目覚め |
Written by : ひさと |
◆◆◆ #1 ◆◆◆ …… [2] In the Tea Room …… |
彩子が指定した待ち合わせ場所は中華街の端の湊公園(みなとこうえん)だった。市内の中心部からは若干離れているが、近くにはホテルも多く、食事をする場所にも事欠かない。車はいつもの正覚寺下(しょうがくじした)の電停にある駐車場に停めた。築町(つきまち)の電停まで路面電車に乗る。ダイエーの横を通れば湊公園は目の前である。 湊公園に着いたら電話してください、と、電話番号がかかれたメールが送られていた。公園には見回したところ該当するような女性は見当たらない。取り敢えず電話してみた。 「・・・あ、ひさとです。湊公園に着きましたけれど、、、」 「すみません、今向かっている途中なんです。なんだか遅れちゃってごめんなさい」 「ううん、かまわないよ。ここにいた方がいい?」 「いえ、えーと、どうしようかな。晩御飯まだですよね?」 「あなたは?」 「まだです。一緒に何か食べますか? 私の好きな場所でもいいですか?」 「いいよ、どこに移動したらいい?」 「えっと、すみませんけど、観光通りのドトールコーヒーわかります?」 「うん。そこにいればいいかな?」 「ちょっと移動していただいちゃいますけど、よろしくおねがいします」 「OKOK。あとどのぐらいで来られそう?」 「20分ぐらいかかっちゃいます。私から呼び出しておいて申し訳ないです」 「かまいませんよ。じゃあドトールで。たぶん2階にいるから」 「はい、できるだけ急ぎます・・・・・あ、」 「何?」 「明日はお休みですか?」 「うん、ウチ週休二日だから」 「ということは、、、 時間はたくさんありますね」 「あははは、そうですね」 「でもできるだけ急ぎます。すみませんがもう少し待っていてくださいね」 車をとめた正覚寺下から観光通りの電停までは2区間、普段だったら歩く距離である。やれやれ、と、多分周囲の人は誰も気づかない苦笑いをしながら、それでも股間に少しの違和感を覚えながら混雑する中華街を通り抜け、観光通りに入る。ドトールはS東美前の交差点からすぐである。ブレンドコーヒーを頼み、2階に移動する。少し奥まった席が空いていたのでその席に落ち着いた。電話からちょうど10分経っていた。 それから15分ほどして、携帯にメールが入った。 「今観光通りの電停です。これからドトールに入ります」 店内で携帯電話で話をしなくてもいい配慮をしてくれているようだった。返答のメールを簡単に作ろうとしている時に再度メールが入った。 「階段に立っているのが私です。手を振っていただけませんか?」 階段には、片手に携帯を持った女性が立っていて、それとなく周囲をうかがっていた。私が小さく手を振ると、気づいた彼女はほっとしたような顔をして急ぎ足で私のテーブルの正面にトレイを置いた。華奢な人だな、と第一印象で感じた。 「はじめまして・・・ って、変ですね(笑) Candy、、、彩子です」 「はじめまして(笑) 管理人のひさとです」 彩子は私の正面に座った。黒い襟なしのソフトジャケットにライトブルーのブラウスの襟を出し、ジャケットより少し色の濃い黒のタイトミニスカートは座ると細い大腿の半分ぐらいまで見えた。ぱっと見た感じ、仕事が終わって帰宅途中のOLといった感じであるが、外見からは昨夕の乱れた感じは微塵も感じない。メールでも言っていたが、確かに目つきがかなりきつい。多少釣り上がっていると言うのもあるが、大きな黒目で真っ直ぐに見詰められるとかなりの眼力が有りそうである。確かに気の弱い男性だったら目だけで敬遠されてしまうかもしれない。彩子は緊張のせいか、伏し目がちにあいまいに笑いながら話を切り出した。 「まさか長崎の人だとは思ってなかったですよ。お住まいが県内だって聞いたんで、もうこれは 縁 だなって思っちゃって(笑) 勝手に(笑)」 「縁・・・ですか。縁なんでしょうかね・・・」 「縁、なのか、それともカンなのかもしれないですね」 「・・・?」 