目覚め
Written by : ひさと
◆◆◆ #2 ◆◆◆
…… [4] coming out and opening NEW DOOR …… 



 先週はひとりでシャワーを浴びただけだったのであまり気にしていなかったが、彩子の部屋の浴室は贅沢なぐらい広い。二人で脚を伸ばして入れるぐらいの広い浴槽と、広い洗い場。それと、はじめて明るい中で見る彩子の全裸の姿。全体に線が細い。第一印象の華奢な感じは全裸でも変わらなかったが、骨ばっているような感じはない。強調された女性の丸みはないが、細い中にも色気のある体型をしている。彩子のすらりとした脚を見ていると新たな欲情が私の中に起こるが、まだ勃起は誘発されない。

 メイク落としオイルで思いきり顔を洗い、背中を流し合い、少し熱めの湯船に二人で入る。どちらともなく ふうう と声が出る。

「なんだかさっきは済みませんでした。入社直後新人研修でマツハヤオートラマ諫早に少しいたんですよ。そのときのいろいろをちょっと急に思い出しちゃって」
「あー、なるほど、社会人になってすぐはいろんなことがあるからね。俺もいっぱい失敗したなぁ・・・」
「そうなんですか? ひさとさんもいろいろありました?」
「あったあった。相手がコンピュータだから、ごまかし効かないし、システムダウンは即その会社の生命線を脅かしちゃうし、上からも下からもお客さんからも絞られましたよ、ええ、ええ」
「そうなんだぁ・・・なんだかちょっと意外。仕事で悩んでるのって私だけかと思ってましたよ」
「みんな何かで悩んでますよ、悩まず仕事できてる人っていないって」
「そうなのかな・・・うん、そうですよね。そうだそうだ」

 彩子は無理やり納得し、笑った。笑って私に近づき、首筋にキスをした。浴槽の湯が波立ち、ばしゃん、と大きな音を立てる。

 上目遣いで私を見上げ、右手をペニスに伸ばしてきた。もともと欲情していたので軽くしごかれるだけですぐに勃起する。

 彩子は左手で私の右手を取り、彩子の股間に導く。熱めの湯よりも温度が高く感じるそこには、水ではない液体が湯と混じりあわずに貯留していた。

「彩子・・・」
「入れますよ」

 彩子は一方的に宣言し、私に乗ってきた。湯船の中で、勝手の違う挿入。何回かの試行錯誤の後、彩子は自らを私のペニスで満たした。

 快楽、というよりは、安堵の声が漏れ、彩子は私を強く抱きしめる。浴槽の湯が波打ちながら動き、結合した二人を押し、引く。私の目の前には彩子のちいさな胸がある。硬く大きく勃起する乳首に舌を当て、転がす。彩子は声を漏らし、もう一度強く私を抱きしめ、首を下に思い切り曲げてキスをせがむ。舌が差し入れられ、痛いほど絡ませあう。

「永遠に、」

 彩子が私の唇に唇をつけたまま話す。彩子の唇の微妙な動きが敏感になっている私の唇に伝わり、別の道筋からの快楽が私の中を走る。

「・・・永遠にこうしていられたらいいんだけどなぁ・・・」
「入れられて、繋がって、暖かい中で・・・?」
「ええ・・・永遠に、こんな風に、繋がったまま快楽だけで生きていけたらいいのに・・・」

