目覚め
Written by : ひさと
◆◆◆ #1 ◆◆◆
…… [4] On the Sofa and Lonely Bed …… 



古くからある千歳町の住宅街の中にある、かなり新しいマンションの中に彩子は私を促して入った。オートロックを開け、エレベータに入る。彩子は12階のボタンを押す。ドアが閉まり、かごが上がり出す。
彩子が私に抱きつく。私はやわらかく受け止め、そっと額にキスをする。彩子の手に力が入る。エレベータの中にある防犯カメラが気になったが、別に悪いことをしているわけではない。

12階まではすぐである。ドアが開く。彩子は体を離すが、私の身体から名残惜しそうにいつまでも手を離さない。ドアがまた閉まる。閉まったかごの中で彩子は私に飛び掛かるように抱き着き、私の唇に自分の唇を合わせる。

長い間。

エレベータが再び下に向かって動き出した。彩子は名残惜しそうに私の中に差し入れた舌を抜き、私から手を離した。エレベータは7階で止まり、若い男性が乗ってきた。そのまま1階まで降り、なんとなく私たちもいっしょにエレベータを降りた。
その男性がマンションの外に出るのを確認してから、もう一度12階に向かった。
12階の一番角の部屋だった。一人暮らしにしては贅沢なほど広い。リビングは正面に大きな窓があり、ベランダに出られるようになっているようだ。大きなソファが置かれ、テーブルの上に蓋の閉じられたノート型のコンピュータが置いてある。窓を背にした隣の部屋には大きなベッドがある。多分エクストラサイズだろう。しかし私はそのベッドのサイズより、ベッドリネンがきちんとセットしてあり、カバーがきっちりかけられ、一切の乱れがなかったことが気になった。普段使っているような形跡がない。
「ビールにします? それとも、冷たいお茶がいいですか?」カウンターで区切られたキッチンのほうから彩子が私に尋ねた。
「お茶がいいな。これ以上酔っ払ったら寝てしまうかも(笑)」私はソファに腰掛けながら答えた。
「やだ(笑) ここまで来て寝ないでくださいよ。寂しいじゃないですか(笑)」
彩子は冷蔵庫から出したペットボトルから大き目のゴブレットになみなみと緑茶を注ぎ、私の前に置いた。3口ほど一気にのみ、ふぅ、と息をついた。私の隣に座った彩子は、同じゴブレットから冷たい緑茶をのみ、私に軽く体重をかけてきた。私は彩子の後頭部に手を回す。彩子は目を閉じる。私は彩子の額に口付ける。彩子の唇が、あっ、という形に開く。髪の生え際、頬、まぶた(舌先で眼球を転がすように)、鼻先、唇を少しかすめて、あご、首筋。
彩子の両手が私の背中に回る。全身が小刻みに震えているのが伝わってくる。ショートカットの髪を少しかき分け、左の耳を出す。耳たぶを柔らかく噛む。