「うーん、何と言ったらいいでしょう、夕べのような自分を、まさか私をよく知っている人に見せるわけには行かないですよね、で、却って見ず知らずの相手だったら何でも言えるかな、なんて思ったんです」 「それが、たまたま夕べのチャットだった、と」 「ええ・・・ チャットは前からやっているんですけど、H系の場所はほとんど経験なかったんです。で、夕べはたまたまひさとさんのルームを見つけて、最初はちょっと覗き見るぐらいのつもりだったんですけど、見ていたらなんだか、あーそういえば私長い事何もないなぁなんて思っちゃって、それであんな気分になっちゃって」 「で、電話をしてしまった」 「ええ・・・ 管理人さんだし、他のメンバーよりは信用してもいいのかななんて勝手に思っちゃって。でも、ちょっと大袈裟かもしれませんけれど、思い切って自分の生活と言うか、人間を変えるぐらいの、なんだか、衝撃がありました」 「衝撃・・・ですか。今までにこういう気持ちと言うか、経験と言うか、そういうのはなかったですか?」 「ないです。あんなによかったのも初めてで・・・」 「その相手はこんな(と言って自分を指差して)ですけど、こんなでもOKですか?」 彩子は、メールでははっきりと抱かれたいと言っているのだが、かなり緊張している様子なので直接的な言葉は今は得策ではないと判断した。彩子は今度ははっきりと頭を上げ、私の目をじっと見詰めた。 「私こそ・・・ こんな女ですけど、ひさとさん、ご趣味に合いますか? あの、こんなに目つきがかわいくない女ですけど、、、」 彩子の緊張したような口調の端々に、遠まわしにセックスを誘うような、内に秘めた性欲が感じ取れた。どうやら彩子自身は私とセックスをする覚悟を固めたようであるがはっきりとはわからない。もう少し彼女の性欲を高め、こちらのペースに持っていきたい。 「ここで断ったらどうします?」 「えっ・・・! あ、いえ・・・ あの、」 「帰ってから一人でしちゃいますか?」 店内の少し奥まったコーナーに入っているので周囲からは目立たない。店内も多少騒がしいので、大胆な言い回しを使っても大丈夫だろう。 「え・・・・・・」 「セックスがしたくて、来たんでしょ? もし断られちゃったら、今のあなたの中にある性欲は持って帰らなきゃいけませんよね」 「いえ、あの、、、」 「・・・私に抱かれたいですか?」 「・・・・・・はい」 「こんな、風采の上がらない中年男ですけど、それでも抱かれたいんですね?」 「・・・(目線をあげて真っ直ぐ私を見て)はい」 はっきりと決心したと確信した。 「・・・・・・あなたは−−夕べ電話で、何でもします、って言いましたね。覚えてますか?」 「(はっとしたような顔をして)・・・ええ、(視線を戻して)はい。何でもします。させてください」 彩子に余計な事を考えさせ、自分自身で自分自身の性欲を意識の奥深くまで浸透させるため、会話をいったん区切り、じっと彩子の目を見続ける。 店内のBGM、近くにいる客の話し声、すぐ外にある盲人用信号機の音、そしておそらく、彩子自身の心音。 彩子は不安そうに、視線を外して、トレイの上のコーヒーカップに落とす。 「本当に、」 突然の私の言葉にはっとしたように視線を戻す。 「何でもしますか?」 「・・・・・・・・・・・・ はい」 「ここでオナニーしなさい」 「えっ」 「何でも、するんですよね?」 「・・・・・・ええ」 「オナニーしなさい。今すぐ」 「それは・・・・・・いえ、はい、わかりました、、、どうしたらいいですか?」 「スカートの中に、手を入れなさい」 「え、でも、、、」 「ちょうど死角になっているから他の人からは見えないでしょう。私しか見ていないから恥ずかしい事はないはずですよね」 私は丁寧な言葉づかいをした。丁寧な言葉のほうが彩子の耳にはなじみやすく、その分ストレートに脳内の官能に達するはずだ。 彩子は暫くの躊躇の後、恐る恐るタイトスカートの裾に手を伸ばした。両の内腿の間に手が入る。今気づいたが、指が長く、細い綺麗な手である。この綺麗な手が昨夕は自分自身をはしたない快楽に引き摺り下ろしていたのであろう。