 彩子は私の頭に頬擦りをし、もう一度ディープキスをする。入り口の締め付けが強くなる。

「でもね」

 彩子がもう一度私を強く抱きしめ、唇を合わせながら言う。

「・・・このまま穏やかな快楽で満足できたらいいんだけれど、やっぱり、ひさとさんの強い強い力で、押し切られて、ねじ伏せられて、私の意志は無視して犯されて、絶頂に落とされたい・・・」
「・・・彩子・・・」
「私、変ですか? こんな願望ってやっぱりおかしいんでしょうか?」
「おかしくはないと思うよ。・・・彩子って、どちらかというと、Mな方なのかな?」
「・・・多分、きっと、ものすごいMなんだと思います。いじめられたいとか縛られたいとかって思うし・・・」
「いじめられたいの?」
「私、子供の頃は割といじめっ子だったんですよ。でも、いじめられて泣いている子なんか見ていると、この子今すごく気持ちいいんだろうななんてどこかでぼんやり考えていて、大学生の頃に、私は本当はいじめられたいんだってはっきり気づいて」
「誰かにいじめてもらえたの?」
「いいえ。誰にも言えずにずっと今まで。こんなこと打ち明けたのひさとさんがはじめてです」
「そうなんだ・・・」
「ひさとさんって、意識なさってるかどうかわかりませんけれど、Hの時、私を軽くいじめますよね」
「あー・・・うん、確かにちょっといじめている気分ではあるかも」
「こんなHされたことないんですよ。だからもう気持ちよくて気持ちよくて」

 意識してなのかどうかわからないが、彩子の入り口が再び強く引き絞られた。鈍い快感が下半身に波打ち、水面の波に変わって二人を揺らす。

「・・・ひさとさんって、女の子をいじめるの好きですか?」
「子供の頃はいじめっ子もいじめられっ子もどちらも経験したけど、やっぱりいじめていたほうが気持ちはよかったかもなぁ」
「よかった。私でよかったら、どうぞ好きなだけいじめてください」
「好きなだけ?」
「ええ。泣き叫んでも逃げ出しても本気で抵抗しても、暴力で押さえ込んでレイプし切ってください」
「・・・本気で抵抗したことないじゃない」
「・・・それもそうですね」

 二人とも繋がったまま声を上げて笑った。互いの性器も笑うことで動き、緩やかな快感がたちのぼる。

 浴室を出て、濡れた体を手早くバスタオルで拭き取り、二人とも下着をつけずにエクストラサイズのベッドに入る。

「これ、試してみようか」

 私は洗面台の横に積んであったバスローブのベルトをはずし、ベッドに持ち込んでいた。

「・・・どう使うんですか?」
「手を、縛ってみたい」
「・・・いいですよ、どうぞ」

 彩子は両手を私のほうに伸ばす。両手の手首を付け合せるように押さえ、胸の前でバスローブのベルトを巻きつけ、両手首を固定する。胸の前で手のひらを合わせた格好になっている。

「すごく不安・・・手の自由が利かないだけのことなのに・・・」
「不安な感じ? いいぞ、不安なまま体を開くんだ・・・」

 彩子の両足の間に割って入り、脚を大きく広げて性器を露出させる。洗ったばかりであるが、もう既に彩子の液で満たされている。顔を近づけ、音を立てて液を飲み、膣の入り口に舌を差し込む。

「ああっ」

 彩子の声が漏れ、体がよじられる。そのまま舌を上に動かし、フードから露出したクリトリスの本体の表面を すっ と舐め上げる。

「うあ、ああっ・・・!」

 いつもよりも敏感になっているように感じる。クリトリスの周囲の盛り上がった肉を口に含み、唇で強く押さえ、フェラチオをするように刺激する。彩子は脚をじたばたさせ、強い快感に耐えるため持って行き場のない縛られた手で胸の前の空間の何かを掴もうとする。いつもなら私の腕、シーツ、枕など、掴むことで強い性感をそこから少し逃がし、自分の中で性感や絶頂のタイミングを多少なりともコントロールできるのだろうが、その手立てを奪われた彩子は、与えられる性感をまるごと自分の中に取り込むより他にない。普段は耐えられる性感が今は彩子を絶頂にまで導こうとしている。

「ああっ、私、私、どうしたらいいですか、ああっ、すごい、変、変・・・っ」

 彩子は脚をM字に開き、足の裏でシーツを掴むように力を入れ、その力が彩子の体を反らせ、自分の思い通りに動かせない上半身が、頭を支点にした運動を強いられる。そのうち、ブリッジに近い態勢で私の頭を挟んだまま足がきつく閉じられ、きゃあっ、と短い悲鳴とともにクリトリスの根元の海綿体がぱっと太くなり、脚の力が抜けると同時に元に戻る。射精直前の男性器と似た絶頂のサインのようにも思える。

