなた勿体ないわ。お化粧映えする顔をしているのに。覚えておいた方が良くてよ?」
高級そうな化粧品をずらりと並べながら、沙也香は私の顔を弄り始めた。至近距離に近付いてくる沙也香からは、仄かに香水の甘い香りが漂ってくる。
あまりに近くに顔が来るので、私は思わず視線を逸らす。何となく気恥ずかしくなってしまう。
「……あら?……あらあらあら。……もしかして、照れてらっしゃる?」
くすっと沙也香が微笑む度に、香水と、化粧品の香りが鼻腔をくすぐる。懐かしい様な、心地よい様な、不思議な香り。
「キスした時はもっと近くに顔があったのよ?……不思議な方ね、あなた。ふふ……目を瞑って」
思わず私はぎょっとする。目を瞑る事の方が恥ずかしい気がして。
「アイシャドウを塗るのよ……なぁに?キスするとでも思ったのかしら?」
クスクスと笑いながら可笑しそうに沙也香がそう言ったのを聞きながら、私は何だか懐かしい感覚に包まれていた。
「あら……ホントに良く似合うわ。そうね、ドレスは黒だし……唇は派手に赤にしてしまいましょ。赤いハイヒールを履いたら、さぞ似合うわよ」
満悦した様に言う沙也香の声に、思わず私は異を唱えそうになった。赤いハイヒールは……。
「なぁに?……赤いヒールはお気に召さないの?でもダメよ。あなた口紅赤にしたんだもの。ヒールも赤にしないと野暮ったいわ」
そう言って沙也香は私に鏡を渡すと見るように促した。至近距離で見た化粧をした私は、どこか大人っぽくもあり、キリリとした顔立ちに見えた。
「どう?……お気に召して?」
満足げに沙也香が微笑む。
「……私じゃ無いみたいで」
「間違いなく、あなた、よ」
クスクスと微笑む沙也香に悪意は微塵も感じられない。本当に、単純に、私の顔を化粧して、それに満足している感じがする。……それに、ここまで綺麗に仕上げて貰って、私が反感を持てる筈も無かった。
「……で、今日は一体何のパーティなんです?」
気恥ずかしさをうち消す様に、話題を変える様に、慌てて私は沙也香に尋ねた。
「……おじいさまの、お誕生日パーティよ」
そう言った沙也香は少し眉をひそめた様な気がした。







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