「はぁっ」

明らかな欲情を表したその声に、私のペニスが反応する。
舌先を耳の中に差し入れ、ぴちゃぴちゃと音をさせながら愛撫する。彩子の身体の震えが止まらない。もう一度耳たぶを噛み、耳の後ろに息を吹きかける。彩子は喉の奥から絞るような声を出し、身体を固くし、背中に回した手が爪を立てるような仕種をする。
舌先を顔の輪郭をなぞるように伝わせ、小さく開いた彩子の唇に触れる。彩子が貪るように私の唇に吸い付き、舌を入れてくる。私の口の中で二人の舌が激しく絡み合い、口の隙間から混じり合った唾液が零(こぼ)れ落ちる。
口の中が痛くなり、引き剥がすように唇を離す。彩子は目を開け、私の目をじっと見詰める。瞳の奥に激しい欲情が見て取れる。
私は彩子と目を合わせたまま、無言で私の背中に回った彩子の手を離す。彩子の顔が一瞬曇る。そのまま彩子の右手をとり、私の股間に導く。驚いたように少し手を引っ込めるが、すぐに自分から手を差し出し、私の股間で激しく脈打つペニスの形に添って動かし始める。
「したいように、してごらん」
私の言葉の真意をすぐに察した彩子は、私のズボンのベルトに手を伸ばす。かちゃかちゃとバックルをいじり、留め金を外す。彼女の中の激しい性欲が行為を慌てさせるためか、中心部のボタンがなかなか外れない。うわ言のように何か呟きながら懸命にボタンを外そうとしているが、何と言っているのか聞き取れない。私は手を貸し、ボタンを外す。彩子は一気にジッパーを下ろし、下着といっしょに引き摺り下ろそうとする。私は腰を浮かし、行為を助ける。彼女の言葉がはっきり聞き取れるようになる。意識的にか無意識にかはわからないが、「欲しい、欲しい・・・」と言いつづけているのだ。
彼女の手が私の衣服を膝近くまでおろす。硬く張り詰めたペニスが跳ねるように出現する。彼女はためらわず根元をつかみ、しごきたて、一気に口に含む。亀頭の先が彼女の舌先で強く刺激される。苦痛に近い状況に私は身体をのけぞらせる。彼女の勢いは止まらず、強く吸いながら舌先で亀頭の一番張った部分をぐりぐりと刺激され、根元近くは手で激しくしごかれている。強すぎる刺激による苦痛の向こう側から、鈍い快楽が見えはじめる。
「欲しかったのか?」
彩子は咥えたまま、頭を大きく上下に振る。
「好きか? しゃぶるの好きか?」
彩子は咥えたまま「好き」と発音し、そのまま口を離し、私の顔をじっと見詰めて「好き、好きなの、Hなこと全部好き・・・ はしたない? 私、はしたない? いやらしい女嫌い?」と訴えるように言う。


「いいぞ・・・ 好きなようにしな。狂う所を見せろ・・・」
彩子は返事をせず、再びフェラチオを始めた。一時の昂ぶりが治まったのか、先ほどよりトーンの低い刺激である。しかしそれが、先ほどまでの強い刺激のためにくすぶっていた私の性感に一気に火を付けた。
ペニスの先端から腰を伝って足先まで流れるしびれるような快感に、自然に声が漏れる。声を出すと彩子は、ちらりと上目遣いに私の顔の表情を確認し、またすぐにペニスに視線を落としてフェラチオを続行する。私が感じるのを楽しんでいるようである。私はそのまま、彩子が与えてくれる快感に身を浸す。
彩子は先端から口をはずし、ペニスの裏を舌先で舐めおろす。陰嚢との境目にちろちろと舌を這わせ、袋の表面を大きく広げた舌全体でべっとりと舐めあげる。根元をつかんでいた手は雁首との境目近くをつかみ直し、雁の張った部分を小刻みに刺激する。舌先が再びペニスの根元に戻り、まるでキスマークを付けるように強く吸い付く。
腰から足先に蹲(うずくま)る私の快楽が、再びペニスから脊髄を通して脳に逆流し始める。射精の衝動を感じる。一段高い声が無意識のうちに出る。
「・・・・い、できそう?」
彩子の言葉のはじめのほうを聞き逃す。え?、と問い返す。
「・・・2回、できそう?」
「あぁ、望むなら3回でも4回でも」
彩子は激しく欲情した顔で私を見詰め、そのままペニスに食らいつく。激しく頭を振り、手を動かす。先ほどまでは強いと感じていたその刺激が、一気に私を射精へ導く。

ペニスの先端から全身に突き刺さるような鋭角な快感、自分の意識の中では3倍にも4倍にも膨れ上がってその存在を主張するペニス、白く塗り潰される視界、そして。

ペニス自体で熱さを感じるほどに煮えたぎり、勢いよく噴出されるおびただしい量の精液。噴出と同時に全身を駆けずり回る出口のない絶頂感。やっと出口を見つけ、開放されると同時に再び噴出する精液。それらの何度かの循環。