 彩子の呼吸が深く荒くなり、整えようとしているようだが、かまわず口での刺激を続ける。いやっ、いやっ、はぁぁぁっ、と言葉にならない叫び声を上げながら企図しない絶頂を強要される。6回目までは数えていたが、そこから先は私も興奮で正常な思考が出来なくなっていた。

 何度目かの絶頂の後、彩子の体に力が入らなくなった。陰核の張りもなくなり、性感が起きていないような感じになった。

 彩子の性器から口をはずし、顔の表情をみる。彩子は失神したようにぐったりしていた。半開きの目の視線は定まらず、縛られた手はぐったりと流されていた。

 彩子をゆすり、声をかける。バスローブのベルトを解き、両手を自由にする。彩子はぼんやりとこちらを見ていたが、だんだん視線がはっきりしてきた。

「・・・ひさとさん・・・」

 彩子は私に手を伸ばし、ベッドに手をついている私の二の腕を掴む。存在を確かめるように何回か握りなおし、力を入れて私を掴みなおす。

「・・・私、どこか知らないところに・・・」

 目を潤ませて私をじっと見つめ、もう片方の手も私に伸ばす。私はベッドに横になり、彩子は私の体に抱きつく。抱きつく、というより、しがみつく、といった感じが正しいか。

「・・・どこか知らないところに、連れてかれてしまったみたいです・・・」
「気持ちよかったの?」

 彩子は大きく首を横に振った。

「気持ちいいとかいっちゃうとか、そういう、セックスとは違った何かが・・・ よくわからないんですけれど、怖いんですけれど、ひさとさんだったら大丈夫だって言う声も聞こえてきて・・・」

 私は彩子の髪を撫で、額に口付ける。彩子は言葉を選びながらも、興奮した口調で今の常態を私にわからせようとする。

「・・・手の自由が利かないって、ものすごく原始的な不安があるんです。手を使う人間の行動が、手があるにもかかわらず出来ないって言う・・・ よくAVで手を縛られてやられちゃうのってありますよね。気持ちよさそうだとは思ってましたけれど、まさかこんなになっちゃうって・・・」

 たった今、性に関する得がたい体験をしたと思われる彩子の脳内の経過を共有し、私も激しく興奮していた。

「・・・でも、ごめんなさい。もう体が耐えられない・・・ 今入れられちゃったら私、セックスが出来ない方向に体が壊れちゃいます・・・」

 彩子は私の首筋に顔をうずめるようにしがみつき、私の肩の辺りを何度かかむようなしぐさをする。

「・・・でも、口でだったら出来ます。口でもいいですか?」

 私が頷くと、彩子は起き上がり、私を仰向けにし、足首を掴んで足を大きく開いた。違和感を感じるほど硬く勃起しているペニスが前後に大きく揺れる。彩子は私の足の間に入ってペニスを掴み、ゆっくりしごき始める。鋭角な快感がすぐに全身を覆う。すぐにでも射精できるほど高まっているが、もっと強い快感を期待して意識をペニスから逸らす。

 彩子は舌を出し、しごいているペニスの裏側の雁と皮の繋ぎ目辺りに舌先を当てる。やわらかく暖かい感触に射精とは違った方向の性感が生起し、快感が更に高まる。無意識のうちに呼気に声が混じり、こちらの反応を確かめようとしているらしい上目遣いの彩子と目が合う。もう全く気にならなくなっていたはずの彩子のきつい目つきが、上目遣いで強調され、根拠のない緊張感が走る。その緊張感が性感を底上げし、太腿の内側に力が入る。