そして、おそらくまもなくそれと同じシーンを目の前で鑑賞する事になるのだ。 彩子は、細い両脚の間に右手を差し入れ、一瞬のためらいの後、脚の付け根のほうにゆっくりと手を割り込ませていく。タイトスカートが少しずつ托し上がって行く。 「あぁ・・・」 小さく声が漏れる。閉じた目に更に力が入り、目の周囲に皺が寄る。少し腰が浮き、手を一番奥まで差し入れる。私は彩子に問い掛ける。 「そこは・・・ どうなっていますか?」 「・・・えっ」 「あなたの、今触れている部分、いつもと同じではないでしょう? どうなってます?」 「・・・・・・」 「ここからは見えないから、どうなっているのか、ちゃんと口に出して言わないとわからないでしょう。教えてください、どうなってます?」 「・・・夕べと、同じように・・・」 「同じように、どうなってるんですか?」 彩子は目を開き、周囲を伺った。店内の死角になっているこの位置で起こっている事に気づいている人はいないようである。 「・・・とても、濡れています・・・」 「直接触らなくてもわかるぐらい濡れているんですね」 「・・・・・・はい、、、、」 彩子の右手が小刻みに動き出した。両膝が少し開き、すぐにまた固く閉じられた。目を閉じた彩子は顔を前に傾け、少し開いた口から大きく息が吐き出された。 「気持ちいいですか?」 彩子は目を閉じたまま何度か上下に頭を振った。右手が動いているのがはっきりわかる。左の腿の上にあった左手がそのまま上に上がり、ジャケットの上から左の胸を愛撫し始めた。 「あはっ・・・・・・あっ・・・・・・」 我慢できずに漏れてしまう、と言った感じの声が、私の耳元にもはっきりと届く。ペニスが固く勃起し、ズボンを押し上げる。 彩子は、前かがみの姿勢から、背もたれに体を預けるような姿勢に移り、脚を少し伸ばした。右手の円運動が上下運動に変わり、動きが強く激しくなってきた。絶頂目前のようである。 騒がしい店内。観葉植物を隔てて彩子の隣に座っている若い女性。窓ガラス越しに見える観光通りの交差点を足早に歩く人たち。 「はぁっ・・・・・・!」 彩子はのけぞり、脚を突っ張らせ、頭を後ろに強く反らせ、大きく口を開けた。がくがくと身体が痙攣し、頭を反らせたまま硬直する。指先だけが股間で素早い上下運動を繰返し、もう一度強い痙攣が起こり、体ががくんと動く。さらに身体が硬直し、やがて指の動きが止まる。 余韻に浸る間もなく、彩子は慌てて体勢を立て直し、スカートを元の位置に戻す。椅子に深く腰掛け直し、上気した顔で私の目を見詰める。 「気持ちよかったですか?」 「・・・・・・はい、なんだか、、、」 「なんだか?」 「異様に興奮しちゃって・・・・・・」 「ええ。見ていてわかりましたよ。私もそんなあなたを見てとても興奮しています」 「・・・そうなんですか?」 「ええ。確認したいですか?」 「・・・・・・はい」 私は笑顔で、目の前の私のコーヒーを飲み干した。 「時間はたくさん有りますから急がなくてもいいでしょう。まずは晩御飯にしませんか?」 「(はっとして)ごめんなさい、私、自分の欲望だけで、確かめたいなんて・・・そうですよね、おなか空いてますよね、ただでさえ私遅刻しちゃったのに・・・」 「あははは(笑) いえ、いいんですよ。まだお互いの事よく知らないんですから、いろいろ話しましょう」 「そうですね(笑) 私、ゆっくりとお話ができるお店知ってますけど、一緒に行きませんか?」 「いいですね、どのあたりですか?」 「思案橋です。もう、すぐそこです(笑)」 「OKOK、じゃあ出ましょうか・・・ 大丈夫? 歩ける?」 「何とか(笑)」 二人揃ってドトールを出る。2階の窓から見えた観光通りの交差点を渡り、思案橋までゆっくりと歩く。ほとんど言葉は交わさなかったが、彩子の顔は明るく、本人がずっと気にしていたきつい目つきも、そう気にならなくなっていた。 |
[ 2002.07.07 初出 ] |
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