長い、一瞬。

光を取り戻した私の視線に最初に入ってきたのは、まだペニスから口を離さない彩子の姿だった。

彩子は上目で私の表情を確認し、そっと口を離す。精液は綺麗に吸い取られ、射精した痕跡すら残っていないように見える。おそらく、すべて飲み込まれたのであろう。
「続けて、できる? できそう?」
昨夕から(いや、もしかしたら2年前からかもしれない)性欲を昂ぶらせ続け、久しぶりに男の精を飲み下し、快楽欲、あるいはもっと直接的な、性器同士の結合欲が最高潮になっているのであろう。ただでさえ昨夕から数度のオナニーを強制され、メールを書くという追体験の中でも数回の絶頂欲に屈服し、今日は不特定多数の人が集まる中でのオナニーまで命令されているのだ。時間をかけて昂ぶらされ続けた肉欲にとって、今、すぐ目の前にあるペニスに欲情するのは当然である。
「どうだろう? 続けてやったことないから・・・ 高校生のころだったらいざ知らず、もう30超えてるからね」
「時間、かかりそう?」
「うん、気持ちではすごくやる気はあるんだけど、ほら、勃起力とか、自分の意志ではどうにもならないものもあるし、ね」
「自分の意志?」
「そう。いくら勃起させたくても、ね」
「自分の意志じゃ、だめ、かも・・・? じゃあ、自分じゃない人の意志だったら大丈夫かも・・・?」
彩子はいたずらっ子のように声を出さずに笑い、再び私のペニスにフェラチオを仕掛けてきた。
射精直後のペニスに再び刺激を受けると、たいていの場合、痛みを伴う苦痛を感じる。今回も例外ではない。ただでさえいつもとは違う激しい快楽を伴う射精を強制されたばかりなのだ。
腰が引ける。だがソファの上なので逃げ場がない。欲情に目を濁らせた彩子には私の苦痛は伝わらない。耐えるしかない状況である。
彩子は先ほどの強く欲情した態度とは違い、やさしくゆっくりと舌先の愛撫を続けた。そのうち徐々に、苦痛の中に快感が見え始めた。彩子は口を離し、手は根元から離さないまま私に問い掛ける。
「少し硬くなってきたみたい・・・ 大丈夫? 痛くない?」
「続けてごらん・・・もしかしたら本当に2回目ができるかも」
彩子ははっきりと顔をあげて私と目を合わせる。きつい目つきはそのままなのだが、まったく気にならず、却って欲情が見て取れる。視線を外さないままペニスに顔を近づけ、再びフェラチオの態勢を取る。
快感はまだ弱い。が、苦痛は和らいでくる。じっと目を閉じて、ペニスに意識を集中する。

どのぐらい時間が経っただろう。
熱心に舐め続ける彩子の口の中で、再びペニスが硬く大きく張り出すのを感じる。彩子は口での愛撫のペースをあげる。苦痛がなくなり、前回とは違った性質の快感が下腹部に広がる。
彩子は口をはずし、手でペニスをしごく。完全に勃起したペニスを握る彩子の目が再び欲情で濁る。私は彩子の髪を撫でながら労をねぎらう。

「ずいぶん待たせたね。欲しかったろう」
彩子はペニスから手を離さないまま私に寄りかかり、胸元に顔を埋める。それを合図に、彩子のタイトスカートを思い切りたくし上げる。
「あっ・・・」
ストッキングに包まれた下着が見えた。ストッキングの縁を探し、引き下げようとする。彩子は腰を浮かせてそれを助ける。くるくると巻かれるようにストッキングが膝まで降りる。
白い下着は、その部分だけ色が違ったように見えるほど濡れている。吸水用のシートは付いていないようである。指を当てると、熱く、下着ごと性器の中に沈み込むような感触がある。
彩子はすでに十分高まっているはずだ。焦らさず、ストレートに責めよう。
下着の上から性器の中に浅く指を沈める。彩子がペニスを握る手に力がこもる。そのまま、性器の内壁を伝うように、クリトリスの後ろ側に指を這わす。下着の上からもはっきりと勃起しているのが感じ取れる。かなり大きく、丸い。
「ああっ、そこ、」
彩子が強く反応する。そのままクリトリスの後壁を、根元から先端に向かって上下に刺激する。彩子の声が断続的になり、目が堅く閉じられる。
何度か刺激の方向を変えながら後壁を刺激し続け、そのままクリトリスの先端に指を伸ばす。
「きゃぁぁっ!」
悲鳴が上がる。昨夜オナニーさせた時、膣内の強い刺激点を探り当てた時に出した、あの悲鳴。彩子はペニスから手を離し、私にしがみついてくるが、膝に絡まるストッキングのため身体の自由がきかない。バランスを崩して私にのしかかるように倒れ込む。唇が私の喉元に触れ、強く押しつけられる。