 彩子はペニスから手を離し、先端を口に含む。口内で雁の一番張った部分に舌の表面を軽く押し付け、ペニスに沿って舌をゆっくり回転させる。普段だったら快感に感じるであろうその刺激だが、ぎりぎりまで高まっているため痛みをともなった苦痛に近い感じを受ける。

「彩子、ちょっと痛い。悪いんだけど」

 彩子は確認するようにもう一度私の顔を覗き、雁から舌を離した。そのままペニス全体を口の中に収め、口でのピストンをはじめる。

 フェラチオのピストンは、性器内でのピストンよりも強い締め付け感を感じられ、普通男性の側があまり動くことはないのでシンプルに快楽に集中でき、頭を振って私を絶頂させようと奉仕する女性の姿に征服欲を満たされるという、男の複数の快楽に直結した行為である。女性の側がOKすれば口腔内への射精というある種のタブーを犯す快楽も得られ、女性が嚥下すればなお一層の征服欲を満足し、吐き出せばその汚れた姿に視覚的な興奮が得られる。

 頭を振るのだから、普通、オナニー時のピストンよりはピッチは遅い。

 しかし彩子は、大丈夫だろうかと思うほど早いピッチで私のペニスをピストンする。予想外の快楽に射精への衝動が起こり、足の筋肉の普段使わない部分が緊張し、彩子の頭を締め付けようとする。別方向に力を入れて彩子から足を離し、頭をのけぞらせて快楽に耐える。彩子のピストンのピッチが弱まり、振り切れる寸前だった射精欲のメーターが中腹に戻る、背筋の緊張を解き、頭を元に戻し、性器を口に含む彩子を視界に入れる。

 もう一度上目遣いに私の表情を確認した彩子は、ペニスを口から取り出す。彩子の唾液で白く光るペニスは、いつもの勃起時よりも長くなっているように錯覚し、その錯覚が新たな興奮を呼び戻す。

 彩子はペニスの皮の一番雁に近い部分を握り、オナニーと同じピッチで手のピストンを始める。また急激に射精欲が高まる。もっともっと高いところまで昇りたかったのだが私の体はそれに耐え切れないようだ。射精欲のメーターは振り切れ、あとはペニスの根元の筋肉が噴出しようとする精液をいつまでせき止められるかという段階になった。

「彩子、いく、口に出したい」

 普通に言ったつもりだが、明らかに声はかすれて上ずっていた。彩子はピストンしながら時々握った手の人差し指を剥き出しの亀頭部に当てて私を追い詰める。私がオナニーで射精する時に良くやる手技だ。体中の細胞のすべてが射精の快楽を受け止める準備をしているような錯覚を感じ、最後まで抵抗していたペニスの根元の筋肉が精液の噴出する力に負け、通過を許す。ペニスが大きく膨れる。瞬間に彩子は亀頭を口に含み、ほぼ同時に、まぶたの裏の視界が目が痛くなるような白色に光り、臓器の一部を引きちぎるかのような力で彩子の口の中に精液を噴出する。一呼吸置いて、ペニスの根元の陶酔感を伴う強い収縮とともに彩子の中に数回に分けて精液を注ぎこむ。

 彩子は一旦口を離す。少し上を向いて、すべての精液を飲み下したようだ。飲み下した後私の目を見て少し笑った表情をし、再度ペニスを口に含む。射精直後で非常に敏感になっているペニスを注意深く奥まで口腔内に収め、ペニスの管内に残存した精液をゆっくり吸い上げる。フェラチオ以外ではセックスでもオナニーでも得ることが出来ない、絶頂直後でなかったら痛みと苦痛にしか感じない「吸われる」快楽に、うめき声を上げ手足をばらばらの方向に硬直させながら必死に耐え、精母細胞までもが吸い取られるような新たな快楽を貪る。

 おそらく私は、吸われた後に、意識が朦朧となって眠ってしまったのだろう。気がついたときはもう太陽が高く昇っていた。

 時間は経っていたが、剥き出しの性器の爽快な違和感はまだ残っていた。



[ 2005.08.27 初出 ]




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