クリトリスの先端を、押し込むようにねじ込み、螺旋を描くように刺激する。硬く大きく勃起したクリトリスは指先を跳ねるように逃げる。逃げたクリトリスを再度指で捕らえ、再び押え込みにかかる。逃げる、捕まえるを幾度となく繰返す。彩子は私の喉元にある口を大きく開き、私に快楽の叫び声と熱い息を浴びせる。かぶりを振るたびに唇と髪の毛が私をより一層刺激する。
オナニーで絶頂する時、彩子は指先を上下運動させていたのを思い出す。その手付きを真似て、クリトリスを上下運動させる。
「きゃぁぁぁぁ、いや、いや、いっちゃう、いっちゃう・・・・・うっ」
不意の快楽に慌てたように心の準備を整えようとしたようだが、身体のほうが先に絶頂に到達したらしい。身体を突っ張らせることもできず、挿入も伴わない不十分な絶頂に、彩子は不満足そうな視線で私を見詰める。
私は体を起こし、ズボンと下着を取り去り、彩子をソファの座面に手を付けるようにして、後背位の態勢を取らせる。下着の股間の部分をずらし、性器を露出させる。色素の薄い性器の、肉唇の合わせ目に、不自然なほど巨大に勃起しているクリトリスが見える。フードが完全にめくれ上がり、粘膜で覆われた快感の中心に満ちる血液の色が、出口を求めて張り詰める彩子の性欲の固まりのようにも見える。開いた肉唇の隙間を完全に満たすほど十分に潤っているのを目で確認し、予告なく一気に完全に勃起したペニスを挿入する。
「きゃ、きゃぁぁぁぁっ、あ、うあ、あぁぁぁっ・・・!」
なにか乗り移られた自分以外のものにしゃべらされているような言葉にならない叫びを断続的に出しながら、彩子は私の身体を受け入れた。新しい熱い愛液が吹き出すように分泌され、フローリングの上に敷かれたラグの上に滴り落ち、染みを作る。下着も脱がされない着衣姿のまま数年ぶりで男性を受け入れている彩子は、久しぶりに味わう男根の感触と、下着すら脱がされていない自分の姿の異様さと、昨日から高められるだけ高められていた自分の性欲とで、脳が破裂するほどの快楽を感じていた。
「あ、いや、いや、ひさとさん! 自分が、あぁぁ、きゃぁぁぁぁ、あぁぁ! もう、もう、彩子、あぁぁぁっ」
入り口が強く閉まってくる。絶頂が近いようだ。彩子の腰を両手で持ち、思い切り強く激しく打ち付ける。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ・・・・・・!!」
ソファの背もたれが変形するほど強く手に力が入り、背中が強く反る。足の筋肉に力が入り、筋肉の窪んだ線がくっきりと浮かび上がる。膣口が痛いほど私を締め付け、全身が大きく びくん と跳ねる。
膣内の定期的な収縮が止まらない。私はそのままきつい締め付けを楽しみながら、前後への運動を再開する。先ほどよりはゆるく、ゆっくりと。
彩子の反応は早い。膣内の収縮が終わらないうちに再び快楽の頂点に登り始める。そして、すぐに絶頂する。
「いやぁっ、また、あぁぁっ、いやぁぁぁっ、気持ちいい、いっちゃうっ、いっちゃうっ、続けて、あ、はぁぁぁっ」
彩子は、オーガズム閾値が下がらない体質のようである。いったん絶頂すると、刺激が止まらない限り何度でも絶頂し続けるようだ。
私は、絶頂に伴う強い締め付けと、内側の肉の規則的な収縮を楽しみながら彩子の膣壁をペニスで犯し続ける。激しく快楽を叫ぶ声、昨夕の電話での痴態、人前でのオナニーの強要、そして今日出会ったばかりの女性の性器に挿入された自己。
急激に射精への衝動が強まる。
「彩子、いくよ、どこに出して欲しい?」
「中に、あぁ、中に出してください、浴びたい、いっぱい浴びたいです・・・はぁぁぁぁっ」
「よし・・・ いくぞ、もうすぐ・・・」
彩子の腰を持つ手に力が入り、尻房を波打たせるほど激しく突く。射精の衝動がペニスから脊髄を通って脳の深部に至り、視界を濁らせる。腰の動きが意志の力で止められなくなる。彩子の一番奥の壁に先端が当たったかと思われる瞬間、私自身を彩子の中に解き放つ。
「ううっ・・・・・・」
「あ、は、いい、熱い・・・・・・」
彩子もその瞬間に再度達したらしく、私と微妙にずれながらも同じ感触を味わう収縮を繰返していた。
ペニスの緊張が解けない。根元が強く締め付けられているためだろうか。
私は少し力を入れながらペニスを彩子から取り出す。強く締まっている膣口に、一滴残らず内容液を絞られているような感触がある。抜き取った後、彩子に残存した精液が流れ落ち、糸を引きながらラグの上に滴り、一部は太腿を流れ、一部は肥大したクリトリスの表面を覆うように汚す。彩子はソファに顔を突っ伏せ、はぁはぁと荒い息使いを続け、私が腰から手を離すと同時に床に崩れ落ちる。そのまま私に向かって両手を伸ばす。私は彩子を抱き上げ、ディープキスを繰返す。
彩子は目を開け、私に強く抱きつく。乱れた服装のままの華奢な彩子の身体が私に密着する。
「ひさとさん・・・」
彩子が口を開いた。
「とっても・・・ よかったです・・・」
「そう・・・ 久しぶりのセックスはどうだった?」
「それは、もう、このとおりで・・・」
「随分楽しんでもらえたみたいで」
「やだ(笑)」
彩子は小さく声を上げて笑った。笑いながらまた私にキスをせがんだ。

−−−
シャワーを浴び、私は彩子が出してくれたバスローブ、彩子はバーバリーチェックのパジャマを着て、ついさっきまでセックスをしていたソファに腰掛け、大きなゴブレットから冷たい緑茶を飲んでいる。さっきは一つ、今は二つ。
「私って」彩子が話し掛ける。
「セックスでいったことってなかったんですけど、今日はなんだか・・・」
「一人でじゃなくて いった のって、はじめて?」
「ええ、こんなにはっきりセックスでいっちゃったのは本当に初めてです。もうどうしたらいいかわからなくなっちゃって」
「オナニーではいけてたんでしょ?」
「ええ、でもなんだかセックスでは・・・」
「何でしょうね。何がよかったんでしょう?」
「わからないです・・・ でも、今日は本当に、なんだか素直に快楽に没頭できました」
「今までは、なにか、引っかかるものがあったのかな?」
「かもしれません・・・ 知っている人には、こんなにHな自分の姿って晒せませんよね。でも、今日は本当になんだか・・・」
「昨日からの盛り上がりってのもあったんじゃないですか?」
「(顔を赤くして)やだぁ。・・・でも、それはあるかもしれないです。なんだか昨日から、私の人生、Hなことに関わる私の人生の中で、強い衝撃があり続けました」
「テレフォンセックスにはじまって・・・ 何回もオナニーを強制されちゃったり、今日はドトールでもさせちゃったしね」
「ええ、ドトールでのは、本当に、こんなところでなんかできないって思ってたんですけど、何でもするといった手前引けなくて、仕方なく恥を忍んで自分を奮い立たせてって感じだったんです。でも、刺激していくうちにだんだんあのシチュエーションがたまらなく気持ちよくなっちゃって・・・ 私もうだめとか、こんな事で感じてたら変態になっちゃうとか、頭の中がいろいろと拒否するんですけど、快感には勝てませんでした・・・」
「今までは、理性が負けちゃうぐらいなHな感じには、なれなかったの?」
「ええ・・・ なんだか。メールにも書きましたけど、元々は多分HなHな女の子だと思うんですけど・・・」
「なかなかそのHさを、素直に出せなかった」
「そうですね・・・ でも、もうそんな過去の話はいいです。多分、私は変わったんだと思いますし」
「そうだね(笑)。今をたくさん楽しもうか」
「ええ(笑) でも、今日はもう休みませんか? 本当はさっきから眠くて眠くて(笑)」
「あはは、うん、いっぱいいっちゃった後だしね。眠ろうか」
「えっと・・・ いっしょのベッドで眠っていただけます? 誰かといっしょだと眠れないとか、ベッドじゃなくて布団派だとか(笑)、そういうのあります?」
「何もない(苦笑)。いつでもどこでも誰とでも眠れますよ」
「よかった。いっしょに眠ってください」

彩子は私を促して隣のベッドルームに移る。華奢な彩子でなくても大きすぎるベッド。ベッドカバーまできちんとかけられ、まるでチェックインしたばかりのホテルのベッドのように、人が眠った形跡がないベッド。
彩子はカバーを大きくめくり、パンパンに張られたシーツを1枚はがすようにめくり、ごそごそと中に入る。「ひさとさん、こっち」と、自分の右側のベッドパッドを手でぽんぽんとたたく。導かれるようにその位置に横になる。
首まで毛布とシーツにくるまり、彩子は私に抱き着いてくる。私はやわらかくキスを返す。
「このベッドで寝るのって・・・3年ぶりなんです」
「3年? って?」
「そうです。前の彼と別れて以来このベッドでは寝てないんです」
「それは・・・どうしてなの?」
「だって寂しいじゃないですか、こんなに広いベッド」
「・・・彼と寝るために買ったの?」
「そうです。前の彼は遊びに来ると必ずこのベッドでいっしょに眠って朝帰りしてくれました。そのころは小さなシングルベッドに二人で寝ていたんですけど、さすがに眠れないんで(笑)思い切ってこんなに大きなベッドを買ったんです」
「でも、その彼はもうここに来ることがなくなった・・・」
「ええ、それ以来このベッドで寝ると寂しくて、紛らわせに一人でしてても彼のことばかり思い出しちゃって、しかもHでは満たされてなかったんでなんだか余計なことばかりいろいろ考えちゃって。なので、いつのまにかあのソファで寝るようになったんです。で、私が過去を振っ切ることができる人が現れて、その人がいっしょに寝てくれるようになったらこのベッドを使おうって、自分の中でそんなことを勝手に思ってたんです」
「そうか・・・ いろいろあったんだね」
「ええ、いきなりお部屋に誘ったのは実はそういう目論見があったんです。なんだか私のわがままにお付き合いいただいてすみません」
「ううん、でもそんな重要な役回りに、チャットで知り合ったばかりのこんな男でもよかったの?」
「知り合うきっかけなんて何だっていいんですよ。きっと。前の彼とだってテレクラだったし・・・ でも、ひさとさんはなんだか昨日初めて会ったって気がしない。うまく説明できないけど、なんだろう、私の中に すっ と入ってきたみたいで・・・」
「なんだろうね」
「なんでしょうね」

考えてもわからないものを考えるのはよそうか、と、電気を消した。お互いかなり疲労していたようで、気が付いた時にはもう朝になっていた。

−−−

日曜日の夜まで、二人は何度も求め合った。彩子は今まで2年分のブランクを取り戻すかのように積極的だった。毎回というわけではなかったがオーガズムも感じられるようになっていたようで、日曜日の夜の最後のセックスの後には、「悲しかったり寂しかったりっていうんじゃないですよ、感謝しているんです」と、泣きながら私にキスをしてきた。
日曜日の夜、帰宅のために部屋を出る際、彩子は自分の名刺に自宅の住所と電話番号を書いて私に渡した。
「もしお嫌いじゃなかったら、いつでも。お約束通り、何でもしますから。地下の駐車場も1区画空車のまま持ってますので、そこに停めちゃってかまいませんよ」
私はありがたく受け取り、もう一度ディープキスを交わして部屋を出た。路面電車の千歳町駅まで歩き、正覚寺下まで電車に乗る。電車の中であらためた名刺には、県内では有名な石油販売店グループの関連企業のマークと名前が入っており、「係長 柳川彩子」との肩書きが入っていた。就職して3年で係長の肩書きを持っている不自然さが気になったが、その事は彩子から切り出されない限り聞くのはよそうと考えた。
長崎の路面電車はどこまで乗っても100円であるので、金曜日の夜に比較的近い湊公園に移動した時も、歩いては移動できないような千歳町から正覚寺下まで移動しても、100円である。だが結果的に2晩の駐車になったので、駐車料金が気になっていた。しかし駐車場のおじさんは、事前に宿泊駐車の申し出をしていなかったにもかかわらず黙って宿泊駐車の扱いにしてくれていたので想像よりははるかに安く済んだ。運転席でおじさんに深深と頭を下げて夜の国道34号線を佐世保方向に向かって走る。

2日ぶりの自宅は、締め切っていたためか男の一人暮らし特有の乱雑さからか、空気がよどんでいるようだった。が、私の気分はなんだかすっきりと晴れていた。



[ 2002.07.07 初出 